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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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186 大公デボニス

 ……ローズマリーの理想としては恐らく、王権の強化と中央集権なのだろうとは思う。
 グロウフォニカとの親善は弟に任せて自身は独自の派閥を形成していたあたり、外戚に力を持たれるのを望んでいない。ジョサイア王子とステファニア姫のやり方を踏襲するあたり、大公家と公爵家の王家への影響力を削ぎ落としたいと考えているのは明らかだ。

 能力主義という部分にもそれは現れていて――ローズマリーの考えで行くのなら、その両家よりも、優れた魔術師や神官、巫女あたりとの婚姻を「迷宮と王家の将来のために」重視することになるだろう。アルバートとマルレーンという実例が既にあり、ローズマリーはあの2人の実力を認めているわけだし。

 メルヴィン王と第一王妃は、どちらにも肩入れしないことで両家の争いをさせない方向に持っていっている節がある。第一王妃との婚姻で大公家の顔を立てた後は、第二王妃、第三王妃はいずれも両家と関わりがないようになる選択だし。
 そんな背景を念頭に今の状態を俯瞰すると……。

「……外戚に警戒してたから、マルレーンの暗殺未遂事件をあまり深く調査できなかった?」
「警戒というより、関係の維持かしら。藪を突き過ぎて蛇が出てしまうといかにも拙いということでしょう。魔人の襲来の後でまずは立て直しが急務であったし、そのための協力を大公家と公爵家にも求めていかなければならないわ。仮に徹底した調査を進めて、もしどちらかの家との関わりが出てしまうと、関係の悪化は避けられないでしょうし」

 結果としてロイの後釜に大公家の人間を据えたあたり、ロイと大公家との関わりはなく、奴の単独犯であったわけだが……ロイはそのへんの事情を分かっていてやったと思われる。
 とは言え、メルヴィン王にとってもずっと引っかかっていることで……最近になって俺の調査を後押ししたのは、当時とは状況が違っているからなのだろう。

 ローズマリーが、メルヴィン王が動きやすくなっていると言っているのはそのあたりだ。
 死睡の王襲来による爪痕も大分復旧が進んでいるし、騎士団も立て直されて人員も装備も刷新が進み、かなり王家が両家に対して強く出られる。
 俺自身も、どちらとのしがらみも無いしな。

「デボニス大公は、今日王城に来ているはずだから……ま、一応知らせておいたほうがいいかと思ったのよ。デボニス大公は愚物ではないから、問題はないと思うけれどね」

 なるほど。メルヴィン王の来客というのはデボニス大公であったか。
 大公の次男がメルヴィン王の従弟ということなのだから――大公にメルヴィン王のおばが嫁いでいるということになるだろうか。家系図は色々とややこしいことになっているだろう。



 ローズマリーとの話を終え、再度メルヴィン王との面会を取り次いでもらうために王の塔へと向かうと、その途中で初老の男が供の者を伴い、向こうからやってくるのが見えた。
 俺に目を留めると、静かに口を開く。

「ふむ。その髪と瞳の色。噂に聞く異界大使殿かな。私はデボニス=バルトウィッスルという」
「デボニス大公でいらっしゃいましたか。ご賢察の通り、僕は異界大使のテオドール=ガートナーに相違ありません」
「……うむ。活躍は聞いておるよ。精進するが良い」

 デボニスはそのまま立ち去って行った。
 ……何というか、もう少し何かあるものと身構えていたんだがな。あまり俺に深入りしないように気を遣っていたようにも思える。それに、最後に少し目を細めて笑ったあの表情は何というか……疲れた人間のそれというか、何やら寂しそうにも見えた。

「――テオドール君か」

 デボニス大公が消えていった廊下の奥を見ていると、背中から声をかけてきたのは王太子のジョサイア王子であった。

「これはジョサイア殿下」
「こちらにデボニス大公がお見えにならなかったかな。君に、何かを言っていたかい?」
「一言二言、挨拶をかわしましたが……」

 その印象について言っても良いのかとも思うが、ジョサイア王子は先を促すように俺を見てくる。

「何やら、少々お疲れのご様子でした」
「そうか……」

 俺の返答にジョサイア王子も何やら渋面を浮かべている。

「父上との話の後に少し時間を頂いてね。公爵家との確執や、ロイの一件についての話をしたのだが……少々感情的になってしまったからな」

 何か、言い過ぎた点があったのか。
 マルレーンの暗殺未遂事件が起こった背景に、大公家と公爵家の確執があったというのは事実だろう。ロイが、それを利用したのも事実だ。

 デボニス大公の視点で見るなら、あまり便宜を図らないメルヴィン王や第一王妃、ジョサイア王子、ステファニア姫達には不満を持っていただろう。
 だがロイだけは違った。後釜に大公家の人物が据えられたというのは、ロイがある程度大公との距離を近付けていたということでもある。
 だからロイの考え方にデボニス大公の行動や言動が影響しているというのは……考えられなくもない話だ。

 それを、ジョサイア王子が咎めたというところか。ジョサイア王子にしてみればロイは元々仲の良い弟だったのだし……デボニス大公に不満の1つも言いたくはなるだろう。
 大公ほどともなればそんなにヤワな考え方をしてはいないだろうが……俺と距離を取ったところを見るに、実際ジョサイア王子の言葉がかなり堪えたのかも知れない。

「……後悔なさっておいでなら、一言お声をかけて来れば良いのではありませんか?」
「――そうだな。そうしよう」

 ジョサイア王子は俺の言葉に苦笑すると、足早に廊下を歩いて行った。



「おお。待たせたな、テオドール」

 サロンで待っているとメルヴィン王が姿を現す。

「はい」

 すぐにお茶が運ばれてくる。

「先程北の塔に行って参りました」

 デボニス大公やジョサイア王子とのことは俺が首を突っ込むことでもなさそうだ。
 俺は俺の話を進める。まずローズマリーとの間で話したことをメルヴィン王にも伝えた。シルヴァトリアに絡んだことであるため、ここからの話にも関わってくることだろうから。

「なるほどな……。結界術の祖――精霊殿と月光神殿を築いた者達とシルヴァトリアの繋がりか……有り得ぬ話ではない」
「先日の魔術師達については、何か判明したのでしょうか?」
「あの者達はシルヴァトリアのジルボルト侯爵の家臣だそうだ。当人達は元家臣だと言い張っているが魔法審問対策として、形式上そう整えたものであろうと見ておるよ」

 実際、形式上整えてあれば嘘ではなくなるし、向こうも申し開きできるというわけだ。予防線を張っているところから考えると、抗議しても知らぬ存ぜぬで通す可能性は高い。
 しかしジルボルト侯爵ね。シルヴァトリアの貴族にはあまり詳しくないから、どんな人物かは分からないが……。

「例の王太子の派閥に属する者ではあるが……あまり良い噂を聞かぬ人物だ。それだけに王太子にまで繋がっているとは言えんな」

 ジルボルト侯爵の独断か、それとも王太子の意向かというところか。そのへんはあの2人を審問しても判断が付かなかったのだろう。
 当人達の見解を聞いても意味がないだろうしな。そもそも、こっちに工作員を寄越す理由がまだ今1つ見えてこないし。

「魔術師達の身元についての確認と抗議。この点は確実に行うこととしよう。王太子の耳には入らぬよう親書を(したた)める。更にベリオンドーラの一件についての警告も必要ではあるか」
「確かに……。普通の使者では王太子が邪魔をしてくる可能性はありますね」
「うむ。それから、ランドルフとスクグスロウの尾についてであるが」
「はい」
「ランドルフが不正により貯め込んだ蓄財は没収。これを被害者らの補填に充てる。スクグスロウの尾も、多少の実証実験を経て廃棄。こんなところか」

 まあ……妥当だな。ランドルフがどの程度貯め込んでいたのかは知らないが。

「……ということで、肩の凝る話はこのへんにしておくか。余としても今日は少々疲れている。南方の統治に関しては、まだ色々とごたついていてな」

 デボニス大公の用件はそれか。デュオベリス教団の力が削がれたが、それはそれとして南方は色々大変そうである。

「では話題を変えましょうか」
「そうだな。アルバートから聞いたが、そなた達、中々面白そうなことをしているようではないか」
「東区に店舗を構えるという話でしょうか」
「そう、それだ。そこで売ろうとしているものを城でも注文しておこうと思ってな」

 ビリヤードとダーツ。それにカードもかな。かき氷機や炭酸飲料などもだろうか?
 娯楽室関係についてはアルバートから話を聞いたのかも知れない。確かに城に置くと良い宣伝になりそうだ。

「王の塔と騎士の塔。それから迎賓館に設置しようと思うのだが、可能かな?」
「分かりました。できるだけ早くお届けできるようにします」
「うむ。よろしく頼むぞ」

 そんな風に、メルヴィン王はアルバートに似た印象の笑顔を見せるのであった。
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