9:児童相談所のマホ その3
翌日、外でボール遊びやおにごっこをした。
言葉は分からないけれど、
みんなの真似をして、感覚で楽しめた。
「マホ、こっち!」
ユウコが手を振る。
マホはこっちの世界で初めて走った。
風が心地よく、胸が少し軽くなった。
その夜は走り回って疲れていたので、
夢も見ずに眠った。
――楽しい日が何日か続いた。
ぬり絵をしていると、ユウコが職員に呼ばれた。
「ユウコちゃん、ちょっと来てね」
しばらくして戻ってきたユウコは、
どこかぼんやりしていた。
色鉛筆を持ったまま、塗りもせずに座っている。
「……ユウコ?」
マホが声をかけた。
「……うん……」
ユウコはゆっくりと口を開いた。
「マホ、聞いてくれる?
わたしね、ママがいるんだけど……
親戚のおばあさんが“うちに来ないか”って言ってるんだって。
ママ、ぜんぜん迎えに来ないから、かな?
私、おばあさんのとこに行った方がいいのかな……?」
長い言葉の連続に、マホは固まった。
ユウコは苦笑した。
「ごめん、マホに聞いても分かんないよね」
そう言ってぬり絵に目を落とすと、ユウコはぬり絵を再開した。
――マホの意識は、光の中にいた。
光の中にユウコの姿が見える。
ユウコは今よりも大人になっているが、
マホにはそれがユウコだと分かる。
知らない家の部屋で、おばあさんと楽しそうに食事をしていた。
光が強くなり、視界が閉じる。
――マホは我に返った。
ユウコは気付かずに塗り続けている。
マホは首を縦に振り、
絵本で覚えた言葉で伝えた。
「ユウコと……おばあさん……めでたしめでたし」
ユウコはハッとした後、
マホを見て微笑んだ。
「そうなるといいね」
そしてマホの額を指さした。
「ねえ、おでこに何か描いたの?」
マホは慌てて鏡を見に行った。
――うっすらと紋章が浮かんでいる。
「……!」
やがて紋章は薄くなり、消えていった。
マホは自分の鼓動が早くなっているのを感じ、胸に手を当てた。
――魔力は、消えてなんかなかった!
希望の光を感じてうれしかったマホだったが、
翌日、ユウコの突然の告白にマホはショックを受けた。
「私ね、明日、ここを出て、おばあさんの家に行くことになったの」
ユウコが楽しく暮らせることをマホは知っている。
ただ、会えなくなるのが寂しい。
その日、二人はお互い折り紙を折って、
お別れのプレゼントを作り、交換した。
――ユウコがいなくなってから数日後、
職員が今度はマホを呼んだ。
「マホちゃん、次は児童養護施設に行くことになったよ」
マホはまたどこかに行くのだと感じ取った。
出発の日、マホはユウコと過ごした思い出の部屋を見回した。
「……さよなら……」




