10話 償う者、そうで無い者 その4
次書く小説の前書きと後書きにはあらすじとか乗せてみようかな。やってる人見たことないから新しい試みになると思う。
まぁ、この作品ではやらないけど。
王国のとある村。
都からさほど離れた所ではないが、野山に囲まれのどかでまさに田舎という言葉が相応しい地。
そこを故郷に持つものが1人、王都から帰ってきた。
「………」
彼女がこの村を出て王都で暮らすようになってから、既に五年以上が経過している。久し振りの故郷だというのにその足取りは重く、顔つきは優れない。
まるで、帰郷することに怯えているようだった。
彼女を見つけた村の女達が彼女を遠巻きに眺めながらひそひそと陰口を叩く。
「ねぇ。あの子ってさ、グレイスちゃんじゃないの?」
「あらホント。恋人裏切って、間男にのこのこついて行って、どのツラ下げて戻ってきたのかしら。」
「ホントホント。お陰でノクト君は若いのに介護が必要になっちゃって。喉やられたせいで食事が取れなくなってチューブで栄養剤流し込まなきゃ生きていけない体になっちゃったのに。な〜んであの子は五体満足で生きてられるのかしらねぇ?」
「〜〜〜!!!」
陰口に耐えられなくなり、その場を走り去っていく。一目散に、人目から逃げるように実家に向かう。久し振りの実家は昔と変わらず、いや、それ以上に古くぼろぼろだった。
ドアをノックし、住人を呼ぶ。
コンコンコン
「………グレイスです。ただ今、帰りました。」
小さくそう呟く。ドアが開いた。出迎えたのは歳のせいか白髪と禿が目立つ初老の男だった。
父だ。昔よりも痩せ細ってしまっている。きっと、自分のやったことのせいで村では肩身の狭い思いをしていたのだろう。
「………おかえり。まずは、中に入りな。」
「………はい。」
招かれ、中に入る。
内装も自分がまだ住んでいた頃と殆ど変わらない。家具も少なくシンプルな部屋だった。
リビングに入り、椅子に座る。父も座ったところで話を始める。
「………お前が勇者について行ったあの日、ノクト君は大変な大怪我をしたな。」
「………」
出鼻から糾弾され、肩をすくめる。
「元々、お前は魔力量が多く、魔法の研究をたくさんして村の発展に協力したいと言っていたな。神の加護があることが分かってから、お前は更に研究に精を出すようになった。お陰で農作業が簡単になり、野菜の質も良くなった。害獣やモンスターも簡単に追い払えるようになり、とても助かったものだ。」
「幼馴染だったノクト君と婚約し、みんなも2人を祝福したな。あの時のお前は本当に幸せそうだった。親として、とても嬉しかったことを覚えている。」
「しかし、加護を持つ者を探してやって来た勇者と出会ってから、お前は変わってしまった。乱暴になり、研究する魔法も生活の役に立つ魔法から誰かを傷つける魔法に変わった。そして、それでノクト君を傷つけ、一生介護が必要な体にしてお前は村を去って行ったな。」
「あれ以来、私達は肩身の狭い思いをしたよ。陰口、誹謗中傷は当たり前。時には家に石が投げ込まれたり、直接暴力を振るわれることもあった。気付いているか?もうこの家には私しか住んでいないことに。」
「………あ」
確かに、今日は仕事も休む日。普通なら家族揃っていなければおかしい。それに、よく見ると埃だらけで掃除も行き届いていないことが分かる。綺麗好きな母ならこんな有様は作らないはずだ。
「お前の兄も弟も妹も家を出て行ったよ。母さんは嫌がらせに耐えられず衰弱して亡くなってしまった。」
「そん、な………」
「だが、もっと悲惨なのはノクト君の家族だ。彼は長男だったしあの家庭に男の子は彼しかいなかったからね。」
「………」
「大変だろうね。跡継ぎは要介護、娘は兄の存在を嫌がられて恋人に結婚を拒否されたし、お母さんは介護疲れで倒れて今でも寝たきりだよ。僕もたまに手伝いを兼ねて見舞いに行くけどね、あそこのお父さん、もういっそ心中してしまおうかとも言っていたよ。」
「そういえばさ、グレイス。お前は何故帰って来たんだい?帰って来たってことは大方予想はつくけどさ、なら真っ先に来るべきは此処じゃないだろ?」
「………ごめん、なさい。陰口に耐えられ、なくて………」
「お前が言うな。誰のせいでこうなったと思ってるんだ?これはお前が責任を取るべきことだ。………まだ話はあるだろうが、続きはお前が帰って来た一番の目的を終わらせてからだ。それまで絶対に戻ってくるな。来ても叩き返してやるからな。」
「………はい…いって、きます……………」
グレイスは肩を落としたまま家を出た。父はグレイスが外に出たのを見ると乱暴にドアを閉め、鍵を掛けた。
重い足取りでノクトのいる家に向かう。きっと、さっきまでの陰口など生温く感じる程なじられるだろう。しかし、それで家族の気がすむなら何度でもなじられよう。報いを受けよう。そう思っていた。しかし、足はなかなか進んでくれない。まるで、会うことを拒んでいるかのように。けど、会わないわけにはいかない。自分のした事を償わなければならないのだから。自分は彼らに償わなければならないのだから。
こうして進む事を拒む足を無理やり歩かせ、目的の家の前に着いた。
敷地内に入り、ドアをノックし、意を決して言う。
「………ごめんください、グレイスです。」




