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屋根裏ダンジョン育ちの無名剣士、配信で正体を隠したまま無双する  作者: 剣竜
第二章 屋根裏ダンジョン編

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第四十話 水晶迷宮を攻略してみた

 

 勉学もひと段落付き、なで子とユキが動画配信を再開した。

 再開後初の動画は、最近人気のダンジョン『水晶迷宮のダンジョン』の攻略動画。

 なで子、ユキ、そして哲人セラート

 いつも通りこの三人で攻略をする。


「二週間ぶりですねー!みんな!」


 動画配信用のドローンに向かって挨拶するなで子。

 今回攻略する『水晶迷宮のダンジョン』はその名の通り、美しい水晶で作られたダンジョンだ。

 動画映えするという理由で配信者内でも人気が高い。

 出現する魔物も程よいレベル、ドロップするアイテムもそこそこ。


「今回は『水晶迷宮のダンジョン』を攻略していきます」


「迷宮っていうくらいだし、迷いそうだね」


「大丈夫、ユキちゃん。ダンジョン入り口の受付で地図貰ってるから」


 迷宮と名付けられてはいるが、攻略用の地図も用意されている。

 これをもとに攻略を進めていく。

 動画映えするということで、配信者の黄金パターンだ。

 配信を見ている視聴者たちもコメント欄でいつになく盛り上がっていた。


 『きたー! なでユキ復活!』

 『二週間長かったぞ!』

 『初見 あの謎の覆面の人なに?』

 『いやこの人が一番強いんだよなぁ』


「謎の覆面…」


 哲人が心の中で苦笑しながら、背負った大型バックパックを揺らす。

 中には市販の回復薬や保存食。

 アークレイズから試作武装をもらう前に使っていた装備の一部を予備装備に。

 そしてなぜか、ユキが持ち込んだ大量のお菓子が詰まっている。


「遠足じゃないんだぞ」


「だって迷宮って、おやつ必要じゃない?」


 以前の叢雲ダンジョンでのおやつタイムで癖になったらしい。

 現実離れした場所で食べる菓子は最高とのこと。


「それに糖分も補給できるし」


「まあ、それはそうだけど…」


「はいはい、二人とも行きますよー」


 二人を先導するなで子。

 軽口を叩きながらも、三人はダンジョンの第一層へと足を踏み入れる。

 途端、周囲の景色が一変した。

 壁、床、天井。

 全てが透き通るような青白い水晶で覆われている。

 光源らしいものは見当たらないのに、迷宮全体が柔らかく発光していた。


「わぁ…」


「きれい…」


 ユキが思わず声を漏らす。

 なで子も、しばし配信を忘れて見入っていた。


 『スクショタイム』

 『これは確かに映える』

 『ゲームみたい』


 ドローンが静かに周囲を旋回し、美しい景色を映し出していく。

 やはり配信映えすると噂のダンジョンだけのことはある。

 …その時だった。


「…ん?」


 どこか遠くで、ガラスの割れるような音がした。

 哲人が足を止める。


「どうしたの?」


「いや、今なにか…」


 その次の瞬間…

 壁面の水晶が砕け、中から四足の魔物が飛び出してきた。

 体表は透明な結晶。

 狼のような形状をした魔物『水晶狼クリスタルウルフ』。

 数匹が警戒態勢をとっている。


「来た!」


 なで子が杖を構える。

 レベルは15程度、油断しなければ十分対処できる。

 数匹いるが、一体ずつ確実に処理していく。


「任せて!」


 彼女の放った火球が一匹を直撃。

 だが…


「えっ!?」


 火球が水晶の体表に当たった瞬間に散った。


「魔法反射!?」


「違う、屈折だ! 水晶で魔力を逸らしてる!」


 哲人が叫ぶ。

 その説明と同時に、哲人が前に出た。

 なで子の魔法攻撃は相性が悪い。

 銀色の刃が一閃する。

 硬い感触。

 しかし核を正確に砕くと、クリスタルウルフは光の粒となって消えた。


 『魔法が効かないのか』

 『さすセラ』

 『今の見えなかった』

 『核狙いか』


「中心部の赤い核が弱点だ! なで子、ユキ、狙えるか!?」


「了解」


「やってみる」


 なで子は火球ではなく、純粋な衝撃波の魔法に切り替える。

 ユキは短弓を引き絞った。

 矢が一匹の核を射抜く。


「やった!」


「ナイス!」


 三人の連携で、残りのクリスタルウルフも次々に撃破されていった。

 数分で戦闘は終了。

 素材を残し、クリスタルウルフは光の粒子となって消えた。


「ふぅ…」


 なで子が額の汗を拭う。

 哲人が小声で呟く。


「復帰戦としてはいい感じか?」


「まあね」


 今のところ攻略は順調だ。

 動画の映えもいいし、視聴者も盛り上がっている。

 何も悪いことはない。

 だが…


「哲…セラートさん?」


「妙だ」


「何が?」


「このダンジョン、最近人気なんだろ?」


「うん。ウチがここ選んだのもそれが理由」


「なのに、他の探索者の気配がしない」


 その言葉に、二人も周囲を見渡した。

 確かに。

 ここまで来る間、誰一人すれ違っていない。

 普通なら、同じように配信をしている探索者。

 観光気分の初心者パーティがいてもおかしくない。


 『そういえば』

 『確かに人いないな』

 『貸切じゃんラッキー』

 『…いや、逆に怖くね?』


「…あれ?」


「どうした?」


「さっき受付でもらった地図…」


 ユキが地図の印刷された紙を見せる。

 そこには表示されていたはずのルートがぐにゃりと歪んでいた。

 一本道だった通路が、いつの間にか枝分かれしている。


「え…?」


 なで子の声が震える。

 最初見たときはもっとシンプルな道筋だったはずだ。

 そして…


「…なんだ」


 三人の背後で音がした。

 振り返る。

 そこには今までなかったはずの、

 巨大な水晶の扉が、静かに現れていた。

 高さは五メートル近くあるだろうか。

 透き通る青い結晶でできたそれは、まるで宮殿の門のような威圧感を放っていた。


「…こんなの地図にあった?」


 なで子が恐る恐る尋ねる。

 ユキは慌てて地図を確認した。


「ないよ…こんなの絶対ない…!」


「俺も見た。こんな部屋は載ってなかった」


 哲人の表情が険しくなる。

 コメント欄もざわついていた。


 『隠し部屋?』

 『レアイベントじゃね?』

 『おいおい当たり動画の予感』

 『でもなんか怖い』


 すると巨大な扉が、ひとりでに開き始めた。

 扉の向こうからは淡い白い光が漏れていた。

 その光は不思議と眩しくない。

 むしろ誘うような優しさがある。


「勝手に開いた?」


「どうする?」


 ユキが哲人を見る。

 哲人は少しだけ考えた。

 普通の探索者なら引き返す。

 だが、嫌な予感がする。

 その『普通の探索者』がなぜかこのダンジョンにいない。

 引き返したらダメなのか…?


「…行く」


「即決だね」


「隠しエリアなら調査価値がある」


 そうは言ったが、本当は引き返してはいけない気がした。

 不安をなで子とユキに悟られたくなかった。

 哲人は胸の奥に奇妙な違和感を覚えていた。

 何かが自分たちを呼んでいる。

 そんな感覚。

 三人は慎重に扉の向こうへ足を踏み入れた。


「行こう」


「うん」


「じゃあ視聴者の皆さん、扉に入ってみます」


 その先に広がっていたのは巨大な空洞。

 数え切れないほどの巨大水晶が林立し、幻想的な景色を作り出している。

 まるで水晶の森林だ。


「うわぁ…」


 ユキが思わず声を漏らした。

 なで子もドローンで周囲を撮影し始める。


 『綺麗すぎる』

 『映画かよ、初めて見た』

 『こんな場所あったのか』


 このダンジョンは有名で配信者も何人も来ている。

 だが、このフロアを訪れた者はどうやらいないらしい。

 だが、哲人だけは景色を見ていなかった。

 視線は中央。

 水晶の森の中心部へ向けられている。


「…いる」


「え?」


「何かいる」


 次の瞬間、巨大水晶の一つに亀裂が走った。

 無数の亀裂とともに砕け散った。

 轟音と共に飛び散る結晶。

 その中から現れたのは…


 白銀の髪。

 透き通るような肌。

 青い結晶でできたドレス。

 まるで童話に出てくる妖精のような少女…


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