第三十五話 三人で魔力同期して繋がってみた
ダンジョンの出口近く。
岩壁に空いた裂け目から外の光が差し込んでいる。
湿った空気がゆるやかに流れていた。
探索を終えた哲人たちは、いつものように出口付近で小休止を取っていた。
ダンジョンの周辺には管理用の施設が用意されている。
…とはいえ、簡単なプレハブ小屋が数個と受付の管理者がいる程度だが。
「はー…終わった終わった」
なで子がその場にぺたりと座り込む。
背中のリュックを下ろし、ぐっと伸びをした。
ほぼ貸し切りのプレハブ小屋。
完全に気が抜けているようだった。
「今日は魔物多かったねー。配信してたら絶対盛り上がったのに」
「まあね。でもテスト中だから仕方ない」
哲人が苦笑する。
今回の探索は、あくまで装備テスト。
企業から提供された試作武装の実験という名目だったのた。
哲人は壁にもたれながら、手にした剣を見つめていた。
ルーン文字が刻まれた剣。
単なる装飾で深い意味はないはずの文字。
戦闘中は確かに性能が良かった。
「(…なんか、違うんだよなぁ)」
哲人は眉をひそめる。
剣に流れる魔力の感覚。
それがさっきの戦闘時と微妙に違うのだ。
戦闘中はもっと…
そう、『何か』と繋がっているような感覚があった。
「どうしたの?」
ユキが気づいて声をかける。
「いや…ちょっと試してみてもいいか?」
「試す?」
「さっきの戦闘のとき、妙な感覚があったんだ」
「妙って?」
「魔力がどこかに流れてる感じ、わかるかな」
「…?」
なで子が不思議そうな顔で哲人を見つめる。
彼のどこか抽象的な表現。
いまいち理解ができなかった。
少し考えた後、改めて問う。
「どこかって?」
哲人は少し考え、言った。
敵に吸われているという感覚ではなかった。
魔力の流れた先はおそらく…
「多分…二人の武器だと思う」
「え?」
「武器…?」
なで子とユキが顔を見合わせる。
よくわからないが、試してみればわかることだ。
少量の魔力で試してみる。
この休憩所のプレハブ小屋では魔法を使えない。
なので、一旦場所をダンジョン内に移す。
入口から一メートルの地点だ。
「ちょっとだけ魔力流してみてくれる?」
「同時に?」
「ああ。三人で少しずつやってみる」
半信半疑ながらも、二人は頷いた。
なで子は魔法の杖を取り出し、ユキはクロスボウを構える。
いずれもアークレイズから提供されたもの。
哲人の考えが正しければ…
「じゃ、いくよ」
三人は同時に、武器へ魔力を流した。
その瞬間。
淡く、哲人の剣のルーン文字が光った。
同時に、ユキのクロスボウと、なで子の杖の刻印も微かに輝く。
まるで同調し、呼応するように。
「…あ」
ユキが小さく声を上げる。
空気の流れが変わった。
三人の間を、何かが巡っている。
「…今、何か繋がった?」
なで子が小声で呟く。
哲人も、そしてユキも同じ感覚を感じていた。
三人の魔力が、緩やかに循環している。
自分の魔力だけではない。
ユキの魔力も、なで子の魔力も、ほんのわずかずつ混ざっている。
「な、なんか変な感じ」
なで子が言った。
他人の魔力が巡る感覚。
そう言った魔法は確かにあるが、なかなか体験できるものではない。
「魔力を共有してる?」
ユキが驚いた顔をする。
「共有?」
「完全にじゃない。ほんの少しだけ」
他人から魔力を少し引き出すことができる。
逆に、他人ん与えることもできる。
戦闘効率を上げるための補助機能。
パーティー全体の魔力を、ゆるやかに接続する。
魔力のシェア、といったところか。
「なるほど…」
なで子が納得した顔をする。
「つまりこれ、パーティーバフ装備ってこと?」
「多分」
確かに理屈は通る。
三人の魔力を繋げば、消耗の分散や瞬間出力の底上げができる。
例えば、100レベル超えの哲人が二人に魔力を与えれば戦力増強につながる。
もちろん実際はそんなに単純ではないが、理屈的には間違いではない。
「パーティーバフ装備か…ん…?」
哲人の持つ探索者としてのスキル。
鑑定のスキル。
それが三人の装備情報を表示している。
「(そういえばこの武器に鑑定のスキルを使っていなかったな)」
説明書だけを読み、鑑定のスキルを使っていなかった。
そう思い、哲人は何気なく視線を向ける。
「…ん?」
「どうしたの?」
ユキが聞く。
哲人は少しだけ困惑した顔をしていた。
「今、鑑定のスキルを使ったんだけど変な表示が出た」
「変?」
「装備スキルの欄に…」
大半は説明書に描かれていたものと同じ。
説明するまでもない。
そこには、見慣れない文字があった。
『付与スキル『魔力同期』:条件未解放』
説明書には『付与スキル『魔力同期』』とだけ書かれていた。
条件とは…?
「条件未解放?」
なで子が目を丸くする。
「つまり…まだ何かあるってこと?」
「多分」
哲人はゆっくり息を吐いた。
これは単なる試作武装じゃない。
そう直感した。
戦闘中の感覚。
三人の魔力の循環。
そしてこの表示。
「(これ…まだなにか機能があるな)」
とりあえずテストは終わった。
ダンジョンから出て再びプレハブ小屋へと戻る。
そのときだった。
ピロン、と電子音が鳴った。
「ん?ウチのだ」
なで子がスマホを取り出す。
ダンジョン内では使えないのでここに置いてきてあったのだ。
画面を見た瞬間、なで子が声を上げた。
「あ」
「どうした?」
哲人が聞く。
なで子は少しだけ困った顔をしていた。
「アークレイズからメッセージ届いてた」
「企業の?」
「うん」
なで子は画面を読み上げる。
「『追加テストのお願いがあります。可能であれば次回の探索でも装備を使用してください』…だって」
今回テストを行うことはアークレイズに伝えてあった。
それで連絡を送ってきたのだろう。
哲人は黙って剣を見た。
「(追加テスト…か…)」
あのルーン文字はもう光っていない。
だが、さっき確かに感じた。
三人の魔力が繋がった瞬間を。
「…受ける?」
哲人が聞く。
少しだけ笑いながら、なで子が答える。
「なんか面白そうじゃない?」
以前アークレイズから提案された条件によるとこの武器は個人利用の範囲ならどう使っても構わないという。
当然、配信で使ってもいいのだ。
ユキも頷く。
「うん。私も気になる」
哲人はしばらく考え、剣を鞘に収めた。
特にデメリットがあるわけでもない。
鑑定のスキルで、『条件未解放』以外の能力はすべて判明している。
「…よし」
まだ知らない機能。
条件未解放のスキル。
この武器にはまだ秘密がある。
しかし、少なくとも以前まで使っていた市販の武器より性能ははるかに良い。
それは確かだ。
「もう少し試してみよう」
その言葉に、なで子が笑った。
「よし、追加案件ゲット!」
ユキも小さく笑う。
だがそのとき、哲人は気づかなかった。
この武器がただの試作装備ではないことを。
そして、この小さな違和感。
それが、やがて大きな出来事へ繋がっていくことを…
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