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第3話:洛中の凶刃、散りゆく茶屋の桜

安国寺恵瓊との会談を終えた私は、張り詰めた糸が切れるような安堵と、それ以上の強い警戒心を感じながら、京の路地裏を歩いていた。


夜の洛中は静まり返っている。


だが、その静寂は、獲物を狙う獣の気配に似ていた。


(甘かったか。……いや、遅かれ早かれ、俺の動きは誰かに嗅ぎ取られる運命だった)


背後から、微かな殺気を感じた。


気のせいではない。


戦場を幾度も潜り抜けてきた直感が、警鐘を鳴らしている。


私は足を止め、懐に忍ばせていた短刀の柄に手をかけた。


「……そこまで追ってきたのは、どこのどいつだ? 織田の忍びか、それとも義父殿の犬か」


人気のない路地に、私の声が冷たく響く。


闇の中から、三つの影が躍り出た。


彼らは顔を覆面で隠し、揃いの黒装束を身につけていた。


しかし、その動き、その気配は、ただの刺客ではない。訓練された精鋭の暗殺者だ。


「……織田信澄殿。その首、いただきに参った」


短く告げると、彼らは一斉に私へ襲い掛かってきた。


ガィィィン!


私は瞬時に短刀を抜き、最初の一撃を受け止めた。


刃と刃が激しくぶつかり合い、火花が散る。


強烈な一撃だった。だが、私も転生してから剣術の鍛錬は怠っていない。


身体に染み付いた武家の血が、反射的に私を動かした。


(くそッ、三対一か。……ここは、狭い路地だ)


私は不利な状況を悟り、すぐさま後方へ跳躍した。


路地の壁を蹴り、宙返りをして相手の頭上を取る。


空中で短刀を振り下ろすが、暗殺者の一人がそれを難なく躱した。


恵瓊との会談の直後、ここで死ぬわけにはいかない。


私は叔父上を救い、歴史を変えるために、ここで生きて帰らなければならないのだ。


「邪魔をするなァ!」


私は怒号と共に、連続して攻撃を仕掛けた。


一合、二合、三合。


短刀を巧みに操り、相手の急所を狙う。


しかし、暗殺者たちも連携が取れており、私の攻撃を完璧に防御し、反撃してくる。


彼らの剣術には、どこか見覚えがあった。


(……これは、明智家の家臣団が使う剣術の型に似ている。やはり、義父殿の刺客か!?)


その瞬間、背後にいた別の暗殺者が、私の死角を突いて刀を振り下ろした。


背中に冷たい走る感覚が伝わる。


私は間一髪で身体を捻ったが、刀は私の肩を深く切り裂いた。


「ぐうッ!」


鋭い痛みが身体中を駆け巡る。


私は膝をつき、短刀を杖に立ち上がろうとしたが、肩からの出血が視界を奪う。


暗殺者たちが私の首元に、静かに刀を向けた。


死の恐怖が、頭をよぎる。


(ここで、終わるのか。織田信澄としての転生の物語は、こんな路地裏で……)


その時。


「貴様ら、そこまでだ!」


夜の闇を切り裂くような鋭い声と共に、路地の入り口に一人の人影が立っていた。


ぼんやりとした月明かりの中で、その人物の姿が浮かび上がる。


蒼白い肌、端正な顔立ち、そして鋭い瞳。


見知らぬ若武者だったが、その佇まいには、ただならぬ気品と強さが漂っていた。


「誰だ、貴様!」


刺客の一人が若武者に怒鳴る。


若武者は薄く笑みを浮かべ、腰に差していた名刀をゆっくりと抜いた。


「俺の名は、織田信長が嫡男、織田信忠。……我が従兄弟である信澄殿を殺そうとは、いい度胸だ」


織田信忠様。


本能寺の変で信長公と共に斃れた、織田家の若き麒麟児。

彼がなぜ、こんな時間にここに現れたのか。それを考える余裕はなかった。


信忠様は刀を一閃させ、瞬く間に二人の暗殺者を斬り伏せた。


残った一人は恐怖に震え、逃げ出した。


私は呆然としながら、血を流す肩を押さえ、立ち上がった。


織田信忠。


彼が歴史の表舞台に立っていれば、本能寺の変は起きなかったかもしれない。


彼との出会いが、私の運命を、そして織田家の歴史を、さらに大きく変えようとしていた。


私は静かに信忠様に一礼した。


「信忠様、……助太刀、感謝いたします」


信忠様は血の付いた刀を納めると、私を真っ直ぐに見据えた。


「……京で怪しい動きがあるとは聞いていたが、まさか従兄弟の命が狙われるとはな。信澄、そなた、一体何を調べているんだ?」


運命の歯車は、また一つ、大きく音を立てて動き始めた。



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