第29話 勇者の末路
前が見えない。混沌魔法の威力が高すぎて土煙がひどいね。それに魔力の消費もひどい。魔力切れまではいかないけど、残ってた魔力の9割以上持ってかれちゃったね。魔法に使う魔力量の上限は制限してたけど、制御そのものにかなり魔力を持ってかれちゃったみたいだね。
「[ウィンドブレス]」
この世界ではドラゴン系のみが使えるブレス系魔法も問題なく使えるね。風で土煙もちゃんと晴れてくれた。
「まさかこれほどの術を使えるとはな。」
おっと、やっぱり魔力障壁のおかげで勇者は生き残ったみたいだね。勇者"は"ね。
「褒めたところで何も出ないよ。それに今のにかなりの魔力を持っていかれちゃったのは事実だし。」
「そうかよ。まさか全軍を吹き飛ばすほどの威力を出すとは。」
「心配しなくても爆心地はあんただから遠くに吹き飛んだだけで、死んではいないよ。地面とか障害物にたたきつけられるようならそれから保護する術式だって組み込んでる。」
「何故敵に情けをかける?」
「人間を殺すのはボクの本望じゃない。そもそも友好関係を築きたいと僕は思ってる。あんたが僕たちを敵視して向かってくるならそれは迎え撃つしかないけどね。」
「そうかよ。」
「あんたの願望とは相いれないことくらいはわかってる。だからこそここであんたは殺す。」
「仮の魔王がでかい口を叩くもんだな。その力は認めるが。」
「そうだね。そろそろ答え合わせをしてあげようか。[フェイクカバー]」
「な、その姿は・・・!」
「君とおととい会った『魔王ナナ』なんて存在はいないんだよ。ただボクが姿を変えて脅しに来ただけ。てか、ボクの魔法の実力を見て察しなかったのかな?魔王が2人いて表向きにはボクを公表するっていうならわかるだろうけど、これだけの力を持っていて影武者ってのは無理があるでしょ。」
「確かにそうかもしれねぇな。だが、つまりは、だ。ここで貴様を殺せば俺たちの勝ちなんだろ?」
「まぁ、そうだろうね。魔力障壁を失った君にそれができるとは思えないけどね。」
混沌魔法[虚]その効果は圧倒的なエネルギーによる広範囲攻撃に加え、任意の術式を5つまで書き込むことが出来る。それが魔法として存在していないものだとしても。
今回書き込んだのは範囲攻撃に巻き込まれた者の保護と治癒、各地に飛んだ者たちを1か所に転移させるので3つ、魔力障壁を分解することで1つ、魔族へのエネルギー攻撃による影響の無効化で1つの計5つ。これで、ボクは無傷で勇者の魔力障壁は分解、軍勢は皆とある国の王都前に無傷で転移してるはず。
「あんなもんなくたって変わらねぇよ!」
そういいつつ、宝石みたいなのを取り出したけど、なんかすごい嫌な気配を感じるんだけど・・・
ゴクッ
って、飲み込んだ!?
「ハハハ、力がみなぎるぜ。俺が、俺こそがこの世界を支配するんだ。」
「もはや人間を辞めちゃったみたいだね。」
「その通り。今飲み込んだのは魔人の宝珠。今の俺は人間として最高峰の肉体と最強の魔人の力を併せ持つこの世界で最強の存在だ!」
「最強、ね。その肩書をボクは欲するわけじゃないんだけどさ、事実としてボクはこの世界で最強なんだよ。その肩書はボクを倒してから名乗りな。」
「お望み通り、殺してやるよ!{空力}!」
さっき以上の速さ。ボクの身体強化以上の速度を出せる。確かに身体能力だけで見ればボク以上だ。さっきまでの身体能力に強力な身体強化を扱えるんだから。でも・・・
ドサッ
ボクの前には無力なんだよ。
「な、何をしやがった。」
「随分と痛そうだね。魔人になっても痛みは感じるんだ。自分でもわかってるんじゃない?足を切り落としただけ。」
「その手段を聞いているんだが・・・」
お、魔人ってのは再生能力もあるんだね。一気にとはいかないけど徐々に再生してるや。
「ボクのスキルだよ。君の居た座標の空間ごと足を切り落とした。それだけの事。」
「空間に作用するスキルか。厄介だな。」
「残念。ボクのスキルはボク自身や世界のあらゆる物質、環境に対して自由自在に干渉できるスキル。個人に対しては効果を発揮できないけど、その対象を空間にまで広げれば今みたいに問題なく攻撃もできる。」
「まさか、全能の力、か?」
「よくわかったね。ボクのスキルは{全能神}。ボクの元居た世界ではいろんな伝わり方があるとは思うけど、文字通り全能の神として扱われることが多かったかな?」
「化け物が・・・」
「だから最初に言ったでしょ?ボクは化け物。最初から君に勝ち目なんてなかったと知りな。[ヘルファイア]」
勇者の体が燃え始める。魔人程度の再生能力では再生が追い付くわけもない。
その日全人類を洗脳し、魔族を根絶やしにすべく煽動した勇者は魔王によって打ち取られた。




