5:現代都市のマホ
――光が弾けた。
耳鳴りとともに、世界が裏返るような感覚が走り、
マホは思わず目を閉じた。
次に目を開けたとき、
そこは見たこともない場所だった。
天井は高く、様々な光がまぶしく、
人々が絶え間なく行き交っている。
大きな駅のホール。
マホは壁際に立ち尽くしていた。
「……ここ……どこ……?」
見渡す限り、知らない人、知らない服、知らない音。
そして――
時間差で、母の叫び、ジルジの魔法、父の血が
フラッシュバックしてきて、脳裏をかき回した。
「……!」
マホは立っていられなくなり、壁伝いにしゃがみ込んだ。
そして、孤独に膝を抱えて震えた。
「ちょっと……大丈夫? 君」
声がした。
マホが顔を上げると、
若い女性が心配そうに覗き込んでいた。
マホは言葉にならない声を漏らすだけだった。
「泣いてる……迷子かな?
その恰好、ハロウィンの仮装……?」
女性は困ったように周囲を見回し、
近くの駅員を呼び止めた。
「すみません、この子……ずっと泣いてて……迷子かも」
「ありがとうございます。こちらで預かりますね」
駅員は優しい声でマホに話しかけた。
「大丈夫だよ。こっちへおいで」
マホは泣きながらも、
差し出された手に引かれ立ち上がった――
駅舎の休憩室は静かで、
外の喧騒が嘘のようだった。
「ここで少し休んでてね。
お水もあるから、のどが乾いたら飲んでて」
マホは返事ができず、
ただ佇んでいた。
やがて目に留まった簡易ベッドへ横になると、
小さく丸まった。
疲れが一気に押し寄せ、
いつの間にか眠りに落ちていた。
――真っ暗な世界。
マホの足元には、流れの早い川。
踏み出そうとすると、冷たい水が足元を掴んで離さない。
その上空に、
額の紋章と同じ形の光が、ぼんやりと浮かんでいた。
「……おじいさま……?」
光の紋章は、
まるで誰かの気配を宿しているように揺れている。
マホは必死に手を伸ばした。
「待って……行かないで……!」
しかし指先は届かない。
光はひび割れ、
細かな粒となって砕け散り、
闇に溶けていった。
「いや……いや……!」
マホの叫びは、
聞いたことのない言葉、駅のアナウンスにかき消された。
――マホは飛び起きた。
胸の鼓動は激しく、息が乱れていたが、
見慣れぬ無機質な世界が視界に入ると、やがてそれは落ち着いていった。
ふと、壁の鏡が目に入る。
鏡の中には、小さな自分の姿が見える。
マホが近づくと、その額には、何もなかった。
「……紋章が……ない……」
マホは震える指で額を触った。
そこにあるはずの“魔法使いの証”は、
跡形もなく消えていた。
「うそ……魔力……なくなっちゃったの……?」
マホは絶望した。
その時、休憩室の扉が開いた。
「失礼します」
駅員が警察官を連れて戻ってきた。
「この子です。保護をお願いしたくて」
「分かりました。では少し話を聞かせてもらうね」
警官はしゃがみ込み、
優しい声でマホに問いかけた。
「私、お巡りさんのホリと言います。あなたの名前は?」
マホはしばらくの間、何を聞かれても黙っていたが、
そのうち、何を聞かれているのかを推測し、
小さな声で答えた。
「……マホ……」
「マホちゃんね。
じゃあ、マホちゃんはどこから来たのかな?」
マホは何を聞かれているのか、推測できなかった。
首を横に振る。
「そっか……じゃあ、お父さんやお母さんとはぐれたのかな?」
また首を振る。
もう何を聞かれても、マホには答えようがなかった。
警官は困ったように息をついた。
「……分かった。一旦、マホちゃんを署で預かるからね。
パパとママを一緒に探しにいこう。さあ」
マホは恐る恐る差し出された手を握った。
警官はマホを連れてゆっくりと休憩室を後にした。
――駅の外へ出ると、
そこは初めてのモノで満ちあふれていた。
初めて見る建物、初めて聞く音、
そして初めて見る乗り物。
マホはきょろきょろとあたりを見回しながら歩いた。
警官はパトカーのドアを開けて、マホを促した。
思わず立ちすくむマホ。
「大丈夫だよ、乗って」
警官はそっとマホの背中を押し、
パトカーの後部座席へ案内した。
こうしてマホは、
警察署へと運ばれて保護された――




