第三十九話 合体する魔物と戦ってみた
平均レベル35台の高レベルダンジョン『割れの縦穴』。
その最深部にたどり着いた哲人と賭稲。
前方の広い空間。
今までとは明らかに違う空気が漂っていた。
「これ…マジでヤバいやつじゃ…」
「…いる」
哲人が小さく呟いた。
哲人は、ゆっくりと魔導銃剣を構える。
暗闇の奥で、何かが動いた。
地面?壁?
いや違う。
それは…
「岩…ッ!」
複数の岩、それらが勢いよく哲人と賭稲に向かって転がってきた。
一つ一メートルほどだか、直撃はさすがにまずい。
何とか回避する二人。
「ふぅ~、危なかった」
安堵する賭稲。
しかし妙だ。
ここは最深部。
今までの道とは違って坂になっているわけでもない。
岩が転がってくるわけが…
「…賭稲、後ろ!」
「へ…?うおッ!?」
先ほど避けた岩が再び二人に向かって転がってきた。
それを避けてもさらに追尾してくる。
「うわわわ」
「まさか…!」
鑑定のスキルを例の岩に向ける。
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ロックギガント・レッグ
Lv:30
スキル:群体行動、合体
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やはりそうだ。
あの岩が魔物なのだ。
先ほど戦ったロックハウンドと同じ『群体行動』のスキルを持っている。
「この岩が魔物なんだ!」
「この岩が!?」
哲人の言葉を聞き、賭稲が落ち着きを取り戻す。
転がり続ける岩、ロックギガントたちが、不規則に軌道を変えながら二人を追い詰めてくる。
しかし慣れてしまえば大したことはない。
数は多いが、レベルも30。
前の階層にいたロックハウンド以下だ。
「レベルは30。二人なら余裕だよ」
「よし、じゃあ一体ずつ片づけてやる」
そういう賭稲。
しかし、哲人はあることが気になっていた。
それは、『ロックギガント・レッグ』という名前。
レッグ…足…
そして、スキルに『合体』という文字があったこと。
「まさか…」
転がり続ける岩、ロックギガント。
だが、その動きがふいに止まった。
「…あ?」
賭稲が間の抜けた声を漏らす。
次の瞬間、岩同士が引き寄せられるように集まり始めた。
床を擦る重低音が、空間全体に響く。
「な、なんだこれ…ちょ、ちょっと待てって…!」
賭稲が後ずさる。
集まる、乗る、合体する。
脚部のような塊が組み上がり、胴体を形成し、腕が生える。
そして最後に、歪な頭部が乗る。
それは、巨大な人型だった。
全高はゆうに五メートルを超える。
継ぎ接ぎのような岩の集合体。
だが確かに意思を持って立っている。
「ロックギガント…!」
賭稲の声が震える。
「いやいやいやいや!デカすぎるって!こんなの聞いてねぇよ!!」
巨人がゆっくりと腕を持ち上げる。
岩が軋む嫌な音。
焦る賭稲。
ゆうに二十体は合体している。
「30レベルが二十体だから合計は…600レベル!?」
賭稲が叫ぶ。
600レベルの敵など倒せるわけがない、と。
しかし、哲人の一言で、賭稲の声が止まる。
「あれは『一体』じゃない」
「え?」
哲人の視線は、巨人の継ぎ目に向けられていた。
岩と岩の接合部。
わずかにズレる箇所。
動きの鈍い部分。
「集合体だ。パーツごとに動いてる」
そうだ。
先ほどまでと何ら変わりない。
ただ人型になっただけ。
ロックギガントがただ群体行動をとっているだけなのだ。
人型に姿を変えたからと言って、劇的に強くなったわけではない。
「…ってことは?」
「一つずつ壊せばいい。さっきまでと同じだよ」
あまりにも簡単に言う。
だが、理屈は通っていた。
巨人の拳が地面に叩きつけられる。
衝撃で岩盤が砕け、破片が飛び散る。
「ひっ…!」
賭稲が回避する。
幸運のスキルの効果か、攻撃は全く当たっていない。
その横を、哲人がすり抜ける。
「援護してくれ」
短く言い残し、一直線に巨人へと向かう。
哲人は跳んだ。
振り下ろされる腕をギリギリで回避。
そして、その勢いのまま巨人の脚部へと潜り込む。
「まずは足」
魔導銃剣が変形し、刃が淡く発光する。
そのまま、鋭い一撃。
脚部を構成する岩の一つに叩き込まれる。
ヒビが入る。
二撃、三撃と攻撃を続ける。
至近距離からの射撃。
脚部を形成していたロックギガント・レッグ数体がまとめて吹き飛んだ。
「すげえ…」
賭稲が呆然と呟く。
巨人の体勢がわずかに崩れる。
「効いてる…!」
哲人は止まらない。
次々と関節部を狙い、動きを削いでいく。
腕の一部が崩れ落ちる。
肩が歪み、膝が砕ける。
巨体は確かに脅威。
だが、精密さはない。
「よし、次」
哲人の一閃が、さらに一つのパーツを破壊する。
やがて不安定になった巨体が、大きく揺らいだ。
最後に頭部を構成する岩へと照準を合わせる。
乾いた音が響く。
次の瞬間。
巨体が内側から崩壊するように、無数の岩へと分解した。
静寂の中に、転がる岩の音だけが遅れて響く。
「…終わった」
哲人はゆっくりと息を吐いた。
「…マジかよ…」
賭稲が震える足で立ち上がる。
「いや、マジで…何今の…一人でボス倒したみたいなもんじゃん…」
哲人は答えず、崩れた岩へと歩み寄る。
そして、その中に手を差し入れる。
取り出したのは、淡く光る結晶。
さらに、通常よりも密度の高い外殻片。
「レアドロップ…それも複数か」
「えっ!?マジ!?」
賭稲が駆け寄る。
「これ売ったらヤバいやつじゃ…?」
「素材としても優秀なやつだよ」
哲人は淡々と回収していく。
周囲を見れば、まだ動きを止めたロックギガントたちの残骸が点在している。
「…全部回収できるな」
「え、これ全部!?うわ、すげぇ…」
賭稲の目が、さっきまでとは別の意味で輝く。
と、その時だった。
残されていたわずかな魔力を使い、ロックギガントが哲人に最後の反撃を仕掛けた。
死なばもろともの一撃。
「なッ…!」
完全な意識外からの一撃。
避けられない。
「はッ!」
しかし、その攻撃は通らなかった。
賭稲のサーベルがその攻撃を切り落とした。
最後の一撃はその場で三枚下ろしにされてしまった。
崩れ落ちるロックギガント。
「ナイス援護」
「へへへ…」
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ロックギガントを倒し、ドロップ品を回収。
そのままダンジョンから出る二人。
賭稲のおかげで普段よりも数倍はいい素材を入手できた。
これで屋根裏ダンジョンも強化できるだろう。
哲人は賭稲に報酬を渡した。
最初の約束の分だ。
「じゃあこれは報酬」
「え、こんなに…!」
「半分て最初に言ってたしな」
賭稲としては7:3でも十分だったが、こんなに多くもらえるとは予想外だった。
軽く雑談をして別れることに。
一応、互いの連絡先だけは交換しておいた。
名前は広めたくなかったので、そこだけは了承してもらった。
雑談の中でいろいろと哲人が知らないことも聞くことができた。
ダンジョンの素材以外にも、うれしい収穫があったというわけだ。
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