8話 償う者、そうでない者 その3
いつのまにか500ポイント超えてた。ありがと。
「シャルロッテは今どうしている?奴は洗脳が解けたのち、教会に戻って来たと聞いているが。」
騒動の帰結からおよそ一月が経った。この間騎士団は騒動での被害者への手当てと同時に、勇者の洗脳被害を受けていた女達への手当ても行なっていた。
彼女らの中には洗脳の解けた者、解けなかった者がいた。
洗脳の解けなかった者達には勇者の死を認めさせ、諦めを付けさせてから解呪を。
解けた者達には危害を加えた相手の治癒や自分が裏切った相手への仲介などをして、償いの手伝いをした。
そして、それらが一通り済んでから、同じく洗脳の解けていた、拘留から解放された聖女達を様子見に来たのだった。
「はい………シャルロッテならこの先、奥にある懺悔室におりますが………その、もう彼女があの部屋に入って2週間以上たっているのです………」
「何?それはつまり、もう2週間、お前達はシャルロッテの姿を確認していないということか!?」
「はい………恥ずかしながら………」
「馬鹿者!それで奴が餓死でもしたらどうする!?確か、懺悔室には懺悔する本人以外は入れいない決まりだったはずだが、それでもこんなに長く放置する事はないだろう!」
「はい………仰る通りなのですが………一応、確認はしているんです。中に入れずとも、扉も前までは来るのは自由なので………未だ、声が聞こえるんです。シャルロッテの、震えた懺悔の声が。まだ彼女の懺悔が終わってない以上、私たちが入るわけにもいかないんです。」
「そうか………」
セネカルトが頭を抱える。シャルロッテも勇者の被害者。洗脳が解けた今、彼女も自分達の補助の対象となっているというのにそれができないというのは大変な事だった。
「………あぁ、そうだ。その決まりは聖職者にしか適用されないのか?」
「………?はい。一応。」
「なら、私は入れるんじゃないか?私は聖職者ではないし、禁忌には触れんだろう?」
「………はい。セネカルト様なら、大丈夫でしょう。………シャルロッテの居る懺悔室までご案内致します。私達について来てください。」
「分かった。」
そうして僧侶達についていきながらかなり長い廊下を歩き、廊下の端にある扉の前で僧達が足を止める。ここが目的地なのだろう。
「ここが懺悔室です。シャルロッテはここで不眠不休で懺悔をしています。………その間一食もとらず、一滴の水も飲まず。」
「………普通なら、すでに死んでいるな。」
「私たちはここまでです。………あの、セネカルト様。」
「何だ?」
「シャルロッテの犯した罪は確かに重いです。けど、さすがに、死ぬ程の事ではないんじゃないかと思います。どうか、助け出してやってください。」
「………」
問いかけには答えず扉を開け中に入る。
閉め切られていた部屋の中の生温い熱気と湿気がセネカルトを出迎えた。その不快感に思わず顔をしかめる。
「入るぞ、シャルロッテ。」
一言断りを入れて中に入る。
扉を全開にした事で一つの明かりもない暗い部屋に陽の光が差し込み、部屋の中心で体を震わせ土下座の体制をとりながら何かをつぶやいている。聞いている限り、どうやら聖書の内容を暗唱しているようだ。
近づいてみるとひどい異臭がする。そもそも部屋自体がカビ臭いし、シャルロッテ自身もこの部屋から出ずにずっとこのままだという事は風呂に入ったりもしていないのだろう。
「………気の毒に。」
2週間ぶりに再会したシャルロッテの姿は以前までが信じられなくなるほどにみすぼらしくなっていた。
痩せこけ、垢にまみれ、異臭も放つようになった。かつての美しい少女だった面影など何処にもない。
「………あ……………セネカルト様………?あれ………私幻覚でも見てるのかしら………こんなところにいるはずないのに………」
シャルロッテがこちらに気づき振り返る。しかし意識が朦朧としているのか、、こちらのことを幻影だとでも思っているようだ。虚ろな目に空虚な笑顔で、立つこともままならないのか這いずってこちらに近づいて来る。
「いたっ」
「………軽く触れただけだぞ?」
どうやら感覚が過敏になっているようだ。まぁ、それは置いといて。取り敢えず、会話をしよう。
「シャルロッテ、お前は懺悔室から出る気はないのか?もう既に二週間も経っているのだ、神への懺悔は十分だと思うが?」
「いえ………!私はアストロ様に仕える聖職者でありながらそのご意志を無下にしてしまったのですよ!加護を与えられ、アストロ様の使いである勇者様に殉ずることもせず、出来ず、ならどうやってアストロ様に詫びればいいのですか!?」
セネカルトは思わず顔を歪めた。
デュークから聞いたことがある。
勇者の力はすべてが神からの賜り物であるということ。
加護を与えられた者は勇者の好みによって選ばれたということ。
デュークが神世に攻め入り、「勇者」アーノルドを作り出し多くの人を不幸にしたことを詫びさせ、償いに神の恵みを与えさせたこと。
しかし、それでもあまり反省が見られないこと。
それらのことを思い返すと、未だにそんな奴を崇拝しているシャルロッテへの怒りが湧いてきた。
ぱしんっ
「………え?」
「お前はいくつか、間違えている。
まず、そんな自殺行為な懺悔は誰も求めていないということ。
次に、勇者に殉じて死ぬ事が神の意志だと思っていること。
そして、そもそもお前が罪を償う相手は神ではないということだ。」
「………」
「お前は元々はこの教会で働くただの一僧侶に過ぎなかった。それが勇者に出会い、加護を受けたことで変わってしまった。」
「お前は私と接した事が何度かあるだろう。私はお前が僧侶になったばかりの頃を知っている。貧しきに手を差し伸べ、虐げられている者を助け、常に節制し、祈りを欠かさなかった。それが、勇者に都合の良い人形となり、奴に少しでも悪感情を抱けばそれだけで虐げるようになった。」
「お前は私に言ったな、『少なくとも、私は手の届く範囲だけでも救えるような人間になりたい』と。今はどうだ?お前は、勇者の手先となってから1人でも救えたことはあるのか?」
「………」
「無いだろうな。」
これまでの自分のすべてを否定され、シャルロッテが膝から崩れ落ちる。
「………そこまで私をけなして、否定して、もう私に生きる価値なんて無いって言ってるようなものじゃないですか………」
「………誰がそんなことを言った?死ぬ事が償いになると思うなよ。自死などされてもそれで満足するのはお前だけだ。」
「じゃあ、私にどうしろっていうんですか!?」
「私と共に来い、シャルロッテ。懺悔はもういいんだ。お前がやるべきは償いだ。我らと共に勇者の被害を受けた者達を救い出すんだ。失ったものを行動して取り戻せ。そして、かつての自身の言葉に恥じぬ者になれるよう、もう一度目指せ。」
セネカルトが手を差し出す。外の光が彼女を照らす。その姿は、シャルロッテにはこれまで崇拝してきたアストロ神以上に神々しく、美しく見えた。これこそ、本当に自分を救ってくれる手なのだと思った。
「………本当に、いいんですか?私如きがこの手を取って。聖職者の本分を忘れ、勇者に溺れた最低な私がこの手を取って許されてもいいのですか?」
「許されるかどうかは、今後のお前次第だ。」
「………はい。これから、償います。私は、神の為ではなく、人々の為にこの命を捧げます。」
「………よし。では行こう。まだ勇者によって希望を失った者達はたくさんいる。お前も、彼らを救うんだ。」
「………はい。」
差し出されたセネカルトの手を取り、ふらつく足取りで懺悔室を出る。
久しぶりの陽の光がシャルロッテを出迎える。
「………中での会話、聞こえてましたよ。頑張って償いなさい。」
「………はい。行って、参ります。」
こうして、加護を受けた「僧侶」シャルロッテは、新たなスタートを切った。
償いを終えた先、かつての自分に恥じぬ者となる為に。
一応紹介
「なぜ飲まず食わずで生きてられたのか」
「神の加護」のおかげ。このスキルがあると死ににくくなる。下手に作用すると苦しいのに死ねなくなるので余計に苦しむことになる。




