挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

194/1322

185 王家の事情

 開店準備はミリアムが必要なものを買い揃えて運び入れたりと精力的に動いているようなのでもうじきというところだろう。
 俺は平常通りに訓練などを進めていくわけだが、シーラにもある程度落ち着いた時間をあげたいところだ。
 というわけで今日の訓練は休み。王城に向かってメルヴィン王とローズマリーから諸々の続報を聞いてくることにした。

 まずメルヴィン王への面会の申し入れをしに行ったところ、メルヴィン王は来客の応対があるので暫く時間が空かないということであった。
 それならそれで、先にローズマリーから話を聞いてくるべきだろう。
 後でまた面会の取り次ぎを申し入れに来ると伝え、頭を下げる侍女に見送られて今度は北の塔へ向かう。浮石に乗って塔を昇り、ローズマリーの部屋に顔を出す。

「問題は解決したのかしら?」

 俺の顔を見たローズマリーは開口一番そんなことを言った。

「一応。街中は少しごたつきそうだけど」
「あの手の薬を扱おうとするのは……裏社会に繋がりのある商人関係かしら。顔役がいなくなったら少しは混乱がありそうではあるわね」
「まとめ役は他にもいるみたいだから、混乱も長引きはしないだろうけどね」
「そう? それならいいけれど。まあ、こっちはこっちで話を進めましょうか」

 いつものようにテーブルを挟んで向かい合っての話となる。

「前は確か――魔人関係で古文書の解析を進めるって話だったかな」
「ええ。年代ごとに暗号どころか、使われる文字や語句の用法まで変わっていたりして、頭が痛くなってくるのだけれど……。魔人と封印についての関連で、文献を追ってみたわ。かなり昔、魔人が現れてから……人間達との間で大規模な戦いが幾度か起こった……というのは言い伝えの通りよね」

 いくつかもの国が滅ぼされて、連れ去られた者達も魔人の家畜(・・)として地獄の苦しみを味わっただとか言われている。魔人連中は強者を認める傾向があると言われるが、反面弱者に対しては容赦がない。
 元より連中の食性が他者の負の感情である以上、どうしても捕食する側される側という立ち位置になってしまう。友好を求めて使節団を遣わしたら八つ裂きにされただとか、そういった逸話は枚挙に暇がなかった。

 ということで魔人との戦いは熾烈を極めたそうだ。魔人との戦いで散逸した資料も多く、あまり文献としては残っていない。
 そういう点で言うなら、タームウィルズはクラウディアの庇護の下、一度も攻め落とされてはいないということになるか。迷宮のシステム上、物資の補給も戦力強化も都市内部で行えるわけだし。
 更に月女神の祝福は瘴気のような負の魔力や、破邪の首飾りのように呪詛などに対しても効果を発揮する。魔人達にとっては相手をしにくくはあるだろう。

 そう言った魔人と人間との戦争だが――年代的にはクラウディアの話にあった魔力嵐よりずっと後の話になる。少なくとも魔力嵐が落ち着き……人間の国家が成立して、組織だって魔人と戦えるという状況になってからの話なのだから。

「劣勢の状況が変わったのは、魔人への対抗法や、結界術が生まれてからか」

 現在、各国の都市部やある程度大きな拠点には結界が施されている。これは魔人の侵入に対する対策であり、拠点の防衛を可能とするものだ。
 同時に、拠点を攻め落としにくくなるということは、魔人達の食料供給が断たれるということを意味している。

「そうね。そして判明したのはそこよ。色々な資料と現状を継ぎ接ぎしての仮説であるというのを念頭に置いて貰えるかしら」

 ローズマリーはそう前置きをして、言う。

「魔人への対抗法――月女神の祝福を大規模に広げたり、環境中の魔力を利用して結界術や封印術を用いたり……。そういう高度な魔法技術を齎した魔術師集団が現れたようなのよね」
「魔術師集団……」
「お前が使っているのは……恐らく魔力循環よね? 彼らの内、何人かがそれを魔人への対抗手段として使いこなしたそうよ。魔力資質により循環を行える者自体がかなり限られたこと。それに魔術師の癖に最前線に出る性質上、魔人の活動が下火になってしまってからは廃れてしまったようだけれど……魔力循環自体は高度な技術の1つとして古い文献に記述されていることもあるわね」

 そうだな。ロゼッタも自分で調べて循環の存在は知っていたし。多分、ロゼッタの戦闘スタイルから見ると理想的な技術なんだろうとは思うが。

「話を戻すわ。対抗法の確立、拠点の防衛により一応は人間側に天秤が傾いた。大規模な魔人との戦いの後で――魔人達の盟主を撃退したものの滅ぼすことが出来ず……封印を施すことになった。各国の王達は話し合い――そして用いられた方法が、魔人の盟主を魂と器の2つに分かち、別々の場所に封印するというもの」

 盟主……。ガルディニスの言っていた、最初の1人のことだろうか。

「封印の1つが、タームウィルズか」
「どこにどうやって封印されたのかという記述は見つかっていないわ。だから、そこを繋ぐ文献はまだなのだけれど、恐らくはそうなのでしょうね。魂と器。どちらが迷宮に封じられているかは分からないけれど……」

 そうなると……瘴珠はそのいずれかもう一方を封印している場所から持ってこられたということになるだろうか。

「もう一方の場所は、どこかしらね」
「――シルヴァトリアかな? 年代的にはその前身になったベリオンドーラのほうかも知れない」

 北方から魔物が涌くことを考えると……あのあたりじゃないかと思うんだが。

「なるほど……。確かにあの国の魔法技術は頭一つ抜けているし……魔術師集団というのもベリオンドーラの者達と考えればしっくりは来るわね。封印の場所が分からないのも魔術師達がそこに流れ着いて国を作ったと考えれば……」
「そうだな……」

 そうなってくるとベリオンドーラが最後まで魔人達に攻められた理由も、分かる。

「……一度あの国に足を運ぶべきか」
「シルヴァトリアでの調査は必要かも知れないけれど……ベリオンドーラそのものは止めておいたほうが良いわね。魔人が封印を解いて瘴珠を持ち出してきている以上、ベリオンドーラには敵の本陣があるかもと想定しておくべきでしょう?」
「少数精鋭でこっちに戦力を送り込んでくるしかないのなら、撃退して戦力を削ぎ続けるほうが正解だと?」
「私はそう思うけれど。お前が倒したのは……カーディフのところの女魔人から始まり、炎熱、舞剣、黒骸。炎熱からの3人の悪名は相当なものだわ。同程度の魔人が後どれぐらいいるのかは分からないけれどね」

 ……確かに。各個撃破が可能な有利を捨てることも無いか。クラウディアもいる以上、迷宮は間違いなくホームグラウンドなのだし。

「外交関係からシルヴァトリアに警告するというのは可能でしょうけれど、現状表面的には落ち着いているのよね。シルヴァトリアから調査に向かわせた、それが発端になる……なんてことも有り得るわ」
「……なかなか難しいな。あの国は政情不安があるなんて話も聞くし」
「ああ。王太子の話ね」

 ローズマリーは意味有り気に薄笑みを浮かべる。

「私は会ったことはないけれど。あの人当たりの良いステファニアが嫌うのだから、相当なのでしょう」

 第一王女ステファニア姫か。それはまあ、彼女を信用していいという情報ではあるな。

「とは言え、ヴェルドガルもそれを笑っていられる状況ではなかったけれど」
「それをお前が言うか」

 俺の言葉に、ローズマリーは愉快そうに羽扇で口元を隠して肩を震わせる。

「私も片付けられてしまった1人ではあるけれど、お前がロイを片付けたから、こちらの抱える政情不安としては大公家と公爵家の不仲ぐらいかしらね」
「……そうなのか」
「父様から聞いてはいないのね。父様は公爵家の令嬢と、王家の間に生まれたのよ」
「一応、王家と大公家と公爵家の綱引きについては聞いたことがあるけれど」

 その両家が不仲というのは初耳だ。

「ヴェルドガル王家は国守りの儀の関係もあって、才能維持の問題もあるでしょう? 元々親戚筋の大公家、公爵家は王家に嫁がせる有力候補を輩出する。王権は強いけれど、だからこそ三家の間では綱引きがあるのよね。現に、第一王妃は大公家の令嬢だわ。そんなこともあって、大公家と公爵家は王家に干渉しようとしたりして、父様はそれに耳を傾けるふりをして影響力を殺いだり、或いは仲を取り持ったりと、色々板挟みなのよ」

 ……それはまた。聞いているだけで舵取りが難しそうな話だ。

「ロイはともかくとして……。ジョサイアとステファニアは父様を見習って、なるべく中庸でいようとしているわね。そういう意味でもあの2人は優等生。第一王妃も大公家に便宜を図ったりはしない」

 と、不良であるローズマリーが言う。まあ、王家の独立独歩という意味ではローズマリーの考えも中庸には合致しているか。家柄や序列より能力主義を掲げているし。

「ローズマリーは?」
「私の母は、隣国グロウフォニカの侯爵家の出自よ」
「ああ。だからヘルフリート王子の留学先は――」
「ええ。グロウフォニカね。私はジョサイア達を見習って、グロウフォニカとは距離を置いていたけれど」

 ローズマリーは基本、王になることを前提に動いていたわけだしな。

「ともあれ、あなたがいることで父様も色々動きやすくなっているのではないかしらね」

 そんなことを言うローズマリーの表情は、羽扇で窺えなかった。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ