第6話 黄金の蹄と、大収穫祭のファンファーレ
「おい、ねずみ! 昼寝してる暇があるなら、このカボチャの山を運ぶのを手伝え!」
オーラムの雷のような声が、秋晴れの空に響き渡った。
街は数日後に迫った『大収穫祭』の準備で、ひっくり返したような騒ぎだ。広場には色とりどりの旗がはためき、家々の窓辺には、オーラムの畑で採れた立派な黄金色のカボチャが所狭しと飾られている。
「分かってらぁ! ったく、この時期のオーラムは、かぼちゃの魔神に取り憑かれたみたいだな」
ねずみは文句を言いながらも、手際よく荷台を整理していく。
少し前に二人の気持ちをざわつかせた道化師の話は、この眩しい太陽の下では、まるでお伽話の読み聞かせのように現実味がない。
砂になった城がどうした。俺たちの目の前にあるのは、食いきれないほどの麦と、甘く熟した果実の山だ。
「ヒヒーンッ!」
「おわっ、お前ら! 飾り付けの最中だぞ!」
そこへ、真っ白な毛並みを輝かせた白馬たちが、首を振りながらやってきた。
今日の彼らは特別だ。パレードの先導役を任された彼らの背には、色鮮やかな花の首飾りと、銀の鈴が揺れている。
元は小さなネズミだったとは思えないほど立派な体躯で、石畳をリズミカルに叩いて歩く姿は、街の子供たちの憧れの的だ。
「よしよし、お前ら。本番で転ぶなよ。……ほら、景気づけだ」
ねずみがポケットから、とっておきの「はちみつ漬けの種」を差し出すと、白馬たちは嬉しそうに鼻先を鳴らし種を飲み込むと、ついでといった感じで、ねずみの帽子をひょいと口で奪い取って走り去った。
「こら! 待ちやがれ!」
笑い声が広場に広がる。
市場では、オーラム特製の「かぼちゃパイ」を求める行列が、朝から途切れることがない。
「マスター! 祭りの当日は、あの大きなキッシュも焼いてくれるんだろうな?」
「ああ、もちろんだ。騎士団の連中が全員分予約していったから、オーブンをフル回転させる予定さ!」
オーラムは、粉まみれの腕をまくって快活に笑う。
夕暮れ時、祭りのリハーサルを終えたアルと令嬢が、ひょっこりと顔を出した。
今日の令嬢は、パレードで使うという花冠を頭に乗せ、いつもより少しだけ頬を赤く染めている。
「オーラムさん、ねずみさん。街中がとてもいい匂い。……なんだか、胸がワクワクして、じっとしていられないわ」
「そりゃあそうですよ、お嬢様。……なんせ、この街で一番旨いものが集まる日ですから」
アルは、道化師のことなど忘れたかのように、いつもと変わらず、優しく彼女の手を引いている。
「とてもいい匂い」
「さすが、お嬢様。あれは、フリッターです」
「甘い?」
「ええ、衣を付けた揚げたての林檎に、粉糖やシナモンパウダーが掛かったお菓子です」
「素敵」
その言葉を聞く前に、アルは令嬢をベンチに座らせると、大急ぎでフリッターを買いに走る。
少し、周囲がざわめく。
アルの動きが早すぎるのだ。
「アル……」
令嬢は見えない目で、何かを見ているかのように、首をすくめた。
「お待たせしました。はい」
アルがフリッターを渡す。
「嬉しい」
令嬢は屈託なく笑い、フリッターを口に運ぶ。
「……ねずみ、聞いたか? 今年のパレードのトリは、俺たちの店の前で止まるらしいぞ」
「へっ、そりゃあ忙しくなるな。……オーラム、酒の樽をあと三つ追加しとけよ。……魔法じゃない、俺たちの力で、最高の夜にしてやろうじゃねえか!」
12時の鐘を待つまでもない。
今夜の酒場『オーラム』は、祭りの前夜祭を楽しむ客たちの笑い声で、いつまでも明かりが消えることはなかった。




