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かぼちゃの馬車ご一行、異世界で酒場を始める  作者: マイルマデニ


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第7話 星屑のステップと、解けない魔法

陽が沈み、城壁町『ルミエール』は無数の松明とランタンの光に包まれた。

 広場の中央では音楽隊が賑やかなポルカを奏で、昼間のパレードを終えた人々が、エールのジョッキを片手にステップを踏んでいる。


「……ふぅ。カボチャも酒も、底をつきそうだぞ」

 オーラムが額の汗を拭いながら、空になった樽を片付ける。店の前には、彼特製の煮込み料理を求める行列がまだ続いていた。


「へっ、景気がいいこった。……おい、アル! ぼさっとしてねえで、あっちの客に皿を運んでやれ!」

 ねずみが忙しなく指図する。

だが、その視線の先には、いつもよりずっとお洒落をしたアルと、淡い刺繍のドレスに身を包んだ令嬢の姿があった。


「ねずみさん、今夜だけは勘弁してください。……お嬢様を、広場のダンスに誘いたいんです」

 アルの言葉に、ねずみは一瞬だけ呆気に取られたが、すぐにニヤリと笑って鼻の頭をこすった。

「……ちっ、色男はこれだから困るぜ。行けよ。あとの皿洗いは、白馬たちにでも手伝わせるさ」

その言葉に、周囲がどっと沸く。


「おい、馬がどうやって皿を洗うんだ」

「そんな上級魔法、ルミエールで使える奴はいねーよ」


「全くだ」

かぼちゃが大声で笑う。

「馬が皿を洗うより、俺の手を4本にしてくれ。そのほうが役立つ」

また、周囲がどっと沸いた。



アルは酒場の喧騒から離れて、令嬢を広場へといざなう。

丁寧に一礼すると、令嬢の手をそっと取った。

「お嬢様、音楽が聞こえますか? ……僕と一緒に、少しだけ踊っていただけませんか」


「……ええ、喜んで。でもアル、私は上手く踊れるかしら。足元が見えないのは、少し怖いわ」

 令嬢は不安げに、光のない藍色の瞳を揺らした。


「大丈夫です。僕があなたの足元になります。……僕のステップに合わせて、ただ身を任せてくれればいい」


二人が広場の中心へ進み出ると、不思議と周囲の喧騒がふわりと遠のいた。

 音楽がゆったりとしたワルツに変わる。

 アルの動きは、かつての宮殿の従者そのものだった。だが、そこに「義務」や「畏まり」はない。あるのは、自分を拾ってくれたこの愛しい主を、世界で一番輝かせたいという純粋な願いだけだ。


くるり、と令嬢のスカートが夜風に膨らむ。

 魔法使いが用意したガラスの靴も、12時になれば消えるドレスも、ここにはない。

 けれど、アルのリードに導かれて踊る彼女の笑顔は、かつてのどの姫君よりも眩しく、自由だった。


「……見てな、オーラム。あいつら、なかなか様になってるじゃねえか」

 ねずみが、カウンター越しにオーラムと肩を並べる。

 二人の視線の先では、繋がれた白馬たちが、リズムに合わせて楽しげに頭を振っていた。かつては馬車を引くために必死に走った彼らも、今はただ、自分たちの仲間が踊る姿を祝福するように見守っている。


「ああ。……あいつの手、人間にしては少し冷たいかもしれないが……。今、あのお嬢を支えているのは、間違いなく本物の温もりだ」

 オーラムが静かに呟く。


夜空に大きな花火が上がった。

 黄金色の火花が降り注ぐ中、令嬢はアルの胸に顔を寄せ、幸せそうに囁いた。


「……ねえ、アル。私、今なら分かる気がするわ。……魔法なんてなくても、明日はちゃんとやってくるのね」


12時の鐘が、遠くの時計塔から響き渡る。

 かつては絶望の合図だったその音も、今夜はただの「心地よい一日の終わり」を告げる調べに過ぎない。

 魔法が解けても、彼らの居場所はここにある。

 焼きたてのパンの匂いと、土の温かさと、そして、共に歩む仲間たちの笑い声の中に。

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