第三十七話 屋根裏ダンジョンをさらに強化してみた
とある日。
哲人は屋根裏ダンジョンで黄金スライムを捕まえていた。
なで子とユキの配信を作業用BGMとして流しながら。
ダンジョン内では一般的な携帯端末は使えない。
仕方なく、ダンジョン外にノートパソコンを置きそれで聞いていた。
「最近少ないなあ…」
黄金スライムが罠にかかる量、それが少なくなっている。
理由はわかっている。
以前リュミエルに頼み、モンスターへの出現量を増やしてもらったことがあった。
そのせいで逆に罠が破損しやすくなっているのだ。
一匹捕まえても外で暴れる別の黄金スライムによって罠を壊されてしまう。
「…どうするかな」
単純に罠の量を増やしても、一個が二個に増えたところで大して変わらない。
かといって数十個置いても管理がしきれない。
以前リュミエルに言われた『罠の常設化』で拡張強化をしたほうがいいかもしれない。
黄金スライム狩りがうまくいかないせいか、最近はレベルアップの頻度も下がっている気がする…
「おこまりですか?」
聞き慣れたあのレベルアップ時のシステムボイスと同じ声。
事務的ではなく感情のこもった声。
屋根裏ダンジョンの管理者、女神リュミエルだ。
「女神様ですか。実は…」
哲人は黄金スライムが罠を壊してしまうことについて説明した。
そのせいで以前よりも効率が下がっているということも。
彼女は簡素な玉座のようなものを浮かべて座っている。
軽く笑った後、リュミエルは言った。
「それ、ようやく『次の段階』に進める頃合いですね」
「次の段階?」
今の話はただの愚痴のつもりだった。
何かちょっとしたアドバイスでももらえればいいな、そんな程度だった。
だがリュミエルの声は、何かいつもと違う。
まるでそれを待っていたかのように弾んでいるのだ。
「はい。ようやく『本格的な』ダンジョン拡張をする気になったのですね」
「え、ええ。まあ…」
「以前の拡張はチュートリアルですよ」
待っていました、とばかりにリュミエルが笑みを浮かべる。
リュミエルは指を軽く鳴らす。
すると、空中に半透明のウィンドウがいくつも展開された。
それは哲人がこれまで集めてきた素材一覧だ。
整然と並んでいるそれら。
「これ、ただ売ったり保管してるだけじゃもったいないです」
リュミエルはにっこりと微笑む。
そして改めて説明を始めた。
「この屋根裏ダンジョンは管理型ダンジョン。一定条件を満たすと、素材を使って環境そのものを改良できるんです」
「環境そのもの…?」
哲人の脳裏に、今までの非効率な罠の配置がよぎる。
「まず一つ目。鏡の魔石を使えば…」
ウィンドウの一つが拡大される。
以前、哲人たちが天地反転ダンジョンで倒した魔物、『鏡の長老』。
それが持っていた魔石だ。
高レベルモンスターだけあってレアなアイテムを持っていたのだ。
それを使って製作できるもの。
それは…
『魔物誘引装置(Lv:24)』
「これを設置すると、周囲の黄金スライムを一定範囲に集められます。つまり、罠の密度や数を上げる必要がなくなる」
「…なるほど、散らばって出てくるのをまとめると」
「そういうことです」
リュミエルは続ける。
「二つ目。粘液素材と少量の金属素材を組み合わせると…」
粘液素材は別の探索者から物々交換でもらったものだ。
少量の金属素材は近所の工場で譲ってもらった廃材。
それを使って製作できるものは…
『自己修復型トラップ』
「多少罠が壊れても自動で修復されます。完全破壊でなければほぼ無限に使えますよ?」
「それは…かなりデカいな」
哲人は思わず身を乗り出した。
今までの問題の核心があっさり解決されようとしている。
むしろ逆に拍子抜けしてしまった。
こんなにもあっさりと解決するのか。
以前のリュミエルの話を聞き、素材集めをメインに活動をシフトしたことがここにきて吉と出た。
「さらに三つ目」
リュミエルは少しだけ得意げに笑う。
「ここにある素材をさらに使うと『管理補助機能』が解放されます」
「管理補助?」
「はい。簡単に言えばですね…」
一瞬、間を置くリュミエル。
一呼吸おいてから彼女は言った。
「罠の設置・回収・修復を自動で行う『簡易ゴーレム』が使えるようになります」
「…は?いやいや、それもう完全に別ゲーじゃないですか!」
「いいえ、正規機能です」
さらっと言い切るリュミエル。
「あなたが今やっている手動管理は、チュートリアルみたいなものですから」
「マジか…」
「外で罠を作ったり、いろいろと持ってきたり。変わったことをいろいろしていましたが…」
哲人は思わず天井を仰いだ。
今までやっていたことが、ただの前段階だったとは。
とはいえ、これを早めに知ることができたのは幸運と言えるだろう。
「で、最後です。これが一番重要です」
リュミエルの声が、少しだけ低くなる。
「この『空間制御系のコアユニット』と『濃縮粘液』を一定比率で加工する」
「うん」
「すると、『経験値増幅触媒』が作れます」
ウィンドウに、新たな項目が表示される。
『EXPブースト:×3(持続時間なし)』
「…三倍?」
「条件次第ではそれ以上もいけますよ」
「いや、それもうバランス壊れてるだろ…」
「壊してるんですよ。あなたが」
にっこりと笑う女神。
「ダンジョンは『育てるもの』です」
リュミエルは言った。
効率が頭打ちになったら、次は構造を変える段階なのだ。
もうその段階にきている。
レベルが上がらなくなったのもそれが原因だ。
「今のあなたレベルは108ですね?」
「え、ええ…まあ…」
「レベル110を超えるとレベルを上げるための必要経験値がとても大きくなります」
「…」
「仮に今のダンジョンでレベル111に上げるとなるとかなりの手間がかかります」
哲人は黙り込んだ。
確かにリュミエルの言う通り。
今までのやり方では限界が見えていた。
だがそれは、自分の発想の限界でもあったのかもしれない。
「…やるか」
ぽつりと呟く。
「いろいろ試してみます」
その言葉に、リュミエルは満足そうに頷いた。
「いいですね。ではまずは素材の再配分から…」
その時…
ダンジョンの奥から、ぬるりとした気配が近づいてくる。
数匹の黄金スライムだ。
だが今の哲人の目には、それは面倒な敵ではなく…
「資源だな」
はっきりと、そう見えていた。
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