7:児童相談所のマホ
児童相談所では医師がマホの健康診断を行った。
身長、体重、聴診器、視力検査。
どれも初めて見る器具ばかりで、
マホは緊張しながらも身をゆだねて従った。
「はい、お疲れ様。健康そのものだね」
医師は笑顔で言った。
やっと解放されて、マホも少しほっとした。
「じゃあ、次はお風呂に入ろうか」
職員の女性がマホの手を引き、浴室へ案内した。
シャワーの蛇口をひねると――
ジャアアアッ!と水が飛び出す。
マホは驚いて凝視した。
「シャワーだよ、見たことない?」
職員は笑いながら説明した。
「お湯が出るんだよ。ほら、触ってみて。あったかいよ」
マホは恐る恐る手を伸ばし、落ちてくるお湯に触れた。
(……あったかい……魔法みたい)
マホは感心した。
職員はボディーソープのボトルを押して、
タオル全体に白い泡を広げる。
「それじゃあ、きれいにしましょうね」
職員に体を拭かれながら、
マホはいい匂いのする泡を不思議そう触り、
気持ちよさに笑顔になった。
職員は笑顔を返しながらも、
(この子……どこでどうやって育った子なんだろう……)
ますます不可解に思った。
入浴後、マホは新しい服を渡され、
4人部屋へ案内された。
「ここが今日から住む、君の部屋だよ」
部屋には男の子が二人、女の子が一人。
みんなマホをちらっと見ただけで、
すぐに各々の絵本やぬり絵に視線を戻した。
マホは自分のベッドに座り、
彼らをじっと観察した。
(……みんな、静か……)
誰も話しかけてこなかった。
夕飯の時間になると、食堂で給食が配られた。
子どもたちが何人もいることをマホは知った。
「いただきます」
周りの子どもたちが声をそろえる。
マホはみんなが食べ始めたのを見て、スプーンを手に取った。
見たことのない料理だがとてもいい匂い。
そっと一口を口に含むと、
(……おいしい……!)
マホは給食をぺろりと平らげた。
――部屋に戻ると、他の子たちはまだ誰もいなかった。
マホは周りを見渡し、そっと両手を胸の前に組んだ。
「……風よ……」
魔法の言葉を唱える。
今なら、魔法が使えそうな気がしたのだ。
――しかし、部屋には何の変化も起きなかった。
「……」
マホは気分が落ち込み、ベッドに倒れこんだ。
しばらくして、涙がこぼれてきた。
(……ママ……帰りたい……)
――泣いてるの?
ふと、外から声がした。
マホが顔を向けると、
同じ部屋の女の子が立っていた。
黒髪で、優しい目をした子。
「これ、いっしょにやる?」
女の子は、ぬり絵をマホの前に広げ、
色鉛筆を差し出した。
マホは戸惑いながらも彼女の動きを目で追った。
彼女は無言で塗り始める。
マホはしばらく眺めていたが、
やがて色鉛筆を手に取り、
彼女の真似をして一緒に塗り始めた。
赤、青、黄色……
様々な色が塗れる不思議な筆に、マホは気持ちを奪われていった。
「わたし、ユウコ。あなたは?」
マホは首を傾げた。
「あ?……なた……?」
たどたどしいマホのしゃべり方に、
ユウコははっとした。
「そっか……ガイジンなんだ……」
そう呟き、また黙って塗り始めた。
そんなユウコの姿にマホも気にせず、
いろんな色を塗り続けた。
やがて就寝時間になり、
二人はぬり絵を閉じて眠りについた。
――暗闇。
砕け散った紋章の欠片が、
宙にゆったりと漂っている。
マホは魔法の筆を手にしていた。
「……色よ……」
筆を振ると、
欠片たちに色がついていく。
赤、青、黄色……
紋章は色とりどりに輝き始めた。
足元の川の流れは穏やかになり、
マホはゆっくりと岸へ歩いていく。
岸にたどり着いたマホは、
紋章の欠片たちを振り返り、
「……ここで待ってて!」
眼前の森へ向かって歩き出した――




