彼の心情
雪がしんしんと降り積もる夜。
恋人たちが色めき立ってそうな気候の中、俺は喪服に身を包んでいる。今日は、彼女の俺が愛してやまなかった婚約者の葬式だ。
彼女の死因は自殺。ビルの屋上から身を投げたらしい。その日俺は彼女からの手紙を、彼女の部屋で見つけた。彼女とは合鍵を渡し合う中だったのだ。あの日訪問したのは運がよかったのか悪かったのか。運命だと言えるだろう。手紙は、俺宛のものだった。
その手紙には、日々の感謝と、俺への気持ち、そしてこれから成そうとしていること、もう生きて…正常な状態では戻れないので婚約を破棄したいことそしておそらくこの手紙が遺書になることが書いてあった。
その手紙は涙のシミがあり、最後に
『愛してました。あなたは私の人生での唯一の希望でした。幸せになってください。さようなら』
と綴られていた。
なんだか落ち着かない気持ちで、葬式に参加する。粛々と執り行われる式が、彼女はもうこの世におらず、戻ることもないということを色濃く示していた。涙が止まらない。
「なんで、あいつが…」
思わず漏れる。やっと、結ばれることができた相手だったのだ。
式が終わり俺は弟を探すと声をかける。悲しみが止まらないが、勤めて平常通りの声を出す。
「弟くん。○△のことは、突然のことで、未だに信じられない。弟くんも、たった1人の姉だったんだ。胸中お察しします。これから大変だろうから、いつでも自分を頼ってくれていいからね。」
弟は落ち着かないような表情をしていた。彼女の手紙には、間違いを正してくる、としか書いてなかったので、俺はなぜだか、理解ができない。ただ、死した彼女の家族であるのは彼なので、少しばかり、羨ましかった。
それから一週間後の雪の日。彼女が自殺した日も、葬式も雪の日だった。この日俺は、彼女の友人だと言う女性…それも複数と会っていた。誰もが年下だった。疑問に思っていたが、話が始まるとすぐに解決した。矢面に立って話していたのは、弟くんの元カノで最初に致した相手だと言う女性だ。複数の女性のうち数人に、怯えたような瞳を向けられているのもわかった。その理由も。どうやら弟くんは暴力的な傾向にあるらしい。そして女性たちからの話によると彼女の父親もそうだったのだと。女性らの中には、様々な傷が残っていた。同じ男として許せなかった。
そして何より、その弟の説得…もとい道を正すため彼女が自殺したのが、納得がいかなかった。弟くんを、憎いとさえ思った。
そして葬式から約一ヶ月後。俺は彼を呼び出して、食事を共にした。事実の確認を行おうと思ったのだ。しかし、何を聞いても彼は俯いて無言だった。何も、言わないのがまるで、全てを肯定しているようだった。
最後に彼はこうつぶやいた。
「姉は俺を不幸製造機と呼びました。しかし、それは姉も同じでしょう?あなたも俺も不幸にして…」
何かから逃げるようにも見えた。冷静になってから思ったのだが、きっと彼は罪悪感を感じていたのだと思う。しかしその時俺は冷静さを失っていた。
「ふざけるのもいい加減にしてくれ。彼女の優しさで、彼女は君を正そうとした。なのにその態度はなんなんだ。俺は…お前を許さない」
そう宣言してしまっていたのだ。
しかし、次の日も。その次の日も。何もできなかった。何にも身が入らない。
世界は灰色で。もう彼女はいなくて。復讐のために生きるしかなかった。彼女の存在はかなり大きかったのだ。
復讐に生きる、それはあまりにも虚しい。まぁ実際そうするしかない人もいるのだろうが。俺には到底できそうもない。
だから俺も後を追った。同じように飛び降りて。彼女に手が届く気がして、なんだか嬉しかった。
ここまで読んでくださり、ありがとうございます。
中途半端ですね、彼。
さてはて、次回が最終話です。
よろしくお願いします。




