15:学校の占い師、マホ
――花壇の事件以来、マホは市立の図書館にこもるようになった。
心理学、占い、歴史、民俗学――
そんなジャンルの本ばかりを読み漁った。
シンからの距離を取りたい、という狙いもあったが、
もう一つ理由があった。
アンナが、悩みを抱えた友人を連れて
マホに相談に来ることが増えたのだ。
「マホちゃん、この子、ちょっと悩んでて……」
「……占ってもらえる?」
「……うん、いいよ」
そんなやり取りが続き、
気づけばマホは“学校の占い師”のような存在になっていた。
――ある日の放課後。
図書室で本を読んでいたマホの前に、
ネネが取り巻きの女子を連れて現れた。
「あのさ、ちょっといい?」
ネネはいつもの強気な目で言った。
「なんですか?」
ネネとマホのやり取りの後ろで、
取り巻きの女子たちがひそひそと囁いている。
「あなたの占い、すごく当たるんでしょ? 私も占ってほしいの」
ネネが言った。
「……」
マホは静かに首を振った。
「最近、そういう話が多いの。一度断ることにしてる」
ネネは眉をひそめた。
「なんでよ?」
マホはゆっくりと、言葉を伝えるように言った。
「あなたが望まない未来を、聞くことになる場合もあるから。
それでも平気か……一週間、よく考えてみて。
私が占う未来は、絶対だから」
マホの冷ややかな雰囲気に、
ネネと取り巻きは息を飲んだ。
「……わかったわ」
ネネはそれだけ言うのが精一杯だった。
その様子を、取り巻きの一人がスマホで録画していた。
――その一週間後。
ネネは再びマホの前に現れた。
取り巻きの女子も一緒だ。
「色々考えたけど、やっぱり占ってほしい」
「そう……内容は?」
マホが問う。
「……私がシン君を好きなのは知ってるでしょ?
ストレートに告白して、うまくいくか知りたいの」
「……分かった、ちょっと待ってて」
マホは静かに手を組んで俯き、目を閉じた。
光が視界を満たし、未来が流れ込んでくる。
「最初は返事を保留されるけど……焦らず待っていれば、うまくいく」
俯いたまま結果を伝えるマホに、
ネネは喜びの表情を隠しながらも、
唇を吊り上げて言った。
「結果が外れたら……私、あなたに何するか分からないかも」
マホはまっすぐにネネを見て即答した。
「結果は外れない。
外れるとすれば、あなたが焦って返事を催促しちゃった時」
ネネは返す言葉を失った。
――数日後。
ネネはシンに告白した。
マホの占いの通り、
シンは戸惑い、返事を保留した。
その間、ネネはマホの言う通り、シンの返事を催促せずに待ち続けた。
シンはマホのことを考えていた。
マホは突然花壇の世話係を辞めてしまい、
長いこと自分を避け続けている。
理由は全く分からない。
しばらく考えてみたが、
とにかく、自分には会いたくないのだ。
理由すら、聞くことも叶わないのだ。
あきらめるしかない。
そう結論付けるしかなかった。
――数週間後、
シンはネネと付き合うことになった。
これらの一連のやり取り――
ネネがマホに占いを依頼する場面、
脅しとも取れる言葉、
それに対するマホの冷静な返答。
占いの内容と、的中した結果。
全てが、取り巻きの女子によって撮影され、
面白おかしく誇張されてSNSにアップされた。
動画は瞬く間に拡散され、
「カワイイ中学生の占い師」
「100%的中」
「未来が見える子」
「学校特定」
と騒ぎになった。
「なにこれ!?……マホちゃん!大変!」
トモミとアンナはマホの身に起こったトラブルに恐怖を感じた。
案の定、他校の生徒や、
一部の大人までがマホを探しに学校へ現れるようになった。
やがて、児童養護施設にも不審な人物が見かけられるようになり、
マホは怯える毎日を過ごすことになった。
マサコさんはマホを連れ、
学校の先生たちと面談をすることになった。
「しばらく通学を止めて、養護施設での勉強に切り替えたほうがいいと考えますが、
いかがでしょう?」
校長先生は深刻な顔で言った。
マサコさんはマホを見つめ、静かに頷いた。
施設に帰り、マホが部屋に戻ると、
アンナがマホの前に座った。
「……マホちゃん、ごめん」
アンナは涙を浮かべていた。
「私が……相談相手を連れてきたから……
こんなことになっちゃって……」
マホは首を振った。
「アンナちゃんのせいじゃないよ。
私が……なにか勘違いしてた。
困ってる人にいいことをしてるって思って、調子に乗って……」
アンナはマホの手を握った。
「私、マホちゃんを守るから」
マホはその言葉に胸が熱くなった。
「……ありがとう」
「ちょっと、私のことも忘れないでよね」
トモミが二人の手の上に自分の手を重ねた。
三人はその日、
以前よりずっと固い友情で結ばれた。




