番外1432 箱庭の街作り
ふむ。専用舞台か。前世の事は開示できない部分も多いが、想像の街並みという位置付けなら……ある程度情報も出せるかな。訓練にも使えるよう、この舞台に合わせた魔物も編成したり構築したりしておくか。状況に合わせて出現する訓練相手――敵戦力も設定できるしな。
それに……訓練用という位置付けではあるが、例えば記録媒体にデータを移して幻影劇に活用するなど、他の使い方もできる。応用範囲を増やしたり向こうの技術を魔法的に再現して現実に応用するといった方法でも参考になりそうだ。使い捨てにせず、継続して多少実験室的な使い方をしてみるという活用方法が良いだろう。
「それじゃあ、出来上がったら前世の街並みに案内するよ。それまでは、作業風景も一部隠しておいた方がいいのかな?」
『ん。私は待つ』
『そうね。実際に歩いてみるまで待った方が驚きも大きいかも知れないわ』
シーラの言葉にクラウディアが応じ、みんなもそれに同意する。
『ふふ、それじゃあ招待されるまでのお楽しみですね』
グレイスがそう言うとマルレーンもにこにことした明るい笑みを向けてくる。うむ。それじゃあ出来上がるまで作業風景の一部のみ、外部の幻影に反映させないようにしておくか。
少し作業スペースを大きめにし、会話は継続できるように俺の姿の方を幻影で映し出しておく。しばらくパントマイムしているような風景を見せてしまう事になるが。
ステファニアが子供達に俺の姿を見せたりして。少し笑って手を振ると、子供達もじっと水晶板を眺めたりしていた。
さてさて。では……どうしたものか。いざ日本の風景を作ってみんなに見てもらうとなるとあれもこれも見せたい、というものが出てきてしまうな。
作り込みにしても記憶力……というよりは細部を見たことのない生活圏から外れる場所やその辺りの建物の中など、知らない部分の方が大きいからそういうところは適当にでっち上げなければいけないが……。
そう、だな。綺麗な風景、神秘的な場所等々……見せたい風景は色々あるが、ここはやはり、あちらならではというものを作るのが良いのではないだろうか。
つまりは高層ビル群等の近代的な街並みだ。前世の街並みに案内し、みんなに楽しんでもらおうというのであれば一番喜んで貰えそうだし、見たことのない構造物に対応する訓練にもなる。
近代的な街並みであれば合理性も高いから、別の場面で参考になる部分もあるだろう。
ルーンガルドでは望むべくもないしな。そういう街並みを歩いているみんなというのを想像した時に、俺が見てみたい、と思った、というのもある。
そんなわけで記憶を迷宮核内部の仮想空間に表示させ、それを参考に都会的な街並みを構築していく。と言っても景久の生活圏内以外は、繋がりや細部は曖昧な部分も多い。
想像で補わなければならない部分もあるし、完全再現を目指そうとすると逆に大変だと思うので、いっそ開き直ってオリジナルの街を作るぐらいの気持ちでいこう。
まずは――そうだな。概ねの街並みを構想し、それに合わせた地下部分の構築からかな……。魔法建築のような手順で作った方が俺自身の経験も活かせるしな。
幻影のデータは大してリソースを食わないが、全て細部まで作りこむというのも無駄が大きいし作業量も多くなってしまう。
遠景はフォレスタニアのように映し出すだけ。案内する部分だけ内部も作るといった方法で進めるのが良いのではないだろうか。映画のセットのようになるがまあ、これはこれで削減の方法を考えるのが割と楽しい。訓練用の舞台が幻影劇に流用できる事を考えれば、これで練習してノウハウを積んでおくのも良いな。
地下鉄と駅ビル。オフィスビルの立ち並ぶ街並み。それに高層のビルやタワーといった街並みを想像し、案内できる部分、見えている範囲を細かく構築していく。
みんなも俺が作業しているところを眺めているだけというのもなんだろう。程々の所で区切って他の舞台を構築しているところを見せたり、みんなと相談して訓練用の魔物、魔法生物を構築したりといった作業も進める。
この辺は迷宮魔物のデータを流用できるところもあるな。オリジナルの魔物やガーディアンを構築しても良いが……その場合実際に再現となると魔法生物として、という事になるのだろうか。データ上なら良いが、実際に再現というのは気軽にやらない方が良いだろうな。
『ん。この魔物の組み合わせは結構つらそう』
『ふむ。効果的な組み合わせを考えるのは結構楽しいものね』
「色んな区画に跨って迷宮の魔物を好きに組み合わせられるってなると戦術にも幅が出せるからね。普通の迷宮探索と違って資源は得られないけれど」
シーラの言葉にローズマリーが思案を巡らせながらも同意する。
訓練という面なら実際に迷宮に降りるのは探索や潜入のノウハウを得られる。食材や素材調達、魔石を得て工房で活用といった事も必要なので、この辺は訓練用設備が出来上がっても利点が多々あるから継続していきたいところではあるな。
迷宮核での仕事を終えて、フォレスタニア城に戻る。今日の仕事は一先ず終わりという事でこのままみんなと一緒にのんびりとさせてもらおう。
みんなの復調や子供達の成長に合わせて、少しずつ外出も慣らしていく、といった感じで、フロートポッドに乗って中庭に出かけたりといった時間を過ごす。
子供達の外出用という事でフロートポッドに浄化の魔道具や温度と湿度の管理機能も組み込んだので、衛生管理や体調管理もできるようにしてある。
「おお。これはテオドール公」
「お仕事も終わりですか。おかえりなさいませ」
中庭に向かうとそこにはボルケオールと、工房の仕事を終えて戻ってきたカーラといった魔界から出向している面々がいて。俺達の姿を認めると相好を崩して挨拶をしてくる。
「ああ、二人とも。みんなで少し外の空気にも触れたいなって話になってね」
外出と言っても城の中なので家の中を移動しているだけではあるし、そもそもフォレスタニア内部なので外と言って良いのかもやや疑問が残るけれど。
そんな風に挨拶をしつつ伝えるとボルケオール達も少し笑って応じる。
「私達のようなファンゴノイド族の好みとはいささか異なりますが、フォレスタニアは温度も湿度も安定しておりますからな。御子息や御令嬢にとっても過ごしやすいでしょう」
と、ボルケオールが目を細めて頷く。
「そうだね。みんなが復調して、子供達も外出しても問題ない段階になったら、タームウィルズにも出かけて行きたいかな」
時期的にはおおよそ初夏ぐらいになる……かな? そうなると暑さや日差しへの対策もいるだろうか。
オリヴィアはヴァンパイアの血を引くクォーターだから、特にその辺は気を付けたいところだ。解析では陽光に対しての耐性が高いようではあるが、まだ生まれたばかりという事を考えれば多少過保護なぐらいで丁度良い。
オリヴィアに限らず過保護すぎるのも問題だが……その辺はもう少し身体がしっかりと成長してきたらで良いだろう。
ボルケオールはキノコ茶持参との事で……折角なのでみんなと共に東屋で日に当たりながら茶を飲ませてもらう。
ファンゴノイド族のキノコ茶については既に効果や成分も解析済みだ。身体を温める効果と魔力の流れを整える効果という……中々不思議な茶だがいずれにしても安全で身体にも良い事が分かっているので、安心してみんなで飲む事ができるな。
ラヴィーネやアルファ、ベリウスといった面々も日向に寝そべって欠伸や背伸びをしていたりと、平和なものだな。




