第三十六話 案件配信やってみた
あれからちょうど一週間後。
場所は県庁所在地にある大型ダンジョンの入り口付近。
以前、テトラとコラボ配信をしたダンジョンだ。
ダンジョン入口前の広場には、いつものように探索者たちが集まっていた。
だが、その片隅で。
「はいどーもー。今日は珍しく昼配信でーす」
スマホを構えたなで子が、軽い調子で手を振る。
配信が始まった瞬間、コメント欄が一気に流れ始めた。
以前の叢雲ダンジョン大会以降、チャンネル登録者数や視聴者が一気に増えた。
『お、なで子配信』
『ダンジョン?』
『ユキちゃんいる?』
流れるコメントを拾いつつ、軽い雑談をするなで子。
彼女もコメント捌きが確実にうまくなっている。
他の有名配信者などを参考に練習などしているらしい。
なで子がカメラを横に振る。
「今日はねー、案件配信!」
『案件!?』
『企業!?』
『なで子ついにスポンサーついた?』
「そうそう」
なで子は後ろを指さす。
「こちら、我らが前衛」
「…どうも」
カメラに映るのは、剣を背負った哲人ことセラート。
軽く手を上げる。
『セラートきた』
『強い人』
「そしてー」
カメラはさらに横へ。
「うちの良心、ユキちゃん」
「よろしくお願いします」
ユキがぺこりと頭を下げる。
『ユキちゃんだ』
『この三人好き』
『今日は何するの』
アークレイズからもらった魔導杖。
それをくるっと回しながら、なで子が言う。
「企業『アークレイズ』さんから装備を借りたので、装備レビュー配信でーす」
『おお』
『装備案件!?』
『ガチの企業だ』
なで子はポケットから端末を取り出す。
表示可能な武器のデータをそこに映し出す。
アークレイズ側からもらった配信用のデータだ。
「ちゃんと許可もらってます。性能の細かいデータは出せないけど、使ってる様子は配信OKって」
盛り上がる配信。
一方、ユキが少し心配そうに言う。
「ほんとにこのダンジョンでいいの?」
今回のダンジョンは以前、テトラとのコラボ配信で訪れた場所だ。
あの時は奥まで行ったが、今回は浅い階層だけでとどめておくことにしている。
難易度の高いダンジョンだが、浅い階層はそれほどでもない。
「実質、初心者用ダンジョンだし…」
「まあ、レビューだからね。難しいとこ行って事故ったら案件炎上するでしょ」
そういうなで子。
変に難易度の高い場所へ行くよりも、ある程度知った場所のほうがいい。
そう判断したのだろう。
哲人もなで子の言葉を聞き頷いた。
「テスト目的だしな」
改めて配信中の動画を確認する。
今日入るのは、県庁所在地にある大型ダンジョン。
その浅い階層。
この範囲ならば探索者になりたての人間でも攻略できる。
比較的安全な場所。
なで子は視聴者たちにそう説明した。
「よし、じゃあ行きますか」
なで子が配信を確認する。
「配信タイトルは…」
『企業案件! 試作装備で初心者ダンジョン潜ってみた』
『草』
『タイトル直球でしょ』
『適当すぎて企業怒らない?』
「怒らない怒らない」
なで子は笑いながら配信用ドローンを飛ばす。
三人はそのままダンジョンへ入った。
コンクリートの通路に湿った空気。
このダンジョンは人工的な構造でできている。
以前北からある程度の勝手はわかる。
奥へ進むと、さっそく影が動いた。
「お、来た」
哲人が剣を抜く。
現れたのは三体の魔物。
ゴブリンのような見た目をした小型のモンスターだ。
しかし、全身が金属で覆われており、いかにも硬そうな見た目をしている。
このダンジョンでは定番の魔物。
「金ぞ…アイアンゴブリンね」
「じゃ、軽くいきますか」
哲人が剣を構える。
その瞬間。
剣のルーンが淡く光る。
『お』
『今光った?』
哲人は一歩踏み込み剣を振る。
軽い一撃。
ゴブリンの一体が一瞬で吹き飛んだ。
魔力の粒子となって消滅する。
『!?』
『はや』
『一撃か』
続けてユキが撃つ。
なで子が魔法弾を撃つ。
数秒で戦闘は終わった。
「はい終了」
なで子が笑う。
『早すぎ』
『浅い層とはいえ強い』
『その剣やばくね?』
コメントの流れが変わり始める。
今回から配信用ドローンの新機能として、各人の魔力量を動画に表示させている。
大まかな数値なのだが、わかりやすいと評判のものだ。
他の配信者も使っていたので、なで子が真似してみたのだが…
『魔力の消費少なすぎ』
『今の魔力量であの威力?』
攻撃の派手さの割に魔力の使用量が少ない。
ユキも気づいていた。
「確かに魔力減ってない」
哲人も同じだった。
先ほどの一撃。
いつもより威力の高い攻撃、だが消費が軽い。
次の魔物が現れる。
今度は大型の狼型魔物。
このダンジョンではやや強めの敵だ。
「お、ちょうどいい」
なで子が言う。
「レビュー的にね」
『確かに』
『試しどころ』
哲人が剣を構える。
ユキも横に並ぶ。
なで子が杖を掲げる。
その瞬間だった。
また光った。
三人の武器が同時に。
「…あ」
ユキが小さく声を上げた。
三人の間を巡るように魔力が流れる。
あの時と同じだ。
哲人の剣に力が集まる。
「これ…」
哲人は直感した。
魔力同期だ。
以前のテストのときと同じだ。
狼型魔物が突っ込んでくる。
剣を振り、斬撃が走る。
「ッ…!」
とてつもない衝撃が走る。
狼型魔物は余波だけで消滅した。
斬撃がダンジョンの壁に大穴を開けた。
『!?!?』
『は???』
『今の何』
『威力おかしくない?』
コメント欄が一気に加速する。
『ボス級の威力じゃん』
『このダンジョンの階層で出していい威力じゃない』
『その武器やばい』
なで子も目を丸くしていた。
「今の威力…さすがにおかしくない?」
ユキも小さく頷く。
哲人は軽く剣を振っただけだ。
だが配信はまだ続いている。
コメント欄は完全に祭り状態だった。
『企業装備つよ』
『どこの企業』
『アークレイズ?』
なんだかんだで盛り上がってはいるようだ。
なで子が咄嗟に機転を利かせ、配信を盛り上げる。
今回の配信も大成功のようだ。
「これ、配信やばくない?」
なで子が苦笑する。
コメント欄はまだ大騒ぎ。
哲人は剣を見つめる。
先ほどの一撃はやはり普通じゃない。
「威力が高すぎる…」
小声で呟く哲人
そして、配信は思わぬ形で注目を集め始めていた。
その頃…
その配信を遠く離れた場所で見ている人物がいた。
モニターの前の少女。
彼女は画面を見つめていた。
三人の武器。
そして、さきほどの共鳴。
少女は小さく呟く。
「…あの武装、ただの試作じゃない」
机の上には企業ロゴ。
別の装備企業のものだ。
少女は配信を見ながら、静かに笑った。
「面白いの見つけた」
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