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娘のためなら、熊殺しを半殺しにいたします  作者: 鶴見 日向子


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親離れの時

別れはさみしいですよね・・・な話

「さあ、たくさんお話ししたいですわ。


私たちは、別のお部屋へ移動しますね」


公爵夫人が言った。


「では、我々も『公務』は終了だ。


さて、これからは無礼講だ!


なあ、アレク。


そなたと私の仲だからな」


王太子が、アレクシスの肩に手を置く。


「どんな仲ですか」


アレクが、あきれたように言った。


王太子はアレクの耳元へ顔を寄せ、小さな声でささやく。


「リリアに求婚した仲間だよ」


「そうでしたねえ……」


アレクの脳裏に、いろいろな記憶がよみがえった。


そこへレオンが加わる。


「やたらとアレクシス様を呼び出しておられましたよね。


私も、よくお供をいたしました」


「本当に、どうしてもっと早く気づかなかったのかなあ……。


似ているのに」


王太子が言った。


そして、レオンへ顔を向ける。


「兄上、どうですか?


育児は」


王太子が笑った。


「大変だよ。


それから、我が家は上が男で、今度生まれたのが女の子だからな。


手紙の内容が間違っていたぞ」


「え?


そうでしたか?


すみません。


うっかりしました。


うちの息子の嫁にいいかな、と……」


「嘘をつけ!


アレクの娘が第一候補であろう!」


レオンが、王太子の首に腕を回した。


「いや、そなたの娘も今、候補に入った!


だが、『いとこ』だからなあ……。


実の父の女好きが遺伝する確率が上がるかも……」


王太子の目が遠くなる。


「キャロルもそうですからねえ……」


アレクの目も遠くなった。


「うちの娘もだ」


レオンまで言う。


三人はそろって、夫人たちのそばにいるアンドルへ目を向けた。


そして、にこにこしながら近づいていく。


「なあ、アンドル。


そなたの娘、かわいいなあ……」


王太子が、にやりと笑った。


「うん。


高貴な顔をしている」


アレクも言う。


「この娘は美人になる」


レオンもうなずいた。


「王太子妃と、そなたの夫人はいとこ同士だし。


いいよなあ」


三人は、満面の笑みでアンドルを見る。


「何事ですの?」


デリアが目を見開いた。



「今日、王子様は連れてこなかったのですか?」


リリアが王太子妃に尋ねた。


「一応、『公務』が入ったので置いてきました。


一緒に来たら大変よ。


ここにある調度品、全部壊してしまうわ」


王太子夫妻が、そろってため息をついた。


「誰か、よい教育係が欲しいのだが……。


なかなかいないのだ」


王太子がぼやく。


「二か国語を話せて、悪いことをした時にはびしっと叱ってくれる。


教養や礼儀作法を教え、将来的には勉強まで見てくれるような者がいればよいのだが」


そして、ふとレオンの息子を見る。


少年は、静かにソファーへ座り、絵を描いていた。


「レオンの息子は、おとなしいなあ」


「いやいや。


あれも小さい頃は大変だったのです。


もう、めちゃくちゃで……」


レオンが苦笑する。


「クリスティーネのおかげです。


クリスティーネは、本当によい教師ですよ」


王太子夫妻の目が輝いた。


「欲しい!」


王太子が即答した。


「ぜひ、王子の教育係になってもらいたい!」


「でも……。


せっかく父上のもとへ母上が戻ってきたのに……」


アレクが不満そうに言った。


「私だって、おばあ様に甘えたい」


アレクは、亡き母方の祖母を思い出していた。


大好きな祖母だった。


母方の祖父母を知っていたからこそ、彼は父方の祖父母が異常であることに気づくことができたのである。


「通いでよい。


数年でいいのだ。


とにかく、あのまま育ってしまっては困る」


王太子がアレクへ頭を下げる。


「おばあ様は、もうお年ですし……」


アレクが、ふくれっ面をした。


「あなた。


それは、おばあ様に失礼です」


リリアが言う。


「まだまだお若いですわ」


「六十は過ぎているだろう?」


「六十代なんて、まだまだお若いです」


リリアはきっぱりと言った。


そこへレオンも口を挟む。


「娼館には、七十を過ぎたご婦人もいたぞ」


ぼそりとつぶやいた。


「客だって、六十過ぎなんて普通だったわよね。


八十近い人もいたわ」


ジャンヌも笑う。


アレクは絶句した。


「えっ?


そんな年齢でも?」


「それに、クリスティーネは、まだ六十にはなっていないと思うわ」


ジャンヌが指を折りながら数える。


アレクが、


「へっ?」


という顔をした。


「記録によりますと、ご結婚が十四歳。


ご出産が十五歳となっております」


フレッドが、手元の資料を見ながら言った。


「そんなに若くして……。


結婚して、出産して、その直後に捨てられた?」


アレクの体が、ぐらりと揺れた。


今にも倒れそうである。


「あなた、しっかりしてください。


私たちの結婚が、あちらの時代では遅い方だったのです」


リリアが言う。


だが――


「私たちが普通だろ!!」


アレクが叫んだ。


「あのハゲは、親子ほど年の離れた妻を迎えた挙げ句、子供を産ませて、すぐに捨てて、別の女とすり替えたのか!」


顔色が、みるみる青くなる。


「すまない……。


『もしもキャロルが……』


と思ったら、吐き気が……」


先ほどまで笑い転げていたのが嘘のようだった。


「しっかりしろ!


普通などない!」


レオンも声をかける。


「はい、若だんな様。


お水をどうぞ」


フレッドが、コップに入った水を差し出した。


「飲んだら……吐きそうなのだが……」


「では、こちらを」


フレッドは、そばに置いてあった花瓶から花を抜き、水を窓の外へ捨てた。


そして、その花瓶をアレクの前へ差し出す。


「若だんな様。


それくらいで卒倒していては、父親など務まりません」


アレクの口元へ花瓶を支えながら、耳元でそっとささやく。


「お嬢様を守れるくらい、強くなられるのです」


「……そうだった」


アレクは息を整えた。


「何だか、吐き気が収まった。


ありがとう」


顔色も、少しずつ戻っていく。


「普通、花瓶には吐けないよなあ……。


口が狭いから、『命中率』が……」


アンドルが、ぼそりと言った。


「本当に執事に向いているのか?


彼は」


レオンも小声だった。


フレッドは何も言わず、花瓶を元の場所へ戻した。


花を挿し直し、先ほどのコップの水を花瓶へ注ぐ。


「お邪魔いたしました。


では、お話の続きをどうぞ」


そして何事もなかったように、部屋の隅へ戻った。


「執事さんが乗り移ったみたい……」


リリアが感心した。


リリアには口の動きで、フレッドがアレクへ何を言ったのか分かっていた。


「そうか?」


ほかの全員の声がそろった。



そうして、楽しい時間はあっという間に過ぎた。


「お帰りのお時間でございます」


いつもの近衛騎士が扉を開けた。


「楽しい時間は、あっという間に過ぎてしまうのだな」


王太子が残念そうに立ち上がった。


「では、また明日。


クリスティーネ殿も連れてきてくれ。


父上と母上に会わせたい。


それから、王子にもな」


王太子夫妻は帰路についた。


「すごく、お話ししやすい方でした」


ジャンヌが胸をなで下ろした。


「今日は『特別』だ。


明日は、もう少し礼儀をわきまえてくれ」


レオンがジャンヌに言う。


「クリスティーネが一緒だもの。


大丈夫」


ジャンヌは笑顔になる。


だが、レオンは静かに言った。


「もう、頼れないぞ。


こちらへお返しするのだから」


「……そうだったわね」


ジャンヌの笑顔が消えた。


「ずっと一緒だったから……。


これからも一緒にいるものだと思い込んでいたわ」


肩を落とす。


「えっ?


クリスティーネ、一緒に帰らないの?」


レオンの息子が尋ねた。


「クリスティーネは、ここのご主人のお母様だったのだよ」


レオンが優しく説明する。


「そなたも、母上と離れたら嫌だろう?


本当のお子にお返しするのが、当然なのだ」


少年の肩も落ちた。


「僕……。


クリスティーネがいないなんて嫌だ」


そして、泣き出した。


「ああ、いつでも会える。


だから泣くな」


そう言うレオン自身も、目を潤ませていた。


「物心ついた頃には、もうそばにいた人だからな。


赤ん坊だった私の世話をしてくれたのも、きっと彼女だったのだろう。


貴族としての礼儀作法も教えてもらった。


勉強も見てもらった。


てっきり元侯爵が手を回していたのだと思っていたが……。


違ったのだな」


「私だって……」


ジャンヌも涙をぬぐった。


「売られて、顔に傷をつけた時。


手当てしてくれたのがクリスティーネだった。


文字を教えてくれた。


本も読んでくれた。


家事も全部教えてもらった。


私は貴族じゃなかったから、礼儀作法までは習わなかったけれど……。


どれだけ助けてもらったか」


ジャンヌの涙が止まらなくなる。


「何も、恩返しできていません……」


それにつられるように、レオンの腕の中にいた娘まで泣き出した。


一家全員、泣き声の合唱になってしまった。


「分かっています」


ジャンヌが涙を流しながら言う。


「クリスティーネは、ここで暮らすべきです。


分かっているのです。


だけど……感情が言うことを聞いてくれません」


「思い切り泣けばいい」


アンドルが言った。


「だが、亡くなったわけではない。


いつでも会える。


そのことを忘れるな」


そして、少し声を落とす。


「そなたたちですら、これほどクリスティーネを慕っている。


実の息子である公爵閣下なら、なおさらであろう。


ここは、耐えるべきだ」


デリアもうなずいた。


「私の両親も海外におります。


会いたいです」


デリアが静かに言う。


「ですが、お互い元気だということさえ分かっていれば、それで十分です。


海外よりは、ずっと近いですわ」


その言葉に、ジャンヌは涙をぬぐった。


「そうね……。


私も『親離れ』しなくてはならないわ」


そして、顔を上げる。


「それが、今までのご恩返しになるのでしょうね」


ジャンヌとレオンは、アレク夫妻へ向き直った。


「アレクシス様、リリア様。


どうか、クリスティーネのことを、くれぐれもお願いいたします」


二人が深く頭を下げる。


「こちらこそ」


アレクも頭を下げた。


「おばあ様を、今まで守ってくださってありがとう。


こんなに早く再会できたのは、レオンたちのおかげだ。


本当に、ありがとう」


すると、レオンの息子が言った。


「僕、次にクリスティーネに会った時には、計算がもっと早くできるようになって、褒めてもらう。


だから……いつでも遊びに来ていいですか?」


少年の瞳は真剣だった。


「ああ。


いつでも来るといい。


皆で、楽しく過ごそう」


アレクは、少年の頭をなでた。


そして、ふと思いついたようにレオンへ言う。


「この子、キャロルの婿に欲しい。


駄目?」


「駄目だ。


跡取りだ」


レオンの顔は冷たかった。


「さっさと次の子を作るのだな。


頑張れ」


アンドルが、アレクの背中を叩く。


「うー……。


一年できなかったのですよ。


あんなに『仲良く』したのに」


それを聞いたリリアの耳が、真っ赤になった。


「とにかく頑張れ」


レオンもアレクの肩を叩く。


「たまには外で泊まってみたらどうだ?


今夜、我々が予約している宿は、源泉かけ流しの温泉付きだ。


各部屋に風呂がある。


休憩でも利用できるぞ」


レオンが、やけに詳しい。


「どうして、そんなことをご存じなのです?」


リリアが不思議そうに尋ねた。


「まあ……いろいろとな」


レオンは言葉を濁した。


公爵邸の騎士たちの憩いの場になっているとは、言いづらかった。


中には時折、娼婦を連れ込む不届き者までいるのである。


「というわけで、我々はその宿へ戻る。


また明日来るからな。


クリスティーネ殿を頼む」


そう言って、レオン一家を乗せた馬車は宿屋の方角へ進んでいった。


「我々も、同じところに泊まっている。


家族風呂はありがたい」


アンドル一家も、宿へ向かった。


「海の近くの別邸を思い出すなあ」


アレクの顔が、にやついた。


リリアは無言で、そっとアレクの足を踏んだ。


その顔は真っ赤だった。


「さあ。


私たちも、おばあ様のところへ参りましょう」


リリアはキャロルを抱き、公爵の私室へ向かった。


……この作品、花瓶の扱いも結構ひどいですね。

一つはダハントの頭で割られ、もう一つは吐瀉物受け候補ですw

とはチャッピー談


確かに!(笑)


お読みいただきありがとうございます

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