番外1433 大切な記憶を
「うふふ。御子息やご息女はきっとさぞかし美人に育つのでしょうね」
カーラはフロートポッドに乗って周囲を見て目を瞬かせているオリヴィア達を見て、嬉しそうに言う。
種族そのものが総じて造形に一家言あるというのがパペティア族の特色みたいなものだからな……。
「ほうほう。それは将来が楽しみですな。その辺はパペティア族の審美眼や経験則に基づくものだったりするのでしょうか」
ボルケオールが尋ねるとカーラが頷く。
「そうですね。私達は普段から色んな種族の小さな頃やそのご両親にも注目して、造形の参考にしていますから……ある程度は信頼して頂いても良いかと」
「それは何と言いますか……。確かに将来が楽しみではありますね。親としては健やかに育ってくれればとも思いますが」
カーラの言葉に笑って答えると、みんなもにこにことした笑みで頷いたり、そっと子供達の髪や頬を撫でたりしていた。
「私もこの光景をしっかりと皆の所に持ち帰らなければなりませんな。皆にはこの辺の記憶を多めに持ち帰るようにと、茶を取りに行った時に頼まれております」
ボルケオールがみんなの様子を見て頷き、そんな風に言った。ファンゴノイド族は一族代々知識や記憶を集積しているからな。こうした光景がそういう位置付けなのは……魔王国やファンゴノイド族からの好意を感じるというか。
パルテニアラの事を記憶していたのもそうだが、ファンゴノイド族は一族の記憶を共有するから義理堅いというのがメギアストラ女王の評価だ。ジオグランタやパルテニアラからもその辺の見解は一致している。
「そういう事なら記録媒体の映像も見ていってもらうのは良いかも知れないわね」
「おお。それは良いですな。拝見できるものであれば是非」
クラウディアがそう言うと、ボルケオールは目を細めて頷く。俺としては否やはないので、記録媒体を持ってきてボルケオールとカーラにもそれらを見てもらうという事になった。
ティアーズが箱に収まったそれらを持ってきて……東屋で茶を飲みつつ鑑賞する。ボルケオールはそれらを時折頷きながらしっかりと記憶しているようだった。
「ふっふ。これは大事に持ち帰らせてもらいましょう」
楽しそうに笑うボルケオールである。オリヴィア、ルフィナとアイオルト、エーデルワイスと……子供達の寝顔や笑みが映し出されたりして。カーラもそうした光景にうんうんと頷く。
「喜んで貰えるのなら良かった」
これらの映像がファンゴノイド族の記憶として大切に伝えられていくというのは、俺としても何やら不思議な感覚にはなるが。そういった好意を向けてもらえるのは悪い気はしないな。
映像と言えば魔界に関しては前の代の魔王……セリアと魔王になる前のメギアストラ女王との幻影劇も作るという話も進んでいるな。
魔人達の氏族結集の事もあるし新作の幻影劇も上映されているから工程が保留になっていたが、セリア女王とメギアストラ女王の話に関しては前に進めていきたいところだ。迷宮核で訓練用の舞台作りをしているし、あの技術も幻影劇に応用してみるか。
実際の所、自分で夢の中に入って触覚や嗅覚等も伴うぐらいしか幻影劇との違いがないしな。後は工房に持ち込んでフォーマットを変えてもらって、劇場上映に最適化する、といった工程で良いはずだ。
「映像と言えば……氏族達の事が一段落しましたから、セリア女王とメギアストラ陛下の幻影劇に関しても進めていきたいものですね」
キノコ茶を飲みながら、映像を見終わったところでという話題も出すと、ボルケオールは顎に手をやる。
「ふむ。セリア陛下の記憶なら我らも保有しておりますぞ。あの当時の我らは里で暮らしておりましたが、セリア陛下が相談に訪れた事がありましてな。良ければ記憶を見にいらっしゃいますか?」
「ああ。それは良いですね。幻影劇を作る上で参考になりそうです」
セリア女王の姿はメギアストラ女王が映し出した幻影で見せてもらっているが……ファンゴノイド族の記憶や視点というのも興味があるしな。ボルケオールも魔界に記憶を届けに戻る用が出来ただろうし、折角だしそれに同行させてもらうか。
「ボルケオールさんが記憶を届けに魔界に戻るのなら、それに同行してもいいでしょうか?」
「勿論喜んで。明日には向かう予定でおりましたが……いかがでしょうか。私の方は日程に融通はつけられますぞ」
尋ねてみるとボルケオールがそう言ってくる。みんなは大丈夫、というように頷いていた。
「そうですね。今は緊急の用事を抱えているわけではありませんし、各所への連絡をしておけば割と融通が利く体制を構築してあります。ただ、メギアストラ陛下には予定を尋ねておく必要はありますね」
いきなりの訪問というのも何なのでメギアストラ女王にも連絡を取る。魔王城とは迷宮を通して繋がっている。出かけるにしても帰ってくるにしても、厳重さはともかく気軽に行き来できるので時間はかからないが、いきなり歓待等々という話になって負担をかけたくはない。
「――というわけなのですが、そちらのご都合等は如何でしょうか」
『うむ。テオドールなら何時来訪してもらっても構わぬぞ。皆も喜ぶだろう』
割と突発的な訪問の打診なのでその辺の事を含めて伝えてみたのだが……メギアストラ女王からの返答は二つ返事で快いものであった。ジオグランタのスレイブユニットではなく、本体もその隣に顕現して頷いていたりして。
「セリア陛下に関しては、私も興味があります。御一緒してもよろしいでしょうか?」
「我も訪問してもいいかの」
カーラと共に中庭に顔を出していたルベレンシアもそう尋ねてくる。
「僕としては問題ありませんよ」
そう答えるとカーラはアルバート達に確認も取っていたが、工房側も問題ないとの事で、一緒についてくるという事になった。パペティア族の仲間達や司書時代の知り合いにも挨拶してくるとの事である。ルベレンシアも魔界への帰省という事で笑みを浮かべて頷いているな。
「では、三人や護衛の面々と一緒に、そちらに伺わせて頂きます」
『うむ。待っておるぞ』
『楽しみにしているわ』
メギアストラ女王とジオグランタも笑顔で応じる。
では……明日は少し魔王城に顔を出してくるとしよう。ボルケオールとカーラにとっては帰省でもあるし、少しゆったりとしたスケジュールで動くのが良さそうだな。
「それじゃあ、行ってくる」
「はい、お気をつけて」
「いってらっしゃい、テオドール様」
――明くる日。ゆっくりとした時間に動き出して魔界へ向かう前にみんなと言葉を交わす。子供達の事もあるので向こうに滞在するというわけでもないから、荷物等々も少なめだ。
今回は護衛役としてエスナトゥーラとルクレイン、フィオレット。ゼルベルとリュドミラ、ルドヴィアとザンドリウス、カストルムやアルハイムといった面々も同行する。護衛役というよりは、まだ魔界を見たことのない面々だから、挨拶がてら訪問するという側面の方が強い。そもそも魔王城内部に出るのだから護衛はいらないと言えばそうなのだ。
訪問中ルーンガルド側にいるみんなと話をするために、中継役になってくれるハイダーも一緒だな。
テスディロス達は俺が不在の間、フォレスタニアを守ってくれるというわけだ。
そんなわけで護衛役の面々、ボルケオール、カーラ、ルベレンシアと城の玄関ホールで合流し、魔界へと向かう事になった。
迷宮のシステムを使ってみんなと共に転移。魔界との連絡通路を通って境界門の間へと向かう。
境界門の間の様子は変わらずといったところだ。ライトアップされた水路と咲き誇るフェアリーライトで彩られて、神秘的な雰囲気があるな。解呪した面々は「おお……」「綺麗な庭園ですね」と、見入っている様子であった。




