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娘のためなら、熊殺しを半殺しにいたします  作者: 鶴見 日向子


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喜ばしい話のはずなのに

だんだん、公爵が不安定になっていきます

その頃、王太子夫妻の間に生まれた王子は、二歳になっていた。


母親似の金髪である。


「王太子が混血。さらに王太子妃は他国の娘……。

このままでは、我が国の血が薄くなってしまうのではないか?」


国王夫妻は、不安を抱いていた。


王太子は、国王夫妻の実子ではない。


もともと王弟が、他国から政略結婚で妻を迎えた。


しかし、国王夫妻には子供が授からず、王弟夫妻の間に生まれた混血児である王子を、王太子として引き取ることになったのだ。


「今から、国内の娘と婚約させてはどうだろう?」


国王が言った。


「まだ、孫は二歳でございます。

もう少し待たれた方が……」


王妃がたしなめる。


「いや、早くしておかねば、また海外の娘を迎えることになったら大変だ」


国王は、すでに決心しているようだった。


「公爵家に孫娘が生まれたと聞いた。

アレクとリリアの子だ。


賢くないわけがない。


他に取られたら困る!」


「まだ、生まれてひと月も経っておりません。

気が早すぎます」


王妃はあきれた。


「とにかく、打診だけはしておく。

今から伝えておけば、『そのように』育てることもできよう。

よいな」


王妃は、それ以上何も言えなかった。



公爵は国王に呼び出され、その話を告げられた。


「大変光栄なことでございますが……」


公爵は喜びつつも、複雑な表情を浮かべていた。


「まだ、生まれたばかりでございます。


もう少し様子を見た方がよろしいかと存じます。

万が一、病気が見つかったり、発達に遅れがあったりした場合もございます。


陛下からお話があったことは、息子夫婦に伝えます。


ですが、先は長うございます。

気長に見守ってまいりましょう。


私も妻から、いろいろと言われましたので」


国王は、渋々ながらうなずいた。


公爵は、そのまま王宮を後にした。


「少し、町に寄りたい」


公爵は従者に告げた。


「何か御用でも?」


従者が不思議そうに尋ねる。


いつもなら、孫見たさにまっすぐ帰宅するからだ。


「少し、頭を冷やしたいのだよ」


公爵の言葉に、従者は首を傾げながらも、言われた通り町へ向かった。


(わしは、キャロルが将来の王妃になるのなら、うれしい。


あの場で、すぐに承諾したいくらいだった。


だが……アレクとリリアは、どう考えるだろうか?)


公爵の頭の中は、そのことでいっぱいだった。


やがて、馬車の通り道に人だかりが見えてきた。


「セリー殿は、はめられたのだ!

本当は無実なのだ!


そうでなければ、とっくに死刑が執行されているはずだ!


あれほど罪状が重いのに、死刑になっていないということは、王家の側に後ろめたいことがあるからに違いない!」


台の上に立った男が、大声で叫んでいる。


「なんだ、あれは?」


公爵の顔が引きつった。


「ああ……最近、『セリーは無実だ』と騒ぐ者たちが現れまして」


従者の表情も曇る。


「おそらくですが……娼館の関係者ではないかと思われます。


あの娼館には、他ではなかなか見られない『高級』な娼婦がそろっておりました。


そこがなくなったことで、行き場をなくした貴族たちが、娼館を元通りにしたがっているようでして……」


公爵は、深いため息をついた。


「女性を金で買う……。


何のためだ?


家族よりも、一時の快楽の方が大切なのか?


私には、まったく理解できない」


公爵の脳裏に、娼館へ通い、湯水のように金を使っていた亡き父の姿が浮かんだ。


レオンのためだと言いながら、実際には、それを口実にしていただけではないのか。


公爵は、今でもそう思っている。


(娼館で使った金があれば、十分にレオンを引き取れたのではないか?)


そう思わずにはいられなかった。


それほどまでに、前侯爵が亡くなった後の財政は苦しかったのだ。


そして、それを知るなり、自分の母親である元侯爵夫人は、さっさと家を出ていった。


『借金を自分が背負うのは嫌だ』


それが理由だった。


侯爵が亡くなるまでは好き勝手に暮らし、わがまま放題。


嫁いびりもひどかった。


そんな状況の中、今の妻は自分の持参金をすべて預けてくれた。


さらに妻の実家からも援助を受け、ようやく公爵家を立て直すことができたのだ。


公爵は首を振った。


(私は、あのようにはならない)


そして、群衆を見ながら、さらに思う。


(こういう者たちは、セリーに騙された側の気持ちなど、考えられないのだろう。


相手の立場に立つことができない。


自分さえよければいい。


私は、そういう人間とは関わりたくない)


だが、考えれば考えるほど、公爵の表情は沈んでいった。


「だんな様、お顔の色がよろしくありません。

もう帰りましょう」


その様子を見た従者が言った。


「そうだな……。

セリーの名前を聞いて、気分が悪くなった。


そうしてくれ」


公爵は、そのまま自宅へ戻ることにした。



帰宅した公爵を、アレクがキャロルを抱いて出迎えた。


「ほーら、おじい様のお帰りですよ~。


父上、お疲れさまです」


アレクが笑顔で言う。


国王からの呼び出し。


きっと何かを言いつけられたのだろう。


少しでも励まそうと、キャロルを抱いて迎えに出たのだ。


だが――


「だんな様、お顔の色がすぐれませんが……。

どうなさいました?」


執事は、すぐに公爵の様子がおかしいことに気づいた。


「何でもない。


アレクシス、後で話がある。

そなたと私、二人だけで話したい」


そう言って、キャロルの顔をしばらく見つめると、公爵は自室へ戻っていった。


「何があったのだ?


いつもなら、キャロルを見れば笑顔になるのに……」


アレクは、付き添っていた侍従と護衛に尋ねた。


「それが……町へ寄った際、『セリーは無実だ』と叫ぶ男と、それに群がる者たちを見てから、急にご様子が変わりまして……」


侍従も困惑していた。


「ああ、私も最近、その話は聞いた。


何も知らない者が聞けば、もっともらしく聞こえるのが厄介なのだ」


アレクの顔が曇る。


「母上にも知らせておこう。

母上なら、きっとうまく対処してくださる。


執事、頼めるか?」


「はい。かしこまりました」


執事は頭を下げ、公爵夫人のもとへ向かった。


セリーを擁護する人間達に、かつての自分を虐げた両親を重ねてしまった公爵

お読みいただきましてありがとうございます


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