14:恋占いとマホ
――それから数年が経ち、マホは中学生になった。
特別支援級から普通級への異動もあった。
――ある日の放課後。
先生の手伝いを終えたマホが一人で帰り支度をしていると、
トモミとアンナがマホの机にやってきた。
「ねえマホちゃん、この恋占いアプリって知ってる?」
トモミがニヤニヤしながら言った。
「……?」
マホは首を傾げる。
「好きな人とうまくいくかどうか占うの!」
アンナが説明する。
「最近流行ってるんだよ~」
トモミは嬉しそうにスマホを見せた。
画面にはハートのアイコンが揺れている。
「トモミちゃん、前やった結果どうだったの?」
アンナが聞く。
「えへへ……うまくいくって出た!」
トモミは頬を赤くした。
「告白しようか迷ってるんだよね……」
トモミは小声でマホに打ち明けた。
その瞬間、マホの意識がふっと遠のいた。
――まぶしい光。
マホは再び“あの場所”にいた。
光の中に、トモミと男の子が見える。
二人は楽しそうに遊んでいた。
しかしその隣で、アンナが座り込んで泣いていた。
肩を震わせ、顔を伏せている。
(……アンナちゃん)
光が強まり、視界が閉じた。
――マホは我に返った。
トモミとアンナが俯いたままの自分を、心配そうに覗き込んでいる。
「どうしたの、マホちゃん?」
「大丈夫……?」
マホは俯いたまま、ゆっくり口を開いた。
「トモミちゃんと男の子……めでたしめでたし。
でも……アンナちゃん……悲しい」
「えっ……?」
二人は顔を見合わせた。
「ちょ、ちょっと……別に私は!
ほら、トモミちゃんが彼ばっかじゃなくて、私と遊んでくれたりすれば、悲しくないよ!」
アンナは慌ててまくしたてる。
しかし、トモミはアンナをじっと見た。
「アンナちゃん……もしかして……」
「ち、違うってば!」
アンナは顔を真っ赤にした。
だが、マホの言葉は本当だった。
アンナはトモミと同じ男の子が好きだったのだ。
――数日後
マホの言葉通り、
トモミは男の子に告白し、付き合い始めた。
アンナはトモミと距離を置くようになった。
笑顔は減り、どこか寂しげだった。
――ある日。
養護施設でアンナはマホにそっと尋ねた。
「ねえ、マホちゃん……」
「なに?」
「……あの時、私がトモミちゃんと同じ男子を好きだって……
知ってたの?」
マホは首を横に振った。
「知らなかったよ……
でも……光の中で……アンナちゃんが泣いてるのが見えたの……」
「光の中……?」
アンナは息を呑んだ。
「トモミちゃんと男の子が楽しそうに遊んでた。
でも、アンナちゃんは泣いてた……」
アンナはしばらく黙っていたが、
やがて小さくつぶやいた。
「……すごい。
未来が、見えちゃうんだね、マホちゃんは」
――中学の生活に慣れ始めた頃、
校内でひそひそと噂が広がり始めた。
「一年に、めっちゃかわいい子がいるらしい」
「外国人みたいな顔してるって」
「でも話しかけづらいんだよな……」
その噂の中心にいるのが、マホだった。
マホはクラスの担任から、校舎裏の花壇の世話を任されていた。
土の匂い、花の色、風の音。
それらは故郷を感じさせ、マホにとって心が落ち着く場所だった。
――ある日の放課後。
マホがいつものように花壇の雑草を抜いていると、
影が一人近づいてきた。
「……あのさ」
声をかけてきたのは、一つ学年が上の男子「シン」だった。
「手伝っても、いい?」
マホは少し驚いて顔を上げた。
「うん……いいよ」
シンは嬉しそうに笑い、
二人は並んで花壇の手入れをした。
「俺、二年のシン」
「私はマホ」
「マホって、花好きなんだね」
「うん……きれいだから」
「だよな。俺もこういうの、けっこう好きかも」
それから毎日、
シンは花壇に来るようになった。
「マホちゃん、最近、二年の男子と花壇でデートしてるでしょ」
「デートじゃないよ!」
トモミとアンナが茶化してきて、マホはムキになった。
「うふふ、でも絶対彼はマホちゃんに気があるよ」
二人は自信たっぷりに言った。
そんなことを言われたせいで、
マホはシンに会うたびに、意識してしまうようになった。
――ある日。
マホとシンが花壇に向かうと、花たちが無残に踏み荒らされていた。
「……え?」
折れた茎たち。
散らばった花びら。
凄惨な光景に、二人は言葉を失った。
「……ひどい……」
マホは膝をつき、震える声を漏らした。
「先生呼んでくる!」
シンは走り去った。
マホは座り込んだまま、涙が止まらなくなった。
故郷を失ったような、大きなものを失ったような、ただただ喪失感に打ちひしがれた。
その後、先生が来て保健室に連れて行かれたが、
泣き疲れても胸の痛みは消えなかった。
――帰り際。
マホはどうしても花壇が気になり、
凄惨な光景を見たくない気持ちを殺しつつ、もう一度足を運んだ。
夕暮れの光の中、
荒らされた花たちが静かに横たわっている。
マホはかがみこみ、そっと折れ曲がった茎に触れた。
その瞬間、胸の奥が熱くなった。
(……起きて……生き返って……)
無意識に魔法の言葉が口からこぼれた。
空気が震え、
折れた茎たちがゆっくりと立ち上がる。
花たちの色がみずみずさを取り戻していく。
花壇は、ほとんど元の姿を取り戻していた。
(……強い……強い子たちね……)
マホは空気の変わった花壇を見つめ、つぶやいた。
「私も……」
――翌日。
復活した花壇を見て、シンと先生は驚いた。
「えっ……なんで!? 昨日あんなだったのに!」
「誰かが夜に直したのか……?」
マホは一緒に驚いたふりをして、その場をやり過ごした。
その日の夕方、マホが一人で花壇の花に水やりをしていると、
一人の女子が遠巻きから声をかけてきた。
「……ねえ、ちょっと」
マホは手を止めて、振り返った。
声をかけてきたのは、少し強気な目をした女子だ。
二年生のネネだった。
「あんたさ、花壇の世話係、辞めてもらえない?」
マホは驚いた。
「どうして?」
ネネは間をおいて、一度ため息をつき、
ゆっくりと言った。
「あんたが、シン君と一緒にいるのが、私、嫌なの」
マホは目を見開いた。
そして昨日、目の当たりにした凄惨な花壇の姿を思い出した。
(この子が……やったの……?)
マホの胸に、怒りが瞬間的に湧いた。
風がざわりと動く。
突然、強風が巻き起こり、ネネの体を煽った。
「きゃっ……!」
ネネは吹き飛ばされそうになり、その場に座り込んだ。
マホがハッと我に返ると、風はぴたりと止んだ。
「……」
驚いて座りこんだままのネネを見て、
マホは誤った魔法の使い方をしてしまった自分に、嫌悪感を感じた。
そして冷静になり、ネネに向かって言った。
「分かった……花壇の世話係……やめるから……。もう、荒らさないで」
ネネは驚いた表情でマホを見つめた。
マホは逃げるようにして、その場を立ち去った。




