番外1498 迷宮村と実践講義
マギアペンギンの雛達については氷晶湖もあって、子育ては結構捗っているとの事で。フォレスタニアにもよく遊びに来ているが……これについては環境魔力が良いのでそちらの面で居心地がいいので寛いでいるという話ではある。
「うむ。マギアペンギンの皆も平和そうで何よりじゃな」
そう言って頷くのはカーバンクル達の長であるフォルトックだ。
「カーバンクルのみんなは、暮らしていく上での環境はどうなのかな」
「儂らは問題ないぞ。城も居心地が良いし迷宮村も元々長閑なもんじゃからな。制限が外れた事で以前より過ごしやすくなっておるよ」
フォルトックに尋ねるとそんな答えが返ってくる。カーバンクル達もフォレスタニア城と迷宮村間でのんびりと暮らしていたりするので、自分達の子供達を育てる環境は整っているわけだ。
迷宮村の現在と言えば、農作物の作付けであるとか、村を流れる川や池からの釣りであるとか今現在は迷宮村の故郷としての立ち位置の他に、主に収穫の場として利用されている。
迷宮は外部での生活を促進するという背景もあって、一部区画以外は農作物の栽培ができないようになっているが……エンデウィルズや迷宮村、それにフォレスタニアといった区画はそうした例外的な区画に入る。
カーバンクル達は読心の能力だけでなく細々とした術も使えるし、手先が器用で、種を植えたり収穫したりといった事も普通にこなすからな。
迷宮村で農作業の手伝いをしていたりもするので、村の一員として暮らしてきたというのは間違いない。
今となっては迷宮村で農作業をする理由も薄くなっているが、カーバンクルに限らず、迷宮村は住民達にとっての生まれ故郷でもあるからな。
外に出られるようになったとは言っても、感情が自由に動くようになったことで逆に愛着が湧いたという者も多い。
なので少し生産規模を落としつつ畑は維持しているわけだな。外に出るための訓練はするが、それはそれとして休日を村でのんびり過ごしたりする者も多い。カーバンクル達にとってもそれは同じだ。
そのへんはそれぞれの選択に任せているが、迷宮村の外部で暮らせる事、出られるようになる事も大事だというのは分かってくれている。訓練に関してはみんな積極的に動いてくれるし、使用人として働いてもらった賃金や、迷宮村の農作物を買い取った代金を活用し、外で買い物をしたりもしているな。
タームウィルズやフォレスタニアの住民とも慣れ親しんでいる印象があるので、この辺は将来的にも安心ではあるかな。
氏族の面々にとっても、迷宮村の住民の今の暮らしが良い手本になると良いな。
生活訓練、職業訓練や社会的な部分への学びが終わって慣れていけば迷宮村の住民と同じような生活様式に落ち着いていくと思う。
さて。氏族達への講義も日々の仕事になっているが、氏族の中には農作業についても興味がある者が出てきているようだ。
その一環として迷宮村の農作業を体験してもらったりしてはどうか、という話が持ち上がったのは、船着き場でのフォルトックとの話の後でのことである。
迷宮村の話題を振ってみたところそろそろ人参やトマトの作付けの時期という話が出て、それにラムベリアが興味を示したのだ。
「それは……是非見学してみたいのですが」
「それなら、見学と言わずに一度体験してみるのも良いかも知れないわね」
「休耕している畑もあるので、そこを使ってもらう分には問題ありませんね」
クラウディアが笑みを見せてそう言うと迷宮村の住民達と頷き合い、ラムベリアを始めとした氏族達が明るい笑顔を見せる。
「おお。それは喜ぶ者も多そうです」
といった感じで割ととんとん拍子に話が進んだわけだ。氏族長としての立場というのもあるのだろうが、ラムベリア自身が農業に興味があるようだしな。氏族達の中にも興味を示す者は多いようで。
「農作業となると、中途半端には投げ出せないからね。希望者を募った上で、きちんと計画を立てる必要があるかな。実際やってみたら自分に合っていたとか、逆に興味があったけれど体験したら思っていたのと違ったっていうのはあるし」
ただまあ、農業で行っている事、作物がどういう過程で出来上がって食卓に上がるのかを知る、というのは結構重要だな。魔人達であった頃はそういう経験を必要としてこなかったし、新たな価値観に触れるという意味でもとりあえず初回は参加してもらい、興味のある者、実際にやってみて続けてみたいと思った希望者で分担して一先ず収穫し、料理して食べるところまでをセットに進められるようにしていくというのが良いのではないだろうか。
「収穫物を食べるところまでやってみるというのは良いですね」
アシュレイが微笑む。農業の醍醐味でもあるしな。
というわけで募ってみたところ希望者も結構多かった。今月は解呪儀式も予定されているが講義の一環でもあるし元々時間は割いているからな。これならスケジュールに組み込むのは問題なさそうだ。
というわけで季節に沿ってという事で氏族達も交えて作付けを行う事になった。
「と言っても、土地の開墾からするわけではないし、休耕しているだけで土造りはもうできてる。天候や食害の対策もいらないから、通常の農業に比べたらかなり楽ではあるね」
その辺は幻影で見せたり、訓練設備で仮想体験をしてもらうというのが良いだろう。開拓地の開墾を手伝いに行ってみる、というのも良いかも知れない。
というわけで迷宮村に向かう前に、まずは座学という事で、幻影によって開拓や開墾の様子を見てもらう。
日当たりや風通しの良くなりそうな場所を選定し、樹を切り、根を掘り起し、雑草や大小の石を取り除く。
「これはまた……中々に大変な作業ですね」
「術や闘気が使えないと、確かに大変だろうな」
ラムベリアの言葉にテスディロスも静かに頷いている。テスディロスやオズグリーヴ達も後学の為にという事で体験希望している。
一先ず通常の手順を、という事で魔法も闘気を使った方法も無しで幻影を見てもらっている。
「そうだね。でも、単純に魔法を使うというわけにもいかないんだ。土作りをしたり土地を休ませたり……前準備と維持に気を遣う必要があってね」
畑の作り方の説明も兼ねて土壌に含まれる栄養や土の質に関しての話もする。農作業の場面で安易に土魔法や木魔法を使ってしまうと、土壌の質を変質させてしまったり土地の栄養が失われてしまったりして、作物がきちんと育たなくなってしまうからな。
なので農業に関わる魔術師は専門の術式を修めていたり、結構研究を重ねていたりする。
「シルン伯爵領のミシェルはこうした農業関連の専門魔術師だね。地力に影響を与えない術式を使えたりする」
『恐縮です』
水晶板越しに一礼するミシェルである。例えば土魔法ならば、同じ目的でも土壌の質に合わせて術式を変えるといった事をするらしいし、木魔法や水魔法ならば成長を促進するのにも土を痩せさせないようにする、といった事をするのだと説明する。
『ノーブルリーフさん達は寧ろこの辺、地力を消費したり変質させたりせずに植物を強化してくれるようですね』
「魔物種族の術は特化していたりするからね。人の魔力資質じゃできない事もできたりする」
ミシェルの言葉を補足すると、真剣な表情で頷いていた。
「一先ず闘気に関しては問題ないわけですな」
「そうだね。ただ、闘気を使える面々は結構貴重だからね。開墾や農作業に闘気を活用しつつ、魔物にも対応するのは難しかったりという事もあるから、どうしても余力は必要になってくる。ヴェルドガルだと、開墾初期の段階で人員が派遣されたりもあるけれどね」
ウィンベルグの言葉に答える。リソースや使える手札が限られている、というのは中々に大変なものだ。そうした話をすると一同納得したように真剣な表情で頷くのであった。




