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2:魔法使いジルジの娘

その時代、

最も強大な国に仕えていた魔法使いがいた。

名をジルジという。


ジルジは“未来を見る”という、

魔法使いの中でも唯一無二の力を持っていた。


「ジルジよ、明日の戦の行方を見よ」

「この作戦は上手くいくのか、占え」


絶えない国王の命令に、

ジルジは従い応えながらも、

心の奥では深い憂いを抱えていた。

同胞の魔法使い達の命を奪うことになる戦もあった。


(このままでは、我々魔法使いは滅びる……)


そんな折、

ジルジに一人の娘が生まれた。

名はマルザ。


妻は出産で命を落とし、ジルジはショックを受けたが、

マルザが“魔力を持たない普通の子”として生まれたことが、

ジルジにとって唯一の救いだった。


「……よかった。お前は、自由に生きられる」


マルザが十歳になった頃。

王宮の裏手にある小さな丘は、

風がよく通り、遠くの森まで見渡せる場所だった。


その日、マルザは草の上に座り、

父の真似をして両手をそっと空に向けていた。


「……風よ、教えて……」


小さな声でつぶやく。

もちろん、風は何も答えない。

それでもマルザは真剣だった。


ジルジは少し離れたところから、

娘の姿をしばらく黙って見つめていた。


「マルザ、何をしている」


声をかけると、マルザはぱっと振り返り、

嬉しそうに駆け寄ってきた。


「お父さま、私も魔法を使えるようになりたいの。

 お父さまみたいに、未来を見て……

 みんなを助けられる魔法使いになりたい」


ジルジは表情を曇らせた。


「マルザ。お前の想いは正しいが、先読みの魔法は……良いものではない」


マルザはきょとんとして言った。


「でも、お父さまはいつも国のみんなを助けているでしょう?」


「それはどうかな」


ジルジは静かに言った。


「未来を見るということは、

 避けられぬ悲しみも知るということだ。

 戦の行方を見せられ、

 死ぬ者の未来を知り、

 それでも何も変えられぬこともある」


マルザはうつむいて、小さな声で言った。


「……それでも、私はお父さまの力が好き。

 ……助けられる誰かを守りたい」


ジルジは娘の頭に手を置いた。


「マルザ。お前は魔法を持たずに生まれてきた。

 それは……神が与えてくれた“自由”だ」


「自由……?」


「魔法使いは、自由ではない。

 国に縛られ、戦に縛られ、

 未来に縛られる。

 私は……お前にそんな人生を歩んでほしくない」


マルザとジルジはしばらく黙って風に吹かれた。

ジルジは遠くの森へ視線を向け、指をさして言った。


「マルザ。あの森の奥には、

 “国を捨てた魔法使い達”が住んでいると言われている」


マルザは驚いた。


「国を……捨てた?」


「そうだ。

 戦のために魔法を使うことを拒み、

 静かに生きる道を選んだ者たちだ」


「どうして国を出たの?」


ジルジは少しだけ息を吐いた。


「国のために魔法を使うたびに、

 他の誰かを不幸にしてしまうからだ。

 戦の道具として扱われることに、

 心が耐えられなくなったのだろう」


マルザはしばらく森を見つめ、ジルジを見て言った。


「……お父さまも、森へ行きたいと思うの?」


ジルジはゆっくりと頷いた。


「そうだな。

 もし私に大切な家族がいなかったら……

 あの森へ行っているかもしれない」


マルザは父の手を握った。


「お父さま、行かないで。

 私……一人になりたくない」


ジルジはその手を包み込み、

優しく微笑んだ。


「行かないよ、マルザ」

 大切なお前がいる限り、私はここにいる」

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