番外1497 子供達の未来に
ルシールは俺達のやり取りを微笑んで眺めつつ、みんなの状況についても言及する。
「ステファニア様は復調と言って差し支えない回復ぶりかなと思います。グレイス様やステファニア様に限らず、循環錬気のお陰で回復も早いとは思いますが……やはり期間的にこれぐらいは、というように大事をとっておきたいというのはありますね」
「そうですね。循環錬気で回復を順調なものにした上で標準的な目安に合わせれば、僕としても安心できます」
「ええ、ルシール先生やロゼッタ先生の方針は良いものだと思うわ」
俺の言葉に、復調のお墨付きをもらったステファニアが笑顔で頷く。ロゼッタとルシールもそうした方針を明確にしているので、俺もみんなも納得している。
みんなの体調も次第に良くなってきているからな。時期にズレがあるのでイルムヒルトとシーラはまだしばらく安静にしておく必要があるかな。
「そうなると、マリー様ももう直に復調ですね」
「ええ。そうなれば、わたくしからも支援ができるようになるわ」
エレナがにっこりと微笑むと、ローズマリーも羽扇の向こうでこくんと頷く。表情を見せないようにしてはいるが、嬉しそうにしているというのは何となく分かる。
安静に、というのは魔法の行使も含むからな。ローズマリーが復調すればちょっとした身の回りの事にも使い魔や人形を動かして、みんなの支援というのも可能になるし。
ローズマリーの使い魔――ドッペルゲンガーのアンブラムも使用人の支援をする形で夜間等に俺達の身の回りの事をしていたりもするが、アンブラムの場合はそんなに自意識が強くはないからな。安静にしてあまり魔法行使もしないというのは使い魔との五感リンクも含むから、アンブラムの活動もそれに伴い控えめになっている。
変身していない時のアンブラムは大人しいので結構グレイス達や使用人のみんなに可愛がられていたりするな。変身させてメイクや髪型、服装を試すという事もできるので、姿見以上に客観視ができて女性陣に重宝されているという印象もある。何せ歩いている姿や後ろ姿も自由な角度で眺められるし。
ローズマリーが復調したらそうした仕事に加えて、セラフィナと一緒に子守りを手伝ってくれたりといった感じになるのではないだろうか。
いずれにせよまだ安静にしていなければならないシーラとイルムヒルトも含め、みんなの回復は順調だ。
「オルトランド伯爵家についてはどうなのでしょうか?」
アシュレイが尋ねるとルシールは頷いて笑顔を見せた。
「カミラ様もヴェルナー坊ちゃんもお元気で、経過は順調ですよ。私達としても安心しております」
そうだな。俺も訪問してエリオットを交えての循環錬気をしているが、体調も安定している印象があるのでそこは安心である。
これから予定日を迎えるオフィーリアに関しては安定期に入っていてフロートポッドもあるからな。フォレスタニアを訪問してきた折や工房に行った際にアルバートを交えて循環錬気をしているので、こちらも母子共に体調が良いというのは分かっている。
母子の安全の為にもロゼッタやルシールと引き続き協力して、細やかに見ていきたいところだな。
さて。子供達の健康や成長と言えば、マギアペンギンの雛達も成長著しい。
まだふわふわとした羽毛に包まれている者が多いが、体格が大分立派になってきて、大人達と殆ど変わらない大きさになってきているな。換毛の時期に差し掛かっている雛もいる。
マギアペンギン達は南極暮らしだからな。雑菌と接触する機会が少ないというのもあって、翻訳の魔道具や冷却、淡水対応の魔道具と合わせて発酵魔法の応用と浄化魔法で菌やウイルスといったものへの対策を加えていたりするのでかなり衛生的だったりする。
発酵魔法も浄化魔法も効果の割に消費する魔力が少なくて便利だ。こうする事でお互い安心して触れ合えるという対策ではあるが……子供達が生まれた現状でもそれは同じだな。
往診も終わり、フォレスタニア城の船着き場に移動してみんなで少しのんびりさせてもらっている。ステファニアも復調したし、アルバートとオフィーリアも訪問してきたので循環錬気がてら、といったところだな。
それにしてもステファニア復調や子供達の外出期間の話の後だと、マギアペンギンの雛達の成長も意識してみる分目につくというか。
俺の知る中で一番マギアペンギンに近いコウテイペンギンに関しては半年足らずで成鳥とほとんど変わらない程の大きさまで成長するという話を聞いたことがあるが……マギアペンギンの雛達はもう少し成長が遅いようだ。
この辺はマギアペンギン達が術を扱える種族であるからな。環境への対応力が高いために子育てに時間をかけられるというのがあるのかも知れない。雛達で集まってクレイシを作ったり、営巣地から少し離れた海まで食料確保に行くといったところはコウテイペンギンに似ているけれど。
マギアペンギンは魔物種族だからな。氷壁で自分達の身を守れるし、雛達の段階でも集団で氷魔法を行使して護身できたりするという事もあって、普通の野生動物に後れを取る事がない。野生の鳥等は天敵足りえないわけだ。
フォレスタニアの湖で泳ぐ大人達を見て楽しそうな声を上げている雛達である。大きくなってきても雛は雛だし、マギアペンギン達が種族的な傾向として明るい性格なのでまだまだ子供らしく甘えたい盛りで、行動は可愛いものだが。
「マギアペンギンの子供達も、大分成長したよね」
そう言うとティールがフリッパーをパタパタと動かし、明るい声でみんな元気で嬉しい、と答える。そんなティールの反応に、他のマギアペンギン達もティールのお陰だと感謝の言葉を伝えていた。翻訳の魔道具を介してのものなので、ニュアンス的なところはあるが。
そうだな。ティールが襲ってきた大型の魔物を引き付ける囮役を買って出たから他のマギアペンギン達も無事だった。親鳥達が多く生き残るという事は、沢山の雛達を助ける事にも繋がっている。
だからティールはマギアペンギン達から尊敬されている。群れの英雄というか自分達の恩人というか。群れがそうだから雛達もティールに懐いているという雰囲気があるしな。
「ふふ。ベシュメルクが良い方向に転じたのも、ティールさんの勇気と、テオドール様のお陰ですからね」
エレナがにこにこしながら言うとマギアペンギン達は嬉しそうにしていた。
マギアペンギン達は俺にも「だからティールを助けてくれた人の子供達が元気で育っているのも嬉しい」とそんな風にフリッパーを動かしながら伝えてくれる。雛達もこくこくと頷いて「うん。嬉しい」というようなニュアンスで意思を伝えてきた。
「ん。みんなが子供達と友達になってくれたら俺も嬉しいな。人の子は物心つくまでもうちょっとかかるけどね」
そう答えて雛のふわふわとした羽毛を撫でると、雛達は声を上げて「もちろん!」「待ってる!」といったような想いを伝えてきてくれる。うむ。
そんなマギアペンギン達の対応に、シャルロッテもうんうんと頷いている。みんなも和んでいるようで……良い事だな。
それに子供達の友達と言えば同年代にヴェルナーやオフィーリアの子、デイヴィッド王子やルクレインもいるからな。
少し年上にシオン達、カルセドネとシトリア、ザンドリウス達、迷宮村や氏族の子供達、孤児院の面々、ウィスネイア伯爵家のオリンピアと……兄姉に近くなる年代も多いので、子供達を育てる環境としてはかなり恵まれていると思う。近い年代同士の交流というのは年上側から見ても年下側から見ても大事な事だからな。




