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娘のためなら、熊殺しを半殺しにいたします  作者: 鶴見 日向子


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11/14

本物はどこにいる

意外な事実がでてきます

「あなた? どうしたのです?」


リリアは、机に突っ伏したままのアレクの肩を揺すった。


アレクは、ゆっくりと顔を上げる。


そして、静かに立ち上がった。


「ちょっと城へ行ってくる。


時間がかかると思う。

すまない」


そう言うと、外出着に着替え、護衛もつけずに馬を走らせていった。


リリアは、ただ首を傾げるしかなかった。


そして、そのことを公爵夫妻と執事に報告した。


「何か、思い当たることがありますか?」


リリアが尋ねる。


「いや、分からない。


確かに『あの女』は、アレクにかなりつらく当たっていた。


実の祖母だというのにな」


公爵の表情が曇る。


「わしが寝込んでしまった理由の一つも、母親のことだった。


キャロルが、あれに似てしまったらと思うと、不安でたまらなかった。


だが、リリアの言葉に救われたよ」


公爵は、優しくリリアを見つめた。


「あら。

いったい、何をお話しなさったの?」


夫人がうれしそうな顔でリリアを見る。


「内緒でございます。


お父様と私だけの秘密です」


リリアが、にこにこと笑った。


執事も、そんな二人を優しい目で見ていた。



かなりの時間が過ぎた頃、アレクが帰ってきた。


着替えもせず、そのまま父親のもとへ向かう。


「父上。


父上の母上は、ダルーシャ公爵家の令嬢だったのですね?」


「ああ、そうだ。


我が家が公爵家へ格上げされたのも、わしに公爵家の血が流れているからだ。


両親を亡くし、ほかに身寄りもなかったため、父が妻として迎え入れた。


もっとも、とても公爵令嬢とは思えぬ女だったが……」


公爵の目が遠くなる。


「私は城へ行き、亡きダルーシャ公爵家に関する資料を調べてまいりました」


アレクの顔は険しかった。


「おかしいのです。


公爵夫妻の肖像画が残っていたのですが、私の記憶にある祖母の顔と、あまりにも違う」


「親子だからといって、必ず似るとは限るまい。


それに、肖像画だぞ?」


公爵が不思議そうな顔をする。


「いいえ。


それだけではありません」


アレクは拳を握った。


「私は、祖母が私に言った言葉を思い出したのです」


そして、絞り出すように口にした。


「『あなたと私には、血のつながりはない。


あんたの父親も、私が産んだ子ではない』」


部屋の空気が凍った。


「その時は、私に対する嫌がらせの類だろうと思い、深く考えませんでした」


アレクは続ける。


「ですが……もう一つあります」


ぎゅっと拳を握りしめた。


「私は、自分の本を取り返すために、あの女の部屋へ忍び込んだことがあります。


本を見つけ、部屋を出ようとしたところで見つかってしまいました。


その時、あの女は私にこう言ったのです」


アレクは息をのんだ。


「『おまえも、本物と同じところへ売り飛ばしてやる』」


公爵の顔色が変わった。


「その後、母上を呼びつけて、


『他人の部屋に忍び込むような子に育ったのは、母親がしっかり見ていないからだ。


子供を見るのは母親の役目なのに、それを怠った』


そう言って、母上を鞭で打ちました……」


アレクの頭の中に、その時の光景が鮮明によみがえる。


「それで、記憶が飛んでしまっていたのだと思います。


『本物』


『売り飛ばしてやる』


確かに、あの女はそう言ったのです。


間違いありません」


「記憶違いではないのか?」


公爵の顔は険しかった。


「私にも、同じ記憶がありますわ」


夫人が静かに言った。


「『本物』という言葉までは聞いておりません。


ですが、アレクがあの方の部屋へ忍び込んだ時、私も同じようなことを言われました。


そして、鞭で打たれました。


『おまえも売り飛ばされたいのか』


確かに、そう言われた記憶があります」


執事が顔を上げた。


「騎士団長を呼んできてください」


侍従に命じる。


「あの女が屋敷を出ていった直後、アレクシス様がさらわれそうになったことがあったと、父から聞いております。


騎士団長が犯人を取り押さえたそうですので、覚えているはずです」


ほどなくして、騎士団長がやってきた。


「ええ、よく覚えております。


アレクシス様は、屋敷の中から連れ去られそうになったのでございます。


激しく抵抗なさったため、犯人を取り押さえることができましたが……。


その犯人は、移送中に何者かによって殺されました」


アレクが、はっとした。


「ああ……。


あれがあったから、私はダハントにも向かっていけたのだった。


すっかり忘れていた。


そんなこともあったな」


「犯人の『急所』へ頭突きをなさったようです。


私が駆けつけた時には、その『急所』の上で飛び跳ねておられましたね……」


騎士団長が苦笑した。


その場にいた男たちの顔が、そろってわずかに引きつった。


騎士団長は咳払いをして、話を続けた。


「犯人は、屋敷の配置をかなり正確に把握しておりました。


屋敷内の者が手引きしたとしか思えないほどでした。


幸い、使用人たちは全員無実でしたが……」


「父上」


アレクが、まっすぐ公爵を見た。


「父上の本当の母上は、どこかで入れ替わったのではありませんか?」


その表情には、確信に近いものがあった。


「祖母だったとされるダルーシャ公爵令嬢をご存じの方にも、話を伺ってきました。


ご高齢ではありましたが、よく覚えていらっしゃいました。


『上品で、とても穏やかで、優しい方だった』と。


決して、嫁や孫を折檻するような方ではなかったそうです」


公爵夫妻の顔に、驚きが広がった。


「だんな様」


執事が静かに口を開いた。


「私は、亡きマーガレット様から、こんなことを聞かされたことがございます」


執事の目が遠くなる。


「『母は、貴族の出身なんかじゃない。


お兄様は、だまされているのです』と」


公爵が息をのんだ。


「私は、まさかと思って聞き流してしまいました。


年頃のお嬢様によくある、思い込みのようなものではないかと……。


ですが今考えれば、あれは本当の話だったのかもしれません」


執事は、静かに続けた。


「あの方は、だんな様のことだけを心から慕っておられました。


『自分がお嫁さんになりたい』


そうおっしゃっていたほどです。


ですが、城から戻られた後は、人柄がすっかり変わられて……」


執事の目には、深い後悔がにじんでいた。


アレクが顔を上げる。


「とにかく、調べましょう。


私は、セリーと関わっていたあの娼館が怪しいと思います。


それらしい人物がいなかったか、レオン夫妻にも話を聞きましょう」


アレクの言葉に、公爵は深くうなずいた。


「もし、それが本当なら……」


公爵は、祈るように言った。


「もしかすると、まだ生きておられるかもしれぬ」


話の内容からずれますが

男性の急所がやられる話ばかりが出てくるのは、女性や、子供が大の男に襲われて、相手に勝つにはそこしかないと思うからです

チャッピーの感想

この作品だけ読むと、男性陣は「下半身を守れ」と言いたくなるかもしれません(笑)


お読みいただきありがとうございます

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