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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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187 職人と宴会と

「……というわけで、最初の注文は王室、及び王城への納品となります」

 メルヴィン王からは店への注文ということなので、俺が作るのではなく職人達が作ったものを納品という形を取ることになっている。
 商工ギルドの親方連中のところからミリアムが引っ張ってきた職人達を前に、現状の説明をする。比率としてはやはりドワーフが結構多い。場所は東区。ミリアムの探してきた店舗の中に集まってもらっての説明だ。店舗の裏手が庭になっているので、そこを加工場として利用していく形である。

「いきなり王室……」
「そいつは景気の良い話だな」

 俄かに色めき立つ職人達である。
 うん。俺としてもこれがモチベーションに繋がってくれることを期待している。最初の仕事としてはこれ以上は望めないだろう。

「というわけで、これが製品の見本です」

 布を取り去り、商品見本を職人達に見せる。完成品そのままの形と、素材や部品ごとに細かく分解し、組み立てられる形にしての提示だ。
 他所にはない品が多いので、まずどんなものなのか理解してもらってからだ。商品の内容を理解してもらうには、実際に触れて遊んでもらうことが一番だろう。親睦を深めてもらうという狙いもあったりするが。

「うん? こいつぁ……魔法で形成したり、磨いたりして作ってるのか……?」
「俺達も魔法でちょっとした部分を加工するってことはあるけどな……。にしたって、とんでもねぇ……」

 職業柄、目を付ける場所が違うようで。光に翳すようにビリヤード玉の球体表面を見たりカードの裏の柄を並べたりと、真剣な表情である。

「これらを作っていただきたく思います。今後、また別の試作品を持ってくることもあると思いますが。それと――商品にはこの意匠を焼いたり、彫ったりして入れて下さい」

 石のメダルをテーブルの上に置く。意匠を見て職人たちはなるほどと頷いている。

「面白そうじゃねえか。魔法でここまでのものを見せられたんじゃ、本職の俺らが負けてるわけにゃあいかねえぞ」
「だなぁ。やりがいがありそうだ」
「実際に遊んだり使ったりして、試してみてください。どこに気を付ければ良いものになるのかというのも見えてくると思いますので」

 そんな風に言うと、職人達はにやっと笑って、ルールを読んでダーツを投げたりカードを始めたり、かき氷機を回したりと思い思いに過ごし始めた。
 炭酸飲料を一気飲みして目を白黒させているドワーフ職人である。髭で綿あめが食べにくそうだったりもするが、それを職人仲間に指を差されて笑われたりしていて……まあ楽しんでくれているようで何よりだ。

「どうでしょうか?」

 俺が説明を終えたところで、ミリアムが尋ねてくる。

「腕前のほうはこれから見せていただく形ですが……頼りがいがありそうですね」
「それは良かった」

 ミリアムは笑みを浮かべる。
 魔法で作ったとか分かるあたり経験も豊富そうだしな。観察眼が優れているなら良いものを作ってくれるだろうし、モチベーションも高そうだ。

「店舗開店の準備はこれで大体整った感じかな?」

 アルフレッドが笑みを浮かべる。

「そうですね。看板もできましたから」

 ロゴマークの吊り看板である。銅板で作った、見栄えのする作りで……これはビオラが加工してくれた。
 店舗の銘はブライトウェルト迷宮商会。
 ブライトウェルト工房からの派生であり、工房で作った商品を流通に乗せるものだからだ。迷宮の部分は境界劇場とセットにしたいとアルフレッドが言うので、ならばと組み込んだわけである。

 今後、ある程度迷宮村の住人や孤児院の子供達の雇用先にしていければとも考えている。王城に商会の製品を置くことで話題になれば発注も見込めるかなとも思うのだが、どうなることやら。

「というわけで、開店記念ではないけど……アルフレッド達やミリアムさんを、家に招待したいんだけどどうかな」

 約束していた通りにという感じだ。そんな風に告げるとミリアムが目を輝かせるのであった。



「今日はお招きいただきありがとうございます」

 冒険者ギルドの受付嬢ヘザーが丁寧に頭を下げる。冒険者ギルドからはアウリア、オズワルド、ヘザーの3人が来ている。フォレストバードとユスティア、ドミニクも一緒だ。
 ヘザーは元々俺との接点が多かったこともあり、最近は劇場関係の仕事もしているのだ。

「どうぞ、こちらへ」
「ほう。これは」

 セシリアが案内に来ると、アウリアが少し目を丸くする。

「アウリアという。よろしく頼むぞ。森の友よ」

 少し緊張したような面持ちのセシリアであったが、アウリアのほうから笑みを浮かべて手を差し出す。

「こちらこそ、よろしくお願いします。アウリア様」

 セシリアも笑みを浮かべてその手を取る。

「といっても、森には暫く戻っておらんからな。儂のようなものが森の友などと口にするのはおこがましいが」
「私も似たようなものです」
「そうか。今は同じ土地で暮らす者同士。何か困ったことがあったら何時でも相談に乗るぞ」
「ありがとうございます」

 アウリアが気さくなこともあり、無事に打ち解けたようだ。森から離れて人里に慣れているエルフは、あまり種族の掟に拘らない。一応知ってはいるが、その中でもアウリアはまた特別というか、理解の深いところがあるからな。



 招待客も続々やってくる。宴会の招待客の内訳だが、工房関係者としてアルフレッド、ビオラ、タルコット、ミリアム。それから職人達の親方ドワーフ。それにオフィーリアとシンディー。月神殿から巫女頭のペネロープと、孤児院の院長サンドラ。騎士団からミルドレッド、チェスター、メルセディア。迷宮村の住人もいることも手伝って……中々大人数で賑やかなことになった。
 ……いや、最初はここまで大がかりにする気もなかったのだけれど。何人かに声をかけたらあっという間にという感じだったのだ。

 まあ、宿泊もしていくのは工房関係者の一部ぐらいだが。

 娯楽室と中庭にはグレイス達とセシリア、ミハエラ、それに迷宮村の住人達が作った料理が用意されている。朝から準備していただけあって、かなり豪勢だ。鳥に香草を詰めて焼いたものであるとか、色々趣向を凝らしている。

「開店記念ということで、こうして皆さんにお集まりいただき、嬉しく思います。ささやかな席ではありますが、今日は楽しんで行っていただけたらと存じます」

 そう挨拶して頭を下げると、列席者から拍手が起こった。

「僕のつまらない挨拶より演奏を聞いていた方が楽しいと思いますので、ここは彼女達に譲ります」

 そんな風に言って、もう一度一礼して噴水の縁から降りた。
 俺の挨拶が終わるとイルムヒルト達が演奏を始める。宴会に相応しい、明るく賑やかな旋律である。聞いているだけで浮かれてくるような気持ちになるのは流石ではあるか。

「あれは珍しいですね! いや、このお屋敷にあるものは珍しいものばかりなのですが……。次の満月まで待たずに彼女達の演奏を聞けるとは役得です」

 ミリアムが目を輝かせている。その視線の先にはシーラの叩いているドラムセットがあった。イルムヒルトと笑みを向け合って、随分と楽しそうに演奏しているな。

「何種類かの打楽器を1つに纏めたものです。ある程度熟練すると、ああやって1人で打楽器を受け持てるというわけですね。シーラの場合は熟練というより本人の器用さですが」
「なるほど……」

 風魔法を組み込んだ耳当てでドラムの音量から聴力を防御しつつも、シーラのリズムは正確である。ドラムスティック捌きも見事なものだ。器用さと反射神経に優れているからこそではある。

「あれも商品として売りに出しますか。店舗が軌道に乗って余裕が出て来てからのほうが良い気もしますが」
「そうですね。画期的だと思います。楽士の知り合いもいますから今度意見を聞いてみようかと」

 と言いつつも、ミリアムは何かしら確信めいたものがあるようにも見えた。
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