番外1499 氏族達の農作業
「開墾というのも一度はやってみたいところではあるな」
「確かに。術や闘気に関して不自由のない私達では、ゴブリンやらオークらの脅威に晒されながら開墾に従事している者達の大変さを理解するというのは、中々大変とは思いますが……」
ゼルベルが言うと、オズグリーヴが思案しながら言う。
実際そういった背景はあるかも知れないな。
「それでも体験してみる事は無駄にはならない、と思います」
エスナトゥーラが真剣な表情で言う。オズグリーヴもエスナトゥーラも、ハルバロニスで暮らしていた最古参の面々だからな。ハルバロニスにとって水田や周囲の環境改造による食料自給というのは大事な問題だっただろうし、その辺はハルバロニスで育っていない後の世代の氏族達より事情に詳しいだろう。
迷宮村の農業に関してはクラウディアやヘルヴォルテが最初に指導した部分もあるらしいからな。月の民やハルバロニスにとっては明るい分野、という事だ。
実際フォルセトは水田や栽培にも通じているしな。フォルセトも氏族の面々が農業に触れてみるという事で「助言できる事もあるかと思います」と参加を希望している。
ミシェルも水晶板の中継だけではなく、これからシルン伯爵領から訪問してくるそうなので、合流したら迷宮村に移動していく事になるだろう。
「ゴブリンあたりに遭遇しても皆なら大丈夫だろうし、開拓地に手伝いに行ってみるというのは良いかも知れないね」
そう言うと全員割と乗り気なようで、こくんと頷いていた。
非戦闘員だった氏族達とは言え、それでも魔人は魔人。ゴブリンやオークあたりなら普通に蹴散らして、その負の感情を食事にしていたという生活だったからな。ザンドリウスやリュドミラのような年少組さえその辺全く緊張感がないのは流石というべきだろうか。
開墾の体験学習を兼ねた手伝いについてはジョサイア王子に聞いてみたところ『では、手配してみよう』といった返答があった。
特にデメリットもないだろうから解答もそれほど時間はかからないとの事である。各地の開拓地については領主と連絡を取って場所を見繕ってみるとの事である。
まあ、そうだな。父さんのところとシルン伯爵領、オルトランド伯爵領あたりというのも良いが、解呪した氏族に関しての理解を広く深めてもらうという意味でも他の場所も考慮に入れたい。ウィスネイア伯爵、フォブレスター侯爵にドリスコル公爵、デボニス大公はこちらとしても頼みやすい相手ではあるかな。
ミシェルがやってきたのはそれから少ししてからの事だ。まずは氏族の面々との挨拶や紹介をしていく。
解呪した元魔人達という事でミシェルは少し緊張していたようではあるが……。
「よろしくお願いします、ミシェル先生」
「初めまして、よろしくお願いします」
といった調子で丁寧に挨拶をされて、程無くしてその緊張も解けたような印象がある。解呪された魔人達は非戦闘員が多いという事もあって、実際に接してみると結構素直で素朴な印象が強いからな。事前のイメージとは結構異なるだろう。
それに氏族の面々としてもミシェルに限らず、研究者や専門家といった面々に敬意を払っている印象というか傾向がある。色々学んでいる最中だから、何かの分野のエキスパートにまでなるという事の意味を意識していたりするのかも知れない。
「それでは参りましょう」
「案内するわね」
ヘルヴォルテが一礼し、クラウディアが楽しそうに笑う。クレアやシリルといった迷宮村の面々も付き添って、みんなで出発だ。
迷宮村に関してはフォレスタニア城からの直通路もある。タームウィルズの家での職業訓練にせよフォレスタニア城での使用人の仕事にせよ、迷宮村間と移動する機会も多いので。というわけで城の一角から転移門に入る。
「ようこそ、迷宮村へ」
「ふふ、村の一員として歓迎します」
転移の光が収まり、皆が次々と迷宮村の入口に姿を現すと、アルケニーのクレアとケンタウロスのシリルが楽しそうに歓迎の言葉を口にした。
「長閑で良い雰囲気ですね」
「景色が綺麗だし、小川の音が心地良いわ」
ミシェルの言葉に、リュドミラも笑顔を見せていた。今回同行している面々は迷宮村に初めてやってきた顔触ればかりだが、雰囲気を気に入ってくれているようだ。
「ふふ。遠景は映し出されているものではあるのだけれどね」
クラウディアも微笑みを見せ、ヘルヴォルテも表情がいつも通りではあるがうんうんと頷いていた。
入口から少し進めば、そこが畑になっている。まずは村を一通り見て、今日村で休んでいる面々とも顔を合わせてからが良いだろう。
「おお、よくいらして下さいました」
水晶板で先んじて連絡は入れているので村の住民達も俺達が到着すると広場に出てきて笑顔で迎えてくれる。
「今日はよろしくお願いします」
「急な話でしたのに快く応じて下さった事に、感謝しています」
俺の言葉にラムベリア達も続いて丁寧に挨拶をして、村の住民達も笑顔を見せていた。
「休耕地がそのままになっているというのも些か寂しい風景でしたからね。村も風景も賑やかになって良い事です」
そんな風に返答してくれる村の住民達である。農作業の際に休憩に集会所を使って欲しいとか、そこにお茶などを用意しておくとか、色々と親切な事だ。氏族長達もそうした対応は嬉しいものだったのか、笑顔で感謝の言葉を伝えていた。うむ。
氏族達の反応からしても畑を大切に扱ってくれそうで安心できるものがあるな。
そうして村の住民と言葉を交わし、村に滞在中の注意点を聞いたりした上で、改めて畑の方へ移動するという事になった。注意点と言っても、集会所の使い方であるとか農作業の際の準備や片付けの仕方であるとか、そういった内容だな。
というわけで農具や魔道具、作物の種と、必要な品々を持って畑へと向かう。
「休耕していますが土自体は問題ないという状態ですね。迷宮村の畑は雑草の混入もありませんし、外での農業に比べたら大分やりやすい方だったりしますので」
「ふふ。ハーベスタ達も支援すると言ってくれていますから」
アシュレイの言葉にハーベスタがこくんと頷き、浮遊する鉢植えのノーブルリーフ達もやる気を見せるように頷いていた。人参とトマトの作付けもきっと上手く行くだろう。
使って良いと言われた畑もそれなりに広々としており……これなら作付けの体験も、作物の世話のローテーションも問題なさそうだな。
「さてさて。では……手順をお見せしますので同じようにして種を植えていって下さい」
シリルが農具を手にそれぞれの作物に適した形、間隔を開けて土を軽く掘り返し、そうしてそこにクレアも種を撒く。
畝は風からの防御をしたり土を温めるのが目的となるため、迷宮村では必要としていないという場合も多い。
「外であれば畝を作ったりするところとお聞きしました」
「そうですね。方角や作物の性質を考えて土を盛ったり或いは一部掘り下げたりします」
クレアが尋ねるとミシェルが頷いて補足説明をしてくれる。
「迷宮村では必要なくても外で必要なら実際にやってみるのが良さそうね」
「確かにね。先人の知恵でもあるし」
クラウディアの意見に同意する。という事で畝も立てて作付けしてみようという事になった。
シリルやクレア、ミシェルの助言を受けて、班ごとに分かれた氏族達が少しおっかなびっくりといった感じで土を掘り返し「このぐらいで大丈夫でしょうか?」「もう少し掘っても大丈夫ですよ」といったやり取りを交わしたりしつつ、和やかな雰囲気で農作業が進んでいく。
種に土を被せたところで「これで大丈夫です」とオーケーが出されると、氏族長達は少し感動したような面持ちになっていた。
「何かを作ったり、育む事ができる……。良いものですね」
そんな風に言って頷き合っている氏族達である。確かに……そういう部分は氏族達にとっては未経験だな。思っていた以上に氏族達にとっては有意義なものなのかも知れない。




