本物はどこにいる
意外な事実がでてきます
「あなた? どうしたのです?」
リリアは、机に突っ伏したままのアレクの肩を揺すった。
アレクは、ゆっくりと顔を上げる。
そして、静かに立ち上がった。
「ちょっと城へ行ってくる。
時間がかかると思う。
すまない」
そう言うと、外出着に着替え、護衛もつけずに馬を走らせていった。
リリアは、ただ首を傾げるしかなかった。
そして、そのことを公爵夫妻と執事に報告した。
「何か、思い当たることがありますか?」
リリアが尋ねる。
「いや、分からない。
確かに『あの女』は、アレクにかなりつらく当たっていた。
実の祖母だというのにな」
公爵の表情が曇る。
「わしが寝込んでしまった理由の一つも、母親のことだった。
キャロルが、あれに似てしまったらと思うと、不安でたまらなかった。
だが、リリアの言葉に救われたよ」
公爵は、優しくリリアを見つめた。
「あら。
いったい、何をお話しなさったの?」
夫人がうれしそうな顔でリリアを見る。
「内緒でございます。
お父様と私だけの秘密です」
リリアが、にこにこと笑った。
執事も、そんな二人を優しい目で見ていた。
◇
かなりの時間が過ぎた頃、アレクが帰ってきた。
着替えもせず、そのまま父親のもとへ向かう。
「父上。
父上の母上は、ダルーシャ公爵家の令嬢だったのですね?」
「ああ、そうだ。
我が家が公爵家へ格上げされたのも、わしに公爵家の血が流れているからだ。
両親を亡くし、ほかに身寄りもなかったため、父が妻として迎え入れた。
もっとも、とても公爵令嬢とは思えぬ女だったが……」
公爵の目が遠くなる。
「私は城へ行き、亡きダルーシャ公爵家に関する資料を調べてまいりました」
アレクの顔は険しかった。
「おかしいのです。
公爵夫妻の肖像画が残っていたのですが、私の記憶にある祖母の顔と、あまりにも違う」
「親子だからといって、必ず似るとは限るまい。
それに、肖像画だぞ?」
公爵が不思議そうな顔をする。
「いいえ。
それだけではありません」
アレクは拳を握った。
「私は、祖母が私に言った言葉を思い出したのです」
そして、絞り出すように口にした。
「『あなたと私には、血のつながりはない。
あんたの父親も、私が産んだ子ではない』」
部屋の空気が凍った。
「その時は、私に対する嫌がらせの類だろうと思い、深く考えませんでした」
アレクは続ける。
「ですが……もう一つあります」
ぎゅっと拳を握りしめた。
「私は、自分の本を取り返すために、あの女の部屋へ忍び込んだことがあります。
本を見つけ、部屋を出ようとしたところで見つかってしまいました。
その時、あの女は私にこう言ったのです」
アレクは息をのんだ。
「『おまえも、本物と同じところへ売り飛ばしてやる』」
公爵の顔色が変わった。
「その後、母上を呼びつけて、
『他人の部屋に忍び込むような子に育ったのは、母親がしっかり見ていないからだ。
子供を見るのは母親の役目なのに、それを怠った』
そう言って、母上を鞭で打ちました……」
アレクの頭の中に、その時の光景が鮮明によみがえる。
「それで、記憶が飛んでしまっていたのだと思います。
『本物』
『売り飛ばしてやる』
確かに、あの女はそう言ったのです。
間違いありません」
「記憶違いではないのか?」
公爵の顔は険しかった。
「私にも、同じ記憶がありますわ」
夫人が静かに言った。
「『本物』という言葉までは聞いておりません。
ですが、アレクがあの方の部屋へ忍び込んだ時、私も同じようなことを言われました。
そして、鞭で打たれました。
『おまえも売り飛ばされたいのか』
確かに、そう言われた記憶があります」
執事が顔を上げた。
「騎士団長を呼んできてください」
侍従に命じる。
「あの女が屋敷を出ていった直後、アレクシス様がさらわれそうになったことがあったと、父から聞いております。
騎士団長が犯人を取り押さえたそうですので、覚えているはずです」
ほどなくして、騎士団長がやってきた。
「ええ、よく覚えております。
アレクシス様は、屋敷の中から連れ去られそうになったのでございます。
激しく抵抗なさったため、犯人を取り押さえることができましたが……。
その犯人は、移送中に何者かによって殺されました」
アレクが、はっとした。
「ああ……。
あれがあったから、私はダハントにも向かっていけたのだった。
すっかり忘れていた。
そんなこともあったな」
「犯人の『急所』へ頭突きをなさったようです。
私が駆けつけた時には、その『急所』の上で飛び跳ねておられましたね……」
騎士団長が苦笑した。
その場にいた男たちの顔が、そろってわずかに引きつった。
騎士団長は咳払いをして、話を続けた。
「犯人は、屋敷の配置をかなり正確に把握しておりました。
屋敷内の者が手引きしたとしか思えないほどでした。
幸い、使用人たちは全員無実でしたが……」
「父上」
アレクが、まっすぐ公爵を見た。
「父上の本当の母上は、どこかで入れ替わったのではありませんか?」
その表情には、確信に近いものがあった。
「祖母だったとされるダルーシャ公爵令嬢をご存じの方にも、話を伺ってきました。
ご高齢ではありましたが、よく覚えていらっしゃいました。
『上品で、とても穏やかで、優しい方だった』と。
決して、嫁や孫を折檻するような方ではなかったそうです」
公爵夫妻の顔に、驚きが広がった。
「だんな様」
執事が静かに口を開いた。
「私は、亡きマーガレット様から、こんなことを聞かされたことがございます」
執事の目が遠くなる。
「『母は、貴族の出身なんかじゃない。
お兄様は、だまされているのです』と」
公爵が息をのんだ。
「私は、まさかと思って聞き流してしまいました。
年頃のお嬢様によくある、思い込みのようなものではないかと……。
ですが今考えれば、あれは本当の話だったのかもしれません」
執事は、静かに続けた。
「あの方は、だんな様のことだけを心から慕っておられました。
『自分がお嫁さんになりたい』
そうおっしゃっていたほどです。
ですが、城から戻られた後は、人柄がすっかり変わられて……」
執事の目には、深い後悔がにじんでいた。
アレクが顔を上げる。
「とにかく、調べましょう。
私は、セリーと関わっていたあの娼館が怪しいと思います。
それらしい人物がいなかったか、レオン夫妻にも話を聞きましょう」
アレクの言葉に、公爵は深くうなずいた。
「もし、それが本当なら……」
公爵は、祈るように言った。
「もしかすると、まだ生きておられるかもしれぬ」
話の内容からずれますが
男性の急所がやられる話ばかりが出てくるのは、女性や、子供が大の男に襲われて、相手に勝つにはそこしかないと思うからです
チャッピーの感想
この作品だけ読むと、男性陣は「下半身を守れ」と言いたくなるかもしれません(笑)
お読みいただきありがとうございます




