第37話「マタニカウ川への旅立ち」
9月21日 ガダルカナル島 残存部隊陣地
小嶋「…」
小嶋は一人、死んだ好古を見つめていた。
彼の悲壮な覚悟を目の当たりにして見たからだ。
皆がぞろぞろと進軍準備を進めていく中その行動をしていたため、隼斗が近寄ってくる。
隼斗「あの…好古さんのことは、私も残念に思います。しかし、今は…」
小嶋「うるさい!!みんなそうだよ!みんなみんなそうやって残念だとか戦争だからとか言いやがる!だから何だってんだよぉ!」
小嶋はそう戦争に感じていた不条理を隼斗にぶつけてしまう。
隼斗は少し驚き、後退りする。
隼斗「…」
小嶋「なぁ…答えられないだろ…?答えられないくせにみんなそうやって言うんだ…いったい誰なら俺に答えを教えてくれるんだよ…いったい、誰が…!」
小嶋がそう隼斗に怒りをぶつけようとした瞬間、後ろから怒鳴り声が聞こえる。
?「なにごちゃごちゃ抜かしてんだお前!」
そう言われると、小嶋は振り向く。
そこには、こちらを睨見つけてくる強面の20代ほどの青年がいた。
小嶋「お前は、誰だ…」
その者に名を聞くと、素直に彼は答える。
草薙 征爾「あ?俺は草薙 征爾ってもんだ。あまり言いたくはねぇがそこにいる好古上等兵…いや…好古伍長の変わりに配属された。階級は上等兵。」
そう言い終わると、小嶋は草薙の胸ぐらを掴む。
そうして怒りに満ちた顔で言う。
小嶋「"英霊"に対する言葉遣いに気をつけろ…!」
これほどまでに怒りに満ちた顔は隼斗やほかの部下たちも見たことがなかった。
それを察したのか、草薙は言い直す。
草薙「好古伍長殿の変わりに、来ました…」
小嶋「…」
そう草薙が言い直すと、小嶋の怒りに満ちた顔は消え去り悲しい顔になった。
小嶋「偉くなりやがって…」
そう、部下に話すような口調で言う。
好古やその他の部下たちは小嶋からすれば弟のような存在であったからだ。
必ず…仇は…!
そう心で、覚悟を決めた。
中尾大尉「なにかお取り込み中のようだが失礼させてもらうよ。」
そうして横に振り向くと今度は中尾大尉が立っていた。
命令を伝えに来たのだ。
中尾大尉「これより我々は、設営隊やその他の分散した陸軍の一木支隊や川口支隊の生き残りが大勢いる残存部隊と合流し、さらなる戦力向上を図るためにマタニカウ川への進軍を開始する」
小嶋「了解しました…」
そう中尾大尉から命令を伝えられると、すぐに小嶋は返事をする。
しかしそれは、上陸時の小嶋とは比べものにならないほど弱々しいものだった。
中尾大尉「…まぁいい、とりあえず準備が終わり次第出発するから急げ。」
そうして、中尾大尉はどこかへまた歩いていった。
中尾大尉の背中を小嶋は見つめることしかできなかった。
草薙「ところで…さっきのことだが…そんな綺麗事が通用すると思ってやがんのか。」
小嶋「は…?」
そう草薙は小嶋に言う。
それはまるで小嶋の唯一のこっている人間性というものに銃口を向けられているようなものだ。
小嶋「あれは綺麗事じゃ…!」
草薙「じゃあ誰かが答えてくれるまで待つってのか!あんな質問誰も答えられねぇよ。戦争だからじゃねぇ、人だからこそ死ぬんだよ。」
草薙はそう小嶋に言い聞かせる。
これは、戦争という物の問題じゃないと。
草薙「たしかに戦争がなければ生きて帰れたかもしれねぇ。しかし未来は変えられると言ってもそれは"あれば"の話だ。元からないと覚悟しているやつに明日は来ない。その覚悟を無駄にしようとしていることに、気づかないのか…?」
そう草薙は覚悟と死というものについて語ると、小嶋の肩を掴んで言う。
草薙「あんたは生きたいという覚悟を持っているやつだと俺には見える。だったら死んでいったやつらの覚悟を無駄にしないために、"死ぬまで戦え"」
小嶋「っ…!」
小嶋はなにも言い返せなかった。
その言葉は草薙の勝手な想像でしかないと感じる人もいるはずなのだ。
しかし、小嶋にはそれは正しい言葉に聞こえてしまった。
「死ぬまで戦え」
その六文字に込められた意味は計り知れないものなのかもしれない。
だからこそ、小嶋の心には響いた。
小嶋「あぁ…そうだな…」
しかし、だからと言って彼の心の闇の面が浄化されていくわけではない。
さっきまでいた弟たちが今はいないと考えると闇に引きこもりたくなってしまう気持ちも分かるはずなのだ。
「敵に立ち向かうための武器は"命"しかないぞ。」
小嶋「…?」
小嶋はふとそう誰かに呟かれた気がした。
たしかにそう、武器は命と。
隼斗「なにか感情に浸られているようですが…今は皆が待っています。早くいきましょう。」
小嶋「あ、あぁ…そうだな…よし!第5分隊も進軍に加われ!」
そう命令を出し、小嶋も歩き出す。
そうして、草薙のほうを向く。
小嶋「草薙、お前の言っていることはもしかしたら正しいのかもしれないな」
草薙「?」
草薙はそういきなりの言葉に頭に?(はてな)が思い浮かんでしまう。
そのことを察してか小嶋は言う。
小嶋「いや、もしかしたらの話だ。気にしなくていい。行くぞ。」
小嶋の心のなかでは、闇と光と魂の炎が混じり合っていた。
第37話「マタニカウ川への旅立ち」




