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娘のためなら、熊殺しを半殺しにいたします  作者: 鶴見 日向子


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間抜けな看守

ダハントさん、作者は存在を忘れておりません

(と、言いながら、原稿の一番最初から名前間違えたけど)

その頃――


牢獄にいるダハントは、ほぼ回復していた。


恐るべき回復力である。


そして、看守が交代する時間を見計らって、セリーと言葉を交わしていた。


なぜか、看守の交代には二十分ほどの時間がかかる。


「必ず脱獄しましょう。


二人で協力すれば、何とかなるわ」


セリーが言った。


「ああ。


俺様も、ほとんど回復している。


だが、まだ回復していないふりを続ける。


油断させるのだ」


言葉はまだ不明瞭だったが、セリーになら、何とか通じる程度にはなっていた。


セリーも、看守がいなくなる時間を利用して、せっせと足腰を動かしていた。


「足腰がなまってしまったら、脱獄できないわ」


二人とも、なぜ看守の交代にこれほど時間がかかるのか、まったく理解していなかった。


ここへ連れてこられた時には、目隠しをされていたからである。


「絶対に逃げ出して、今度こそ、あの小娘を子供もろとも血祭りに上げてやる!」


ダハントが叫ぶ。


「それより、娼館へ売りなさいよ」


セリーが、にやりと笑った。


「その方がお金になるし、小娘も苦しむわ」


「それがいいな。


その前に、たっぷりと仕返しをしてやる」


その時、ちょうど交代した看守が戻ってきた。


二人は素早く、いつも通りの様子へ戻る。


看守が、ほんの一瞬にやりと笑ったことに――


二人は気づかなかった。



ある日。


セリーとダハントがいる牢獄へ、一人の中年男性が囚人服を着せられ、連れてこられた。


ダハントは、その顔に見覚えがあった。


「貴様……。


公爵家にいた奴だな。


俺の顎を殴った――」


「黙れ!


囚人同士の会話は禁止だ!」


看守が声を張り上げた。


そして、新入りの囚人を、二人の牢の正面にある部屋へ入れる。


「反省しろよ」


そう言って看守は鍵をかけ、立ち去った。


「最近、看守が変わったわね。


でも……どこかで見たことがあるような……」


セリーがつぶやいた。


「他人の空似でしょう。


似たような人間など、いくらでもおりますからなあ」


新入りの囚人が、独り言のように言った。


「お前。


俺様を覚えているか?」


ダハントが話しかけた。


新入りの囚人は、ちらりとダハントを見る。


そして――


「あの節は、申し訳ございませんでした」


と、丁寧に頭を下げた。


「あれから私は、公爵家の金を横領していたことが発覚いたしまして。


こうして、ここへ入れられました」


執事は、ダハントの母国語で話していた。


「あの時のことは、反省しております」


「ふん!


いい気味だ!」


ダハントは鼻で笑った。


「だが、俺様の母国語を話せるのなら、ちょうどいい。


頭もよさそうだ。


俺たちを脱獄させたら、許してやるよ」


「お任せくださいませ」


執事は、深く頭を下げた。


「私は、フランと申します」


「頼んだわよ」


セリーの顔にも、笑みが浮かんだ。



一週間ほどが過ぎた。


三人は、看守がいなくなる時間を使い、いろいろと話をした。


フランは、牢獄の様子について語る。


「ここは、意外と単純な造りでございます。


看守たちが交代の際に姿を消すのも、単に一休みしているからなのでしょう」


執事は、穏やかな声で続けた。


「大怪我を負われたダハント様。


そして長くここにおられるセリー様。


お二人とも、足腰が弱っていると思われております。


まさか脱獄を企てているとは、考えてもいないのでしょう」


二人は、完全にその話を信じていた。


やがて新しい看守が戻ってくると、三人はそれぞれ口を閉じ、元の位置へ戻った。


薄暗い牢の中。


片方の看守は帽子を深くかぶり、セリーたちに背を向けて座っていた。


ランプをそばに置き、勤務中だというのに本を読んでいる。


「今度の看守は、ずいぶん呑気だな」


ダハントが、にやりと笑った。


しかも、最近運ばれてくる食事は、なぜか以前より豪華になっていた。


「もしかして……そなたの力か?」


ダハントが執事へ尋ねる。


執事は何も言わなかった。


ただ、目だけで笑った。


そして――


看守の交代の時間がやってきた。


看守が立ち上がった時、何かが落ちた。


不思議なことに、ほとんど音はしなかった。


それは――鍵だった。


看守は気づかないまま、その場を立ち去ってしまう。


鍵は、ちょうどダハントの牢の前へ落ちていた。


「しめた!」


ダハントは檻の隙間から必死に腕を伸ばし、鍵を拾い上げた。


そして――


「カチャリ」


鍵が開く音がした。


「やったぞ!


あの間抜けめ!」


その時だった。


「火事だー!!」


突然、遠くから叫び声が響いた。


同時に、煙が牢獄の中へ流れ込んでくる。


「何ですって!?」


セリーが慌てた。


「早く!


早く私も出して!」


ダハントへ向かって叫ぶ。


だが――


ダハントは振り返り、にやりと笑った。


「馬鹿め。


お前など連れていったら、足手まといだ」


セリーの顔が凍りつく。


「大人しく、焼け死ぬがいい」


そう言い捨てると――


ダハントは、フランから聞いていた方向へ一直線に走っていった。


さあ、どうなるのでしょうか?

お読みいただきまして、ありがとうございます

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