それぞれの家族
レオンとアンドルが出てきます
レオンとジャンヌ夫妻は、相変わらず領地の経営に忙しい日々を送っていた。
「最近、アレク様とリリア様にお会いしていませんねえ。
なんでも、やっとお嬢様が生まれたとか」
ジャンヌがレオンに話しかけた。
「私たちにはすぐ子供ができたが、あそこは一年くらい授からなかったからな。
無事に生まれてよかったが……」
「何かあるのですか?」
ジャンヌが不思議そうな顔をする。
「王太子夫妻のところの王子の、将来の妃にどうかと言われているそうだ。
王太子殿下からの手紙に書いてあった」
レオンが笑った。
「ああ、確かに!
家柄よし、両親は共に優秀。
うちの上の子のお嫁さんにも欲しいくらいだわ」
ジャンヌも笑う。
「そして、うちの『娘』も、将来の王子妃の候補にしたいと……。
『年上でも構わない』と書いてある。
上の子と下の子を間違えられている」
レオンが苦笑した。
レオン夫妻には、すでに二人目の子供が生まれていた。
上が男の子で、下が女の子である。
「アレクシス様とリリアーナ様みたいに、仲のよい兄妹になってくれたらうれしいのですが」
ジャンヌが言う。
「いや、仲がよすぎるのも問題だぞ。
将来、お互いの配偶者に焼きもちを焼いたりしたら大変だ」
「それもそうですね」
ジャンヌが笑った。
「奥様、お乳のお時間でございます」
背筋の伸びた、上品な初老の婦人が、赤ん坊を抱いてやってきた。
「ありがとう。助かるわ」
ジャンヌは、婦人から赤ん坊を受け取る。
「クリスティーネは、いったいどこの出身なの?
私はクリスティーネのおかげで、貴族の社交界でも何とかやれているわ」
ジャンヌが、クリスティーネと呼ばれた婦人に礼を言った。
「お乳を差し上げる時は、きちんとお子様の目を見てあげてくださいね」
そう言いながら、クリスティーネは目を細めた。
(クリスティーネにも、お子さんがいたに違いないわ)
ジャンヌは、そう思った。
クリスティーネは、ジャンヌが働いていた娼館で、下働きの者たちをまとめていた女性だった。
娼館には住んでおらず、『通い』で働いていた。
上品で、優しい女性である。
貴族社会にも詳しく、店を訪れる客のことをほとんど把握していた。
表には出なかったが、娼婦たちにもさまざまな助言をしていた。
彼女自身が客を取ることはなかったが、娼婦たちからはとても慕われていた。
「私を召し抱えていただけるなんて、幸いでございます」
それが、クリスティーネの口癖だった。
「気がついたら、娼館におりました。
なぜか客を取らされることはありませんでしたが、同じような境遇の女性たちの助けになりたかったのです」
彼女は、もともと身分の高い女性なのではないかと思われた。
身のこなしから漂う気品が、並ではなかったからだ。
娼婦に子供が生まれると、貴族として必要な一般常識を教え込み、子供のいない貴族へ養子に出したこともあった。
そのうち、
『あそこの子供なら間違いない』
という噂まで立つほどになった。
もっとも、店主夫婦が捕まったことで、娼館にいた者たちは皆、行き場を失ってしまった。
ジャンヌはレオンと結婚する際、条件の一つとして、クリスティーネも一緒に面倒を見てほしいと頼み込んだ。
レオンも彼女のことは知っていたため、すぐに了承した。
「しかし、本当にどこの貴婦人だったのだろう?
不思議な方だ」
レオンが首を傾げる。
「アンドルのところに、人の顔を一度見たら忘れない従者がいるでしょう?
見覚えがないか、見てもらったらどうかしら?」
ジャンヌが言った。
「それもありかもしれないな」
レオンもうなずいた。
ジャンヌは、いつもクリスティーネに優しく声をかけた。
「ありがとうございます」
彼女はいつでも、美しいお辞儀を返した。
「うちではなく、アレク様のお家にお仕えした方がいいのではないかしら?
うちの娘が王族に嫁ぐことは、まずないでしょう?
だったら、アレク夫妻のお嬢様の教育係にはぴったりだと思うのだけれど」
ジャンヌが言う。
「あそこには立派な公爵夫人がいる。
必要ないと思うぞ」
レオンが答えた。
「まあ、それもそうね。
でも、クリスティーネを見ていると、なぜかアレク様を思い出すのよ。
何となく、雰囲気が似ている気がするの」
「まさか。
他人の空似だろう」
隣の部屋から、クリスティーネが二人の長男に勉強を教えている声が聞こえてきた。
「教え方も上手なのよ。
本当に助かるわ」
ジャンヌがうれしそうに言う。
「いつか、アレクシス様とリリアーナ様にも紹介したいわ。
早く、お嬢様が大きくなるといいわね」
ジャンヌは、その日が待ち遠しかった。
◇
一方、アンドルは結婚こそ遅かったものの、すぐに子供を授かった。
しかし、育児方法については夫婦の間で少々意見の食い違いがあった。
こちらの国では、母乳が出るのであれば、母親が自ら子供に飲ませるのが一般的だった。
ところが、デリアの国では、乳母をつけるか、山羊の乳で育てるのが普通だという。
「乳が出ないのなら分かるが……。
出ているのに、なぜ?」
アンドルが首を傾げた。
「そういう習慣なのでございます。
母乳を吸わせると胸の形が崩れるという理由で、高貴な方はご自分では授乳なさらないことが多いのです」
デリアについてきた侍女が説明する。
「お国柄だな……。
私が口を出すことではない。
そなたの好きにするといい」
アンドルが言った。
すると、こちらの国の侍女が口を挟んだ。
「ですが、奥様ご自身の母乳の方が楽でございますよ。
山羊の乳は一度沸かして、それから適温まで冷ます必要があります。
哺乳瓶も必要になりますし、使うたびにきれいに洗わなくてはなりません。
それが数時間おきですから。
万が一、異物などが入れば取り返しがつきません」
デリアは、二人の侍女の話を聞きながら考えた。
「そうね。
せっかくこちらの国で暮らすのですもの。
こちらのやり方で育ててみるわ。
さあ、お乳をいっぱい飲んでちょうだい」
そう言って、デリアは赤ん坊を抱いた。
「同じ年頃の女の子が、リリア様のところにも生まれたと聞いたわ。
ぜひ、お会いしたいです」
デリアの目が輝く。
「リリアーナ様のお名前は、我が国でも知れ渡っております。
女性の敵をやっつけたとか、婚約者の方は、あのダハントを蹴り飛ばしたとか……。
愉快でございます。
ぜひぜひ、紹介してくださいませ」
妻の懇願に、アンドルは苦笑した。
リリアの武勇伝は、隣国にまで広まっていたらしい。
「もう少し、この子が大きくなったら会いに行こう。
兄上と義姉上も誘おう。
皆そろったら、にぎやかになるだろうな」
アンドルは、にこにこと笑った。
◇
その頃、エピナスチン伯爵は、自宅の庭に葬られた夫人の墓の前にいた。
「私たちの孫が生まれた。
そなたにも見せたかった。
レオン様のところは二人だ。
そなたは三人の祖母になったのだぞ」
そう、墓石に話しかける。
「一緒に喜びたかった。
寂しいのう……。
無念だ」
伯爵は静かに目を閉じ、亡き夫人の冥福を祈った。
チャッピー曰く
キャロル、まだ赤ちゃんなのに各方面から狙われすぎですw
あははは・・・・
そうなのですが・・
お読みいただきありがとうございます




