第四十二話 封印の水晶姫を倒してみた
水晶迷宮ダンジョンの奥地。
ボスモンスターの封印の水晶姫。
それと対峙するセラートこと哲人。
なで子とユキ。
そしてプロハンターの山野辺ジンギ。
十年前のダンジョン開拓の黎明期から活躍する人物だ。
そのレベルは70に近いといわれている。
「仮面の兄ちゃん、俺が支援するから支援するから突っ込めるか?」
「あ、ああ」
哲人は立ち上がる。
そして口元の血を拭う。
ダンジョン奥地のボスモンスターとの長期戦はマズい。
それはこれまでの別のボスモンスターとの戦いでもわかっている。
「…」
剣を構える。
このダンジョン自体が、相手のホームステージのようなもの。
それに雑兵であるクリスタルハウンド、クリスタルゴーレム。
巨大な結晶の騎士のクリスタルナイト。
これらといちいち戦っていてはきりがない。
「よし」
そして笑った。
彼はようやく理解した。
この少女の姿をしたモンスター、封印の水晶姫。
これは普通のモンスターではない。
ダンジョンそのものを管理する存在。
つまり、この水晶迷宮の中枢。
ダンジョンコアに近い存在だ。
「(以前、天地反転ダンジョンを経験しておいてよかったな)」
天地反転ダンジョンで戦ったモンスター、『鏡の長老』も似たような存在ではあった。
しかし、ダンジョン内での重要度ではこちらのほうが上。
あの封印の水晶姫を倒せば、ほかのモンスターもおそらくは何らかの弱体化をするだろう。
「なで子!」
「なに!?」
「ユキと一緒に道を作ってくれ!」
「道?」
「俺が本体を叩く!」
二人は一瞬だけ迷う。
他の雑魚モンスターの数も多い。
ジンギも信用できるかわからない。
だが、信じた。
「ユキ!」
「うん!」
二人が動く。
ユキの矢が飛ぶ。
クリスタルナイトの核を打ち抜く。
なで子の魔法が炸裂する。
無数のハウンドを薙ぎ払い、ゴーレムの足を止める。
倒す必要はない、道を作るのだ。
「よし!」
封印の水晶姫へ続く一直線の道が生まれた。
その瞬間、哲人が走った。
今まで見せたことのない速度だ。
「援護する!」
ジンギが道をより強固なものにする。
しかしそれでも湧いてくるモンスターがいる。
それを哲人が倒す。
地面が砕け、空気が裂ける。
「攻撃が…なんか違う!」
「…魔力同期!」
今、なで子やユキが使用しているのはアークレイズ社から提供された試作武器だ。
哲人も同じくそれを使っている。
その武器に刻まれた能力。
三人で魔力を共有する力、それが魔力同期。
「魔力の共有…」
ユキが驚いた顔をする。
他人から魔力を少し引き出すことができる。
逆に、他人に与えることもできる。
戦闘効率を上げるための補助機能。
パーティー全体の魔力を、ゆるやかに接続する。
そのおかげでなで子とユキの力が底上げされているのだ。
「…ッ!」
封印の水晶姫へ続く一直線の道。
湧いてくるモンスターたちを切り捨て、哲人が封印の水晶姫へ届く。
そして少女の瞳が初めて見開かれた。
『警告、危険、危険、危険…!』
無数の水晶槍と防壁。
しかしその全てを哲人は斬り裂く。
そして少女の目前へと立ち、剣を振り上げた。
『危険、危険、危けッ…!』
そのまま核を真っ二つに切り裂く。
封印の水晶姫の全身から力が抜ける。
そのまま崩れ落ち、身体がバラバラになる。
魔石と素材を残し、粉々に砕け散った。
「あ、魔物たちが…」
なで子が呟く。
封印の水晶姫が操っていた水晶の魔物たちもすべて崩れ落ちた。
そして静寂が訪れた。
先ほどまで空間を埋め尽くしていた咆哮も、結晶の砕ける音も、もう聞こえない。
「…終わった」
哲人はゆっくりと剣を下ろした。
その時、ダンジョン全体が低い轟音を上げた。
天井の巨大な水晶が淡く光り輝き始める。
なで子が慌てながら言う。
「崩落じゃないよね!?」
「いや違う」
なで子の言葉に対し、ジンギが即答した。
ユキは周囲を見回す。
「ダンジョンの構造が変化してる」
さきほど迷路のようだった通路。
それがゆっくりと一直線へと組み替わっていくのだ。
今まで閉ざされていた出口への道。
それが自ら姿を現していた。
「管理者がいなくなったからな、元のシンプルな構造のダンジョンに戻ったんだ」
ジンギが言う。
その時、地面に転がる透明な結晶が青白く光った。
封印の水晶姫の残したドロップアイテムだ。
ユキが駆け寄る。
封印の水晶姫が消えた場所には、いくつものアイテムが残されていた。
透き通る魔石。
拳ほどもある巨大な結晶。
王冠や水晶花を思わせる装飾品。
そして両断された封印の水晶姫の核。
「ドロップアイテムだ!」
なで子が目を輝かせる。
ジンギはしゃがみ込み、一つ一つ確認していく。
「特級魔石…純結晶核…迷宮結晶花まであるのか」
彼は小さく息を呑んだ。
「全部が最高級素材だ。」
ユキが思わず聞き返す。
「そんなにすごいの?」
「オークションに流れれば、とんでもない額になる。」
ジンギは苦笑する。
それを聞きうれしそうな顔をするユキ。
哲人は素材を収納バッグへ入れていく。
もちろん独占するつもりはない。
「配分は後で相談だな。」
「うん!」
「異議なし!」
そういうなで子とユキ。
しかし、ジンギだけは違った。
「俺はいい、『別のところ』から貰うからな…」
--------------------
帰路は驚くほど簡単だった。
先ほどまで複雑だった迷路は完全に一本道へと変化している。
魔物も一匹も現れない。
まるでダンジョン自体が四人を送り出しているようだった。
眩しい自然光が見える。
「出口!」
ユキが駆け出す。
そして四人は水晶迷宮ダンジョンから外へと出た。
なで子が大きく伸びをする。
外では既にダンジョン管理の職員や救護班が待機していた。
それだけではない
ダンジョンの入口から、一組の探索者パーティーがふらふらと現れた。
「た、助かった…」
「やっと出られた…」
彼らは涙ぐんでいた。
「三日間…同じ場所をぐるぐる回ってたんだ…」
それを皮切りに別のパーティも出てきた。
五人組、ソロ、親子の探索者。
初心者パーティー。
次々と迷宮から人々が姿を現した。
「出口が見つかった!」
「迷路が急に消えた!」
「道が一本になったんだ!」
ダンジョンの周囲は大騒ぎになる。
封印の水晶姫のせいで中に取り残されていた人たちが大勢いたらしい。
「こんなに取り残されていたのか…」
救護班がすぐに対応を始める。
一方、なで子の配信ドローンは、その様子も余すことなく映していた。
普段ならばダンジョンから出たら電源は切るのだが、今回は忘れていたのだ。
コメント欄は流れっぱなしだ。
『救助動画になってる』
『ボス倒したから迷宮が正常化したのか』
『英雄じゃん』
『マジで歴史的瞬間』
ダンジョン管理の責任者らしき人物が駆け寄ってくる。
ジンギは笑った。
そして哲人たちの方を親指で示す。
「説明は後だ、まず礼を言うならあいつらだ」
「え?」
責任者の視線が三人へ集まる。
ジンギは責任者に雇われ、封印の水晶姫の始末を任されていたらしい。
そして彼は真っ直ぐ哲人を見る。
「仮面の兄ちゃん、お前は間違いなく一流だ」
その一言には重みがあった。
黎明期から生き残り続けたプロハンター。
その男からの、何よりの賛辞だった。
「それに嬢ちゃんたち」
「はい?」
「お前ら二人も立派だった、いいチームだよ」
最後まで誰一人見捨てず、仲間を信じて道を作る。
探索者は強いだけでは意味がない。
信頼できる仲間、それが重要なのだ
ジンギはそう言った。
なで子とユキは顔を見合わせ、少し照れながら笑った。
「そういう意味じゃあ、俺もまだまだなんだけどな…」
ジンギが乾いた笑みを浮かべる。
哲人も小さく息を吐く。
長かった水晶迷宮での戦いは、ようやく幕を閉じた。
しかしその日の出来事は、『水晶迷宮正常化事件』としてダンジョン協会の記録に残ることとなった。
そしてなで子のチャンネルでは史上最高クラスの視聴数を記録する伝説の配信として、長くトップに君臨することとなった…
この小説が気になった方は☆☆☆☆☆で応援していただけるとありがたいです。
面白かったと思っていただけたら、感想、誤字指摘、ブクマなどよろしくお願いします!
作者のモチベーションが上がります!
コメントなんかもいただけるととても嬉しいです!
今後ともよろしくお願いします。
皆様のお言葉、いつも力になっております! ありがとうございます!




