第25話「夜襲の果てに」
あの日から何をしてきたのか、よく覚えていない。
9月12日 ガダルカナル島 夜 ムカデ高地周辺
小嶋「おい、今何日だ…?」
小嶋は部下にそう聞く。
義雄二等兵「今は12日ですね。時計は11を指しています。」
この者は義雄二等兵。
もともと翔太二等兵とは同期で仲も良かったらしいが、あの日マラリアに彼が襲われてからはあまり笑顔を見せなくなった。口だけはきいてくれる。
今自分は部下を3人程度連れており、小隊長に続いて突入する予定だ。
今回の小隊長は、前回の別働隊のときにお世話になった隊長だ。
隊長の名は、小塚と言う。
小塚小隊長「いいか?今日が夜襲開始日だ。俺たちは中央隊としてムカデ高地を攻略する。ここは何個かの丘に分かれていて俺たちは今草木に紛れて潜伏しているが、この前方の丘にはもう既に米兵どもが陣地を構築している。後方からの援護に気をつけながら攻撃するぞ。いいな?」
小塚小隊長はそう作戦説明をする。
小嶋班「「「了解。」」」
小嶋は自分の班を指揮しながら突入の機会をうかがう。
しかし、こうして夜空を見ると…
流れる星々が綺麗だ…
でも、あの日翔太が死んでからもう何も覚えていない。
でも、今そんなことは気にしては…
「突撃ぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!」
そんなことを考えていた瞬間となりの草木が生い茂っているところから一気に一個小隊が突撃を始めた。
小塚小隊長「くそっ…!予定より早いぞ!まぁいい、援護しろ!!撃ちまくれ!」
その瞬間から戦いの火蓋は切って落とされた。
ズダンッ!ズダンッ!と三八式歩兵銃の発射音やズダダダダダとM2ブローニング機関銃の発射音が響き渡り始める。
「うぉぉぉぉ!」「天皇陛下バンザァァイ!」
「お国のためにぃぃ!」「突っ込めぇぇぇ!」
「fuckin jap!!!!!!」「FIRE!!!!FIRE!!」
雄叫びや英語のような言語が飛び交う。
グチャという生々しい音やヒュンという跳弾音、そして"悲鳴"…
ドシャという音とともに自分たちの近くに日本兵が倒れ込む。
負傷兵「頼む…助けて…たすけ…て…」
そう足を押さえながらこちらへ助けを求めてくる。
もちろん助けに行きたいが、ここから出れば…
小町「待ってろ!今行ってやるからな!」
そのとき小嶋の部下が一人ライフルを捨てて草木から飛び出す。
小嶋「なっ…!?おい!待て戻れぇ」
小嶋のとめる声は届かずまだ戦場を知らない小町はライフルすら持たずに負傷兵を担いでこちらへ歩いてくる。
しかし、小嶋には見えた。
機関銃がこちらを向いているのを。
咄嗟に、声を出す。
小町「はぁ…ようやく、ようやく助けれる…」
あれ、班長なに言ってるんだろう…
よく聞こえないや…
あれ、なにかが、迫ってくる…
俺は、一体…
「伏せろぉ!小町ぃぃぃぃぃ!!!」
ガァァンと、金属音が響いた。
機関銃から放たれた弾丸は、小町のヘルメットを貫いた。
小嶋「小町…小町ぃぃぃぃ!!」
そう叫びながら小嶋も草木から飛び出し敵の機関銃や兵士たちの的となるも、駆け抜け続ける。
小町…小町…!!
たどり着いて状況を素早く確認するとどうやら頭には当たってはいなかったらしい。
かすって飛んでいっただけだった。
そうして小町を背負い、草木のところへ駆ける。
小嶋「うぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
そう雄叫びを上げながら草木に向かって飛び込もうとした。
しかしその時、後ろでどこからか飛来した榴弾が光を出しながら炸裂した。
ドギャァァン!という音ともになにか生々しい音がしたが気にしてる余裕はない。
僕らは急いでライフルを持ち直して退却した。
結局この突撃により得られた戦果は一個機関銃破壊のみであった。
突入した小隊は全滅し、僕らの小隊からも2名が戦死した。
部隊集合場所 深夜
小嶋「はぁ…はぁ…ついたぞ…小町…」
そうして安堵した小嶋は小町を降ろそうと背中を触った瞬間、なにか水のようなものが当たった。
あれ…?今日雨なんて降ったっけ…
そう思いつい手を見てみると、"赤いもの"がついていた。
小嶋「くっ…!!」
慌てて小町を降ろすと背中には無数の破片が刺さっており、血が大量に出てきていた。
小町「あ…あがっ……」
小町はずっと苦しそうにしていた。
しかし抜けばそれこそ大量出血してしまう。
どうすれば…どうすれば…!!
そのとき、小町が小声でしゃべる。
小嶋「かいしゃ…く…?」
この俺に、介錯しろと…?
小嶋は大量の汗をかきながら葛藤した。
"生かす"か"殺す"か2択に一つの正解がある。
だったら…もう…
小嶋「奥…連れてくぞ…」
そうして小嶋は再び小町を背負って少し森林にはいる。
そうしてまた小町をおく。
自分も座り、水を飲む。
小町「な…なにを…?」
小町は困惑していた。
いきなり座ったかと思うと銃剣を出すのではなくいきなり水筒を出して水を飲んでいるのだ。
しかも彼の瞳には一切…
「光」も「情熱」も灯っていなかった。
小嶋「なぁ…小町。お前、あの世に天国があると思うか?」
小嶋はそう小町に問いかける。
小町「ハハッ…よく重症人にそんなこと…聞きます…ね…まぁ…あると、思います…よ…」
小町は苦しそうに答えた。
小嶋「ある…か…理想だな。」
そう言った瞬間ベルトから銃剣を出し、水筒の水を持ち手の部分にかける。
小嶋「少しでも、清めがあったほうがいいだろ。清めというのがなにかは知らないがな。」
そうしてその銃剣を片手で持ちながら小町を片腕で抱き上げる。
小町「僕、実家に帰りますね…お先に…」
小町はそう小嶋に告げる。
小嶋「ハハッ…靖国行かず実家帰り…か…悪くはないぜ、それ。」
その瞬間、大きく振りかぶる。
「母さんの飯…食べたかったなぁ…」
ドッという音が鳴る。
銃剣は小町の腹を貫き、静かに息絶えた。
小嶋はまた一人、部下をなくした。
第二十五話「夜襲の果てに」




