忘れていた記憶
次はアレクが??
「父上が復帰されて、ほっとしたよ。一時はどうなることかと思った」
アレクが、キャロルを抱きながら言った。
「お父様はすばらしいのです。
あっという間に立ち直られました」
リリアが目を細める。
「そなたと話し込んでから、急に元気になったと聞いたぞ。
いったい、何を話したのだ?」
アレクがリリアに尋ねた。
「内緒……です」
リリアが笑う。
「なあ、リリア。
私の相談にも乗ってくれないか?」
アレクが言った。
「この前の件ですか?
『思い出してはいけないけれど、気になることがある』とおっしゃっていましたよね?」
「そうだ。その件だ」
アレクが答える。
「いったい、何の言葉がきっかけになったのですか?」
リリアが冷静に尋ねた。
「そうだなあ……。
王太子ご夫妻と何気ない会話をしている最中に、何かが引っかかったのだ……」
アレクは、その時の会話を必死に思い出そうとした。
「王太子殿下が、ご自分のお子なのに、何だか他人事のようにおっしゃるので、それについて意見した」
「何か、言い過ぎたとか?」
「いや……そうではないのだ。
自分自身の小さい頃に、『何か』があったのだ」
「いっそ、ご両親か執事さんに聞いた方が、すっきりなさるのではありませんか?」
リリアが言った。
「何だか、聞いてはいけないような気がするのだ」
アレクが答える。
「そういうこともありますよね。
でも、思い切って口にした方が、すっきりすることもあります」
リリアは、公爵との会話を思い出していた。
自分は、公爵の実の姪ではなかった。
その事実が、ずっと、ずっと心に引っかかっていた。
だが、ようやく告白することができた。
今では、胸のつかえがすっかり取れている。
アレクからは、結婚式の後に直接知らされていた。
「祖父母がとんでもない人間だった。
リリアが、あれらの血が入った実のいとこではなかったと知って、実は安心した。
だが、父上には内緒だぞ」
そう言われていた。
公爵に話してしまったことは、アレクには内緒である。
「そうだなあ……。
やはり、聞くなら執事しかいないか……。
だが、執事は老けて見えるが、実は見た目ほど年を取ってはいないのだよ。
今は見習いが来ているが、私が幼かった頃、あの執事自身がまだ見習いだった」
アレクが懐かしそうに笑う。
「それに、叔母上とは仲がよくてね。
同じ年頃だったから、話が合ったのだろう。
あの頃の叔母上は、とても明るい人だった」
「え?
あの執事さんに、そんな過去が?」
リリアが目を見張る。
「ああ。
だが祖父が、叔母上を強引に女官見習いとして城へ連れていった。
どのくらい経った後だろう?なぜか屋敷へ戻ってきたのだが、その頃にはすっかり口数が少なくなり、人が変わったようになっていた。
そして、すぐにどこかへ行ってしまった。
私が覚えているのは、そのくらいだ。
父は、
『そなたは何も知らなくていい』
と言って、叔母上がどこへ行ったのかさえ教えてくれなかった。
今考えれば、あの時、プロムフェナク伯爵家へ嫁いでいったのだろう」
アレクは考え込んだ。
「その後?……。
私は何かを見たのか。
それとも、何かを聞いたのか……。
どうしても記憶が浮かんでこない」
「祖父様と祖母様は、どうしていたのです?」
リリアが尋ねた。
「祖父が私の本を勝手に持っていっていたことは、前に話しただろう?
図書室の蔵書を持ち出していた件も。
私から本を取り上げるのは、たいてい祖母だった。
時には、部屋へずかずかと入ってきて、読みかけの本をひったくられたこともある。
母が注意すると、母を平手で打つような人だった。
だから、私は二人が大嫌いだった。
祖父が病死した時は、正直ほっとした。
そして祖母が、さっさと家を出ていった時もうれしかった。
あの頃の私は、借金のことなど知らなかったからな。
新婚旅行で行った、あの別邸。
あそこは、二人のお気に入りだった。
だから私は、中身を全部変えてやろうと思っていたのだ」
アレクが笑った。
「そういうことだったのですね」
リリアも笑う。
その時だった。
「そう……祖母だ……」
アレクの顔から、さっと血の気が引いた。
「あなた?」
リリアが驚く。
アレクは、よろめくように椅子へ腰を下ろした。
「そうだ……。
祖母だ……」
同じ言葉を、何度も繰り返す。
「忘れていた……。
なぜ、忘れていたのだろう……」
そしてアレクは、そのままテーブルに突っ伏してしまった。
何を思い出した?アレク!
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