4:いなくなったマホ
マホが物心ついた頃。
ジルジの未来視の力もあり、国の空気は富と平和に満ち、
それがまるで永遠に続くかのような、穏やかな毎日だった。
その裏で、ひとつの影が動いていた。
ファルシュの兄――ブラザ。
彼は密かに兵を集め、
王家を倒すためのクーデターを企てていた。
ある夜。
マルザがマホを寝かしつけていると、
外から金属がぶつかるような音が響いた。
「……何の音?」
マルザが眉をひそめた瞬間、
扉が乱暴に開かれた。
「マルザ、逃げろ!」
血に染まったファルシュが飛び込んできた。
「ファルシュ!? その血……」
「兄さんが……クーデターを……」
言い終える前に、
ファルシュの背中に黒い影が迫った。
「弟よ。最後まで邪魔をするな」
ブラザの剣が、
ファルシュの胸を貫いた。
「ファルシュ!!」
マルザの叫びが夜に響いた。
ファルシュは倒れながら、
震える手でマホの頬に触れた。
「……マホ……守れなくて……すまない……」
そのまま、息を引き取った。
「さて、マルザ。お前とその娘には、
これから大事な“役目”を果たしてもらう」
ブラザはマホを乱暴に抱き上げた。
「やめて! マホに触らないで!」
「黙れ。お前たちは人質だ」
マルザは震える声で言った。
「父に……ジルジに何をさせるつもりなの……?」
「決まっているだろう。
未来を見る魔法使いは、権力者に必要だ」
ブラザは冷たく笑った。
「だが、あの老人はもう先が短い。
これからは……この子だ」
マホの額の紋章を指でなぞる。
「未来を見る紋章。
国を動かすには十分すぎる力だ」
マルザは絶望のあまり膝をついた。
ブラザはマルザとマホを連れ、
ジルジの元へ向かった。
「ジルジ殿。そなたの娘と孫は預かった。
クーデターに協力しろ。
拒めば……どうなるか分かるな?」
ジルジは震える手で杖を握りしめた。
「……ブラザ。お前は……狂ったのか」
「狂ってなどいない。
欲しいものは何でも手に入れるのが、オレだろう?」
ジルジに選択肢はなかった。
「……分かった。二人には何もするな」
――その後、王家は投獄され、
ブラザは国の実権を握った。
――クーデターから数日後。
ジルジは先読みの魔法で娘とマホの未来を見た。
ジルジは悟った。
(このままでは……マホも国の道具にされる……)
その夜から、ジルジは眠ることをやめた。
薄暗い部屋で、灯火だけが揺れている。
ジルジは机に広げた古い魔導書に手を置き、
何度も、何度も未来を覗き込んだ。
「……違う……これも駄目だ……」
「この未来でも、マホは囚われる……」
先読みの魔法は、
未来の“枝”を無数に見せる。
ジルジはその枝を一本ずつ折るように、
マホが自由に生きられる未来を探し続けた。
だが――
どの未来でも、
マホはブラザの手に落ちていた。
「……どこかに……どこかに……
この子が生きられる未来があるはずだ……」
指先は震え、
魔力は削れ、
視界は霞んでいく。
それでもジルジは探し続けた。
そして、ついに一つだけ、
“かすかな光”の未来を見つけた。
――マホが、この世界にいない未来。
ジルジは杖を握りしめ、
静かに目を閉じた。
ジルジはブラザに孫娘との面会を要望した。
「いいだろう。これまで随分と言うことを聞いてくれたからな。
ただし、面会はオレの立会いのもとでだ。」
ブラザは二人を監禁している部屋へ連れて行った。
「お父さま!」
マルザが駆け寄る。
二人はしばし抱き合った。
「マホは?」
「そこで寝てるわ」
ジルジは覚悟を決めてマホを抱き上げた。
目を覚ましたマホはぼんやりとしている。
そしてジルジは静かに呪文を唱え始めた。
「……マホ。どうか……自由に生きてくれ……」
マルザが気づき、小声で尋ねる。
「お父さま、何を……?」
「マルザ、すまない。
瞬間移動の魔法だ。この子だけは……守らねばならぬ」
「待て!何をしている!?」
ブラザが叫んだが、
ジルジの周囲に光が集まり、
空気が震え始めた。
光が強まり、マホの体が浮かび上がる。
マホは驚いた。
「マホ……どうか……生きろ……!」
その瞬間――
魔法が暴走した。
空間が裂け、
眩い光が部屋を包み込む。
「マホーーー!!」
マルザの悲痛な叫びが王宮に響き渡った。




