外伝「ある日本兵の話。」
今回はあえて無名の日本兵に着目してみることで、記録上の命の重さとは?ということを描く外伝です。
それではどうぞ。
1939年 日本本土のどこかの田舎
俺の名前は、吉義という。
吉と義と書くんだ。
とてもいい名前だと自分でも思っている。
この名前をつけてくれた母さんや父さんには感謝がしきれない。
そして今自分は田舎の自分の家にいる。
吉義「ふぅ…とりあえず休憩ー。」
あたりから蝉の声が鳴り響く。
太陽の光が暑い…
太陽を遮る雲が欲しいなと考える…
現在俺は畑仕事をしており、家族と仲良く暮らしている。
父「おーい。まだ休んだら駄目だぞー。まだまだ次があるんやから〜しっかり今日業者に持っていかんと。」
吉義「えぇ…!?まだやるの…もう1時間は働いたよ…」
吉義はかなり汗をかいていた。
でもお仕事は休めない。
父「ハハッ体内時計はそうかもしれんが実際には20分も経っとらんぞ〜。」
そう父は愉快に言う。
ふと周りに目をやる。
そして端っこのほうの草が生えている地面のところを見ると、母が座っている。
母「うふふ、元気なことですね。」
赤子「ぁ〜ぁ〜」
母は近頃生まれた赤子と一緒に畑仕事をしている吉義と父を見ていた。
そしてその日はかなりの量の麦が採れ、大八車に載せて業者のもとに運びに行く。
そして田んぼ道を父と歩く。
父に話しかけられる。
父「お前、軍隊いくんか?」
吉義「いきなりどうしたの?」
吉義はいきなりのことに少し疑問に思う。
父は吉義が軍隊に徴兵されることを考え、そう聞く。
父「いやな、お前がどうしても生きたくないという言うなら、おまえのことをかくまってやればいいが…」
父はどうしても吉義のことが心配でたまらず、守るためなら国にも反する覚悟があった。
でも吉義の考えは違った。
吉義「いや、いいんだよ父さん。」
吉義は優しくそう言う。
そして続ける。
吉義「俺はさ、母さんや父さんにとってきっと一人の自慢の息子だと思うんだ。そんな息子が立派に軍隊に入れば、きっと母さんも俺の成長を喜んでくれると思うんだ。だから俺は逃げないよ。」
そう微笑みながら言う。
父さんはその吉義の心遣いに負ける。
父「いや…これは一本取られたわあっはっは!まぁ、吉義がそう言うならいいんだぞ。俺は立派な息子を止めはしない。」
父も少し微笑みながら言う。
お互いに微笑んだ顔で見つめ合う。
3秒間ほど静寂が流れた時、一気に笑いが生まれる。
吉義、父「アッハッハッハー!」
そしてお互いに笑いまくり…
笑いまくって…
笑い尽くす…
ただの…平和な風景だ。
そして、業者さんに麦を渡した後。
父と帰る。
吉義「父さん、家に帰ろっか!」
父「そうだなっ!早く帰って飯にしよう!今日は魚だ!!」
父さんの夜飯の宣言に、吉義は喜びながら父と帰る。
田んぼ道をただ笑い話をしながら、帰る。
ひたすらに幸せも何も感じず、ただ笑いだけを。
ガラガラと戸を開く。
奥の台所から母が出てくる。
母「おかえりなさい二人とも、暑かったでしょう。お水出しますね。」
吉義「うん、ありがとう母さん。」
そして廊下を進み先に居間に向かう。
居間に進む時、風鈴の音が聞こえる。
蝉の声も、同様に…
吉義「綺麗な音だな…」
そんな事を言いつつ、居間につく。
そして父も来て、母も赤子を連れてくる。
そして飯の並んだ机を囲み、食べる。
吉義、父「いただきまーす!!!!」
母「いただきます。」
吉義と父がうるさくいただく中、母は静かに冷静に食べる。
家族で机を囲んで談笑する。
吉義「母さん、そういえばさ僕の名前ってどういう意味なの?」
吉義は自分の名前の意味を知りたいと思い、母にそう聞く。
母もそうつけた理由を話す。
母「あなたの名前は、周りに吉の幸せを撒き、義のように正義を貫く。という意味があるのですよ。」
母は一生懸命に吉義の名前を考えてくれていた。
ただかっこいいだけではない。
その優しさに満ち溢れ、正義に突き進むという意味の名前だった。
父「お前は俺の嫁の優しさと俺の正義に突き進む心を受け継いでいるな!!これからも精進せいっ!ガーッハッハッハ!」
吉義、母「ぷっ、アハハハ!」
家族みんなで机を囲みながら、笑う。
ただ、その名前の話に。
くだらない話にも。
大切な話にも。
俺…笑う母さんや父さんの顔が…好きだよ…
そして、幸せだった1年が過ぎる…
1941年 軍隊出征前 近くの田んぼ道
父「本当に、大丈夫か?」
父と母は心配そうな顔でこっちを見て聞く。
俺は太陽に照らされ、汗をかく。
蝉の声も聞こえる。
隣にはたくさんの田んぼが見える。
こんな綺麗な自然を背景に歩けるなんて幸せだな
と、感じる。
吉義は汗をぬぐって言う。
吉義「俺は大丈夫だよ。逆に母さんと2人で田んぼやっていける?」
父「田んぼはわしだけでいいが…お前は…」
やはり父はいつまでも吉義の心配をする。
あれだけ笑いあった息子が、いきなり消えるのだから。
母「吉義…私たちを…この娘を…守ってね…!」
そう涙を流しながら赤子を見て言う。
吉義は勇ましく、男らしい顔で言う。
吉義「あぁ…!俺が、家族のために!立派に生きて帰ってくるよ。その時は…褒めてね…」
その瞬間父が抱きつく。
父「あぁ…!あぁ!いくらでも褒めてやる!何度でも抱きしめてやるからな!」
大泣きしながら抱きつく父に母も同じように抱きつく。
そしてしばらく抱きついて、少し離れる。
吉義は次に赤子に話しかける。
吉義「いいか?俺と約束だぞ。お前が大人になったら、母さんや父さんや…俺を助けるんだぞっ!」
そしてニコッと笑いながら話しかける。
その心が伝わったのか赤子も少し笑う。
話したいことはすべて話した…
もう…いかなきゃ…
そして、果てのないような田んぼ道の先を歩いていく。
母「吉義!!!!」
母がそう名前を叫ぶ。
吉義は、振り向き…
立派に敬礼した。
それを見た3人は、安心した顔をして見送った。
吉義「行ってくるね…」
そして、吉義は旅立った。
1942年 8月7日 ガダルカナル島
吉義「ち、畜生………」
声が…かすれてる…
足が動かない…
いや…ないのか…?
わからない…
艦砲射撃で…吹っ飛んだのか…?
畜生…畜生…
生きて帰るはずだったのに…
口のなかに砂が…ジャリジャリする…
目が…血で…
片耳が聞こえない…ずっと幻聴が聞こえる…
助けて…助け…
そのとき、目の前が光りに包まれる。
そして目の前に現れたのは…
母だった。
必死に、手で進む。
母の元へ。
そして…
ガシッと、掴む。
やっと…掴めた…
吉義「か、母ちゃん…」
母「お疲れ様です。もう、良いのですよ。」
母はそう語りかけ、吉義を何処かへ連れて行く。
吉義「か、かあ…」
そこで、目の前は…
なにもなくなった。
外伝「ある日本兵の話。」
今回は無名の日本兵の話を描いてみました。
大分日常パートを多くし、1日1日の幸せさをかみしめる回にしました。
このように外伝もどんどん連載していきますのでどうぞ本編とともに外伝もよろしくお願いします。




