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娘のためなら、熊殺しを半殺しにいたします  作者: 鶴見 日向子


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まあ、まあ、まあ

短いので、前の回と同時公開です

半年ほどが経過した。


「今度、家族全員で旅行に行きましょう」


公爵夫人が、笑顔で言った。


「行き先は、アレクシスたちが新婚旅行で訪れた、あの別邸です。


急に海の幸が食べたくなったのです」


そして、キャロルを見る。


「キャロルも、夜まとめて寝てくれるようになりましたし。


たまには、皆で気分転換をしましょう」


「こちらが日程表でございます」


執事が、旅行行程の書かれた紙を広げた。


アレクシスは、それをのぞき込む。


「キャロルの体調を考えて、普通なら一泊するところを二泊。


それから別邸で三泊。


帰りも二泊……」


アレクの顔が、なんとも微妙なものになった。


「うーん……。


そうですねえ……。


どうでしょう?


父上と母上だけで行かれては?」


「あら?」


夫人が不思議そうな顔をする。


「『また行きたい』と言っていたでしょう?


だから執事と相談して、日程を組んだのよ」


数か月前。


レオンに教えてもらった宿へ、キャロルを侍女に預け、アレクとリリアは二人で泊まりに行った。


派手な格好をした女性を連れた、公爵家の非番の騎士と鉢合わせしてしまい、少々気まずい思いもした。


だが、宿そのものは、とてもよかった。


「別邸を思い出しますね。


また行きたいです」


帰宅したリリアも、そう言ってはしゃいでいたのだ。


「私たちは、家でゆっくりします。


どうか、父上と母上だけで行ってください」


アレクが言う。


「あら。


キャロルも一緒でなければ、つまらないわ」


夫人が不満そうな顔をした。


「えっと……」


アレクが、言いづらそうに口を開く。


「キャロルに、乳母がつくことになりまして……。


やっと見つかりました」


「まあ?


どうして今さら?」


夫人が目を丸くする。


「リリアのお乳が出なくなったの?


そんな大事なこと、どうして今まで言わなかったの?」


アレクの視線が、きょろきょろと落ち着かない。


その様子を見ていた執事が、ふっと笑った。


「ああ……。


おめでとうございます――とは、まだ申し上げられない段階なのですね」


アレクが苦笑する。


「そういうことだ」


執事は、何の迷いもなく日程表を丸めた。


「では、この旅行は一旦『中止』ということで。


奥様。


もし行かれるのでしたら、だんな様とお二人での行程に組み直します」


そして、丸めた紙を大事そうに持つ。


「こちらは、将来のために取っておきましょう」


執事の顔は、妙に明るかった。


「悪いな。


もう、いろいろ段取りもしていたのだろう?」


アレクが頭をかく。


「いえいえ。


まったく問題ございません」


執事は満足そうにうなずいた。


「いったい何なの?


二人とも!」


夫人だけが、むっとした顔をしている。


「そういえば、リリアはどうしたの?


今もこちらへ来ていないし」


夫人の顔が、不思議そうになる。


「体の具合が、あまりよくないのです」


アレクが言った。


「それで乳母を雇いました。


そうでなければ、そのまま授乳を続ける予定だったのですが」


その瞬間――


夫人の顔から、さあっと血の気が引いた。


「病気なの!?


大丈夫なの!?」


夫人が、アレクの襟元をつかんだ。


「奥様!


落ち着いてくださいませ!」


執事が慌てて、二人の間へ入る。


夫人付きの侍女が、そっとアレクへ視線を送った。


そして夫人の耳元へ顔を寄せ、小さな声で何かをささやく。


夫人の目が、大きく見開かれた。


「まあ……。


まあ、まあ、まあ……」


そして、急に表情が明るくなる。


「私、『次』までずいぶん間が空いたから、まったく思いつかなかったわ。


アレク、ごめんなさいね」


「まだ、父上やほかの者たちには内緒でお願いします」


アレクが小さな声で言った。


執事と侍女が、大きくうなずく。


夫人も、こくこくと何度もうなずいた。


「王太子ご夫妻より先だったら、何だか申し訳ないですし……。


私も、こんなに早く次ができるとは思わなかったのです」


アレクが苦笑する。


「そんなものですわ」


侍女が、にこりと笑った。


なかなか言うタイミングは難しいですよね(笑)

読んでいただきまして、ありがとうございます

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