第六話:君のメイドが、去り際に伝言を預かっています
「ありがとう。そのことは、必ず私のその友人に伝えておく。彼もきっと、とても喜ぶだろう」
友人の件をいったん脇に置き、グレッグは、なぜ一年生の新入生である彼女たちがダンジョンにいるのかを尋ねた。
ダンジョン第一層への推奨進入レベルは二十だ。そのため、ここに新入生の姿はまず見られない。
原作を遊んでいた時ですら、楽しい学園生活を放り出して、わざわざダンジョンに篭もりレベル上げに勤しもうとするプレイヤーは稀だった。
正直なところ、グレッグにもわからない。制作陣はなぜ、ギャルゲーというジャンルのゲームに、こんなレベル上げ要素を入れたのか。
しかも難易度はべらぼうに高く、メインストーリーをクリアした最終装備で挑んでも、あっさりとoverしてしまうダンジョンすらある。
まったくもって、むちゃくちゃだ!
ヴィクトリアは、あまり情報を明かしたくはなさそうだった。しかし、グレッグがシルヴィアを救った手前、そうもいかないと思ったのか、わずかにためらった後、口を開いた。
「次のクラス分け試験のためよ。魔法に変化をつけられる、適性のある宝石が一つ、どうしても必要なの」
この世界では、魔法は素手でも発動できるが、大半の者は魔杖か、それに類する魔導器を携帯する。
これらの器具には通常、宝石の埋め込みスロットが設けられている。特定の宝石を埋め込めば、放つ魔法に様々な不思議な変化をもたらすことができる。
例えば、《分裂》の宝石を一つ埋め込んだとする。すると、火球術を放った時、一つの大火球が二つの中型火球に分裂し、敵を攻撃する。
もし君の魔導器に第二のスロットがあり、そこに更に《加速》の宝石を入れれば、分裂した二つの中型火球は極めて高速で敵へと襲い掛かるだろう。
重要な場面において、宝石による戦術の変化が奇襲をもたらすことも少なくない。
だが、グレッグは覚えている。ヴィクトリアは今、基礎宝石の一つすら持っていないはずはないのだ。なぜなら、第一幕であるバカが彼女に決闘を挑み、負けて宝石を一つ渡すイベントがあるからだ。
ああ、そのバカって、多分俺のことか。でも、俺が先にダンジョンに逃げ込んだせいで、そのイベントはなくなったんだっけ。
それなら、しょうがない。
グレッグはふと考え直した。
しかし、たとえ俺から贈られるはずだった宝石がなくても、彼女はプロローグでもう一つの宝石を受け取っているはずだ。そうでなければ……
グレッグは口を開いた。「確か、新入生は全員、入学後に基礎宝石を一つ受け取れるはずだよな? もしかして君、備品庫の管理をしている教師に、何か言ったんじゃないか?」
彼は、ある種の自信満々で無邪気かつ無鉄砲な口調を真似た。
「例えば――『倉庫にある宝石を自由に選んでいいっておっしゃったので、では、先生が杖にはめているその宝石をいただきます』
――とか?」
ヴィクトリアは眉をひそめた。「なぜ、それを?」
マジかよ、本当にそんな滅茶苦茶な選択肢を選んだのか。道理で、入学早々レベル上げに来なきゃならなかったわけだ。
グレッグはふと、原作を遊んでいた時、イベントに遭遇するとたいてい三つの選択肢が現れたことを思い出した。三つのうち、たいてい最初の二つは比較的まともで、三つ目は非常に奇抜だった。
最初は、制作陣の悪ふざけで無理やり入れただけだと思っていたが、今、彼の中に一つの疑惑が芽生え始めていた……。
まさか、あの一番奇抜な選択肢こそが、主人公自身が元々選んだものなのでは!?
グレッグは内心、呆れ返るばかりだ。
普通のプレイヤーなら、シナリオ序盤を滞らせないために、グレッグ・サスから一つ目の宝石を手に入れた後、普通そんな滅茶苦茶な選択肢は選ばない。
それでプロローグ終了時には、直接二つの宝石を手に入れられる。そうすれば、しばらくはダンジョンに入る必要もなく、ストーリーを進めることに専念できるのだ。
だが今、彼女は、俺から宝石を手に入れなかったにもかかわらず、やはりためらいなくその奇抜な選択肢を選んだというのか……。
やはり灰色頭は只者じゃない。彼ができなかったことを、いとも簡単にやってのけるとは。
まあいい。俺が原因で生じた状況なら、俺が決着をつけよう。
「これを、お前にやる」
グレッグはポケットから、先ほどドロップしたばかりの宝石を取り出し、放り投げた。
ヴィクトリアは反射的にそれを受け止める。
シルヴィアが近づいて覗き込み、小さく息を呑む。「《反射》の宝石……基礎宝石の中でも、かなり希少なものです」
「これは、どういうつもり?」ヴィクトリアは宝石を握りしめ、値踏みするような視線で再びグレッグを捉えた。
「貸し、一つだ」グレッグは率直に言った。その口調は真剣みを帯びている。「頼みがある。クラス分け試験が終わった後、俺のダンジョン第一層の攻略に協力してほしい」
ヴィクトリアは目を細めた。「宝石だけ受け取って、約束を反故にされるとは思わないの?」
「はっ」グレッグはどうでもよさそうに肩をすくめ、濡れた金髪から水滴が落ちた。「そん時はそん時で、俺の人を見る目がなかったってだけさ」
表面は飄々としているが、内心では全くの無策というわけでもない。
彼はよく知っている。この灰色頭は、しばしば常軌を逸した行動をとるものの、約束や重要な契りに限っては、これまで一度も裏切ったことがない、ということを。
それはまさに、彼女が多くのヒロインたちの心を掴んで離さない、美点の一つなのだ。
ヴィクトリアは、深くグレッグを見つめた。
この気迫だけでも感じられる。目の前のこの男は、どうやら本当に、入学式の日に見たあの傲慢で愚かな貴族の坊ちゃんとは……何かが違う、と。
「……わかった」彼女はついに宝石を握りしめ、頷いた。「約束する」
やがて、シルヴィアの濡れた衣服は焚き火で乾いた。
ヴィクトリアは立ち上がり、出発の準備を始める。
「グレッグ先輩は、一緒に学院へは戻らないんですか?」シルヴィアが荷物を整理しながら、そっと尋ねた。
俺が外に出てどうする?
死にに行くようなものだろ?
俺にとって、この冷たいダンジョンは、地上の、あの暖かくはあるが、そこかしこに俺の死亡CGが潜む学院よりも、遥かに安全な場所なんだ!
グレッグは神妙な面持ちで洞穴の奥を見つめ、まるで何か神聖な使命を負っているかのようだった。
「俺の戦場は、ここにある。この闇を征する道の、その起点に立つ前に、俺はこの暗黒をより深く理解せねばならないのだ」
シルヴィアはその言葉を聞き、その瞳に一瞬、敬意の光がちらついた。
彼に対して、まだ好感と呼べるほどの感情はないが、その「責任感」は、これまでの嫌悪感をわずかに和らげた。
「わかりました。それでは、私達はこれで失礼します」
彼女はヴィクトリアの後を追おうと振り返りかけたが、ふと何かを思い出し、再び呼びかけた。
「あっ、そういえば、グレッグ先輩」
「先輩の専属メイドの方が、先輩がご実家から除名された後、彼女も自らサス家を辞したそうです。ですが、学院の規定で、貴族籍を失った生徒は私的な従者を連れ込めないそうで……それで、彼女は学院を去るように促されたそうです」
「でも、彼女は去り際に、これから先輩に会えるであろう生徒に、伝言を託したんです」
専属メイド……エリーのことか。
グレッグの脳裏に、すぐにその人物の姿が浮かんだ。
このメイドは原作でも、多くのプレイヤーをひどく惜しませたキャラクターだ。
なぜなら、ヒロインに匹敵する美貌を持ちながら、攻略対象ではないばかりか、グレッグ・サスが死ぬたびに、彼女も必ず後を追って殉じてしまうからだ。
だから彼女もまた、言うなれば必ず死ぬ運命のキャラと言える。
それゆえ、彼女が既に自らサス家を離れたと聞いて、グレッグの最初の反応は、安堵だった。
少なくとも……彼女は、俺のせいで死なずに済む。
エリーが俺から離れて、もう生きていけないんじゃないかって?
そんな心配は無用だ。
なにしろ彼女は、ただのメイドでありながら、法外なほどに強い。
いくつかのルートで、グレッグ・サスがゲームの大後期まで生き延びられたのは、ひとえに彼女のおかげだ。だからこそ、彼女はサス家を気ままに辞めることなど、造作もないのだ。
今、俺という重荷から解放された彼女は、きっと、より自由で、より輝かしく生きていけるに違いない。
グレッグは頷き、エリーのことを思って浮かべた、ほんの少しの軽やかな笑みを残したまま尋ねた。「彼女は、なんて?」
シルヴィアは、それをそのまま口にした。
「『もし一週間以内に、あなたが私の前に現れなければ、学院の規則を無視して、学院のダンジョンへ直接踏み込み、あなたのために盛大な葬儀を執り行い、それから私も死にます(笑)』――だそうです」
「この比喩表現、確かに少し大袈裟すぎますけど、これほど忠実なメイドさんに慕われているなんて、グレッグ先輩は本当に幸運ですね」
言い終えると、彼女は手を振り、先で待つヴィクトリアの元へと小走りで駆け寄っていった。
洞穴には静寂が戻り、焚き火の薪が爆ぜる音だけが響く。
グレッグはその場に立ち尽くし、顔に張り付いていた笑みが、ゆっくりと固まっていった。
なんで俺が、さっきまでと変わって急に真顔になったか、わかるか?
……もしかして、とは思わないか。
あれは別に、何かの比喩表現なんかじゃなく、彼女は本気で言っているんだ。
それで……彼女がこの言葉を口にしてから、今に至るまで、いったい何日が経過してしまったんだ!?
誰かいるなら返事して。もうモチベが尽きた。




