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幼女とオオカミ男のお話  作者: 金剛陸奥
あくとⅤ  ちょっぴり怖くて意地悪なオオカミ男さん、やっと会えましたね
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ちゃぷたーⅤ  幼女、贈り物に感激する



胃に優しい朝ごはんをワンくんに持って行って、ワンくんがリバースしたものを片づけて、吐いた反動で疲れてしまったワンくんがもう一度眠るのを見届けてからお部屋のお掃除をして、食材調達にお買いものに行って、とドタバタしていたらいつのまにか時計の針は12時過ぎちょっとを指していて、それに気付いたときには玄関のインタホーンが鳴っていた。インターホンを鳴らした人物が誰かはわかっていたので、少しむずむずという気持ちになってインターホンの相手をモニターで確認するお父さんをちらちらと見ていた。お父さんは気の良い返事をして玄関に向かい、すぐにお父さんと鈴が鳴ったような、綺麗なソプラノの女のひとの声が聞こえてきた。


わたしは読んでいたお料理本にしおりを挟んでから閉じて、椅子から立ち上がりリビングにやってくるそのひとを待っていた。足音が聞こえてきてどきどきと高鳴る心臓の音が聞こえないかな大丈夫かなと心配していると、憧れのひとが視界に入ってきた。


きちんとお手入れされた、ふわふわと揺れる綺麗な長い髪。形の良い耳には、左耳にのみ派手すぎないシンプルなピアスがちらちらと見え隠れしている。お洋服も上品で大人っぽく、わたしでは決して着こなすことは出来ないだろうロングスカートを着ていた。一歩一歩歩くたびにひらひらと揺れるスカートが優雅さをきわだたせている。そのひとの周りの雰囲気はとてもキラキラしていて、絵画に描かれた女性を見ているような気分になる。そしてお部屋に入ってきてから挨拶も忘れてぽーっと見惚れていたわたしに気付いて先に声をかけてくれたのは、わたしがこの世界で一番憧れるお姉さん、早瀬凛はやせ りんさんだった。



「こんにちは真綾ちゃん」



いつもクールで表情を変えることが少ない凛さんが少し微笑んでいたので、わたしは顔が思わず赤くなった。



「こ、こここんにちは凛さん!! いっいっらしゃいますぇ!」

「お邪魔します。……あ、真綾ちゃん」

「? はい!」

「これ、どうぞ」

「…え!?」

「アメリカに居る妹に会いに行ったときに買っておいたお土産。本当はこの前渡そうと思ってたんだけど、小学校で持ち込み禁止だったら困るかなと思って」

「い、いいんですか?」

「もちろん。受け取ってくれないの?」

「はう!? いえいえいえいえ!! 頂きます! ありがとうございます!!」



凛さんは持っていた紙袋をわたしにそっと差し出して、「開けてみて」と言ってくれた。言われるがままにわたしはもう一度お礼を言ってから、テーブルに紙袋をそっと置いて、中からプレゼント用に包装されたお土産をそっと取り出した。感触は、柔らかい。包装を破らない様にゆっくりとリボンを解いて中を開くと、



「わぁああ…!」



可愛いくまさん!! もこもことした感触はこの子だったのかぁ!! 包装の中にあったのは、抱きしめるのに丁度いいサイズの真っ白なくまのぬいぐるみだった。わたしがつぶらな瞳を持つくまさんにキラキラと目を輝かせていると、お父さんもくまさんを覗きこんで、ちいさい手を握手するようにゆるくつかむと珍しいねと言った。



「手作りのくまかい?」

「はい。アメリカで少し面白いお店を見つけたんです。自分が気に入ったぬいぐるみの毛皮を選択して、お店にある機械を使って自分でぬいぐるみに綿を詰めるんです」

「へぇ、それは子どもが喜びそうな方法だね。斬新だなぁ」

「子どもにも大人にも好評でしたね。何より印象的だったのが、」



凛さんはわたしに抱えられたくまさんのお腹をつんと細い指でつついて、わたしに笑いかけた。



「ここにね、ハートが入ってるのよ」

「はーと?」

「そう。綿を詰める途中に、たくさんのハートからひとつだけを選んで、この子の中に入れてあげるの。この部分を少し触ってみて。何か入ってるでしょ」

「はう。…ほんとだ。コリコリしてる!」

「それがこの子の心臓。ハートなの」

「わぁ。すっごく凝ってますね!! 愛着わくなぁ…。…ハっ、ということは、この子を作ってあげたのは凛さんですか!?」



白くまさんの手を動かしながら凛さんに尋ねてみると、凛さんは「少し恥ずかしかったけどね」と言った。じゃ、じゃあやっぱり、この子は、凛さんのお手製!!? わたしは白くまさんと凛さんを見比べて、あんまりにもあんまりな意外性にびっくりしていた。ぬいぐるみショップに入るタイプではないと思っていたんだけど…、で、でも、凛さんとぬいぐるみの組み合わせって、結構可愛い…。ある意味衝撃の事実にわたしはものすごく癒されていたけど、よくよく考えたら、この子をいただくのは何だか申し訳ない。自分で作ったということはそれなりの思い入れもあるんじゃ…。



「いいのよ」

「はう?」

「顔に書いてあるわ。…その子は、真綾ちゃんが大切にしてあげて」

「…ほんとうに、いいんですか?」

「ええ」

「あ、ありがとうございます!! 大事にしますね!」



嬉しい、嬉しい! 今まで凛さんに美味しいクッキーとかケーキとか頂いてたけど、これまでで一番嬉しいプレゼントかもしれない。もちろんクッキーもケーキも美味しいしすっごく嬉しいけど、やっぱり形には残ってくれないから。でも、このくまさんはずっと見ていられるし触ることもできる。それに、凛さんがわたしの為に考えて生み出してくれたくまさんということが何よりも嬉しい。もう一度ぎゅむっとくまさんを抱きしめると、ハートの感触も伝わってきてとっても心が癒された。


すると、凛さんは何か思い出した顔をしてテーブルに置いていた紙袋から一枚の紙を取り出して、くまさんに夢中になっていたわたしに差し出して言った。



「これ、その子の出生証明書」

「…………へ?」

「名前もあるわ。“ルートヴィヒ”よ」

「………あ、あの凛さん。ほんとうにこの子頂いてだいじょうぶですか…?」










凛さん、お父さん、そしてわたしはリビングで、お父さんの淹れた美味しいお紅茶とクッキーを口にしながら、いきなり本題のワンくんのお話をするのも何なので、凛さんのアメリカ旅行のお話や、大学生活について聞いていると、今まで居なかったセシルさんが2階からあくびをしながらゆるーい感じで下りてきた。



「やあセシルくん。助っ人お疲れ様」

「あー…、先生もアイツに何とか言ってやってください。レポートの期限は守れって。いっつもオレに助け求められちゃこっちが持たないです」

「ははは、今度言っておくよ」



セシルさんは朝、大学のお友だちから「大事なレポート課題の提出期限が今日までと気づかなかった手伝ってくれえええ」という、こっちにまで聞こえてくるぐらいの叫びのお電話があって、セシルさんは電話のお相手にぶつぶつと文句を言いながら、お昼までに提出というレポートの課題をお手伝いに2階に引っ込んでいたのだ。


セシルさんは少し疲れた顔をしてわたし達が居るリビングテーブルに近付いて、自分の分の紅茶を淹れながら、上品な動作で紅茶を口にしている凛さんに声をかけた。



「やぁ、凛」

「こんにちはセシル」



慣れた様子の二人は軽い挨拶をした。そしてセシルさんは、凛さんの隣のお席が空いていたのでそこにすとんと腰を下ろした。わたしは正面に並んで座る二人を見ていつも思うことは、本当にお似合いの二人ということだ。凛さんはずっと思っている通り、すっごくすーっごく綺麗で優しい美人さんだし、セシルさんはイギリス人ということもプラスして、容姿も性格もほんとうに紳士的で王子様みたいなひとで、二人が並ぶとお伽噺の王子様とお姫様そのものだった。


セシルさんと凛さんの前で言ったことはないけど、お父さんにはこっそり「セシルさんと凛さん、お付き合いしてないのかなぁ」とお話ししたことがある。そう言うとお父さんんは何故か少し困ったように笑って、二人はいつも一緒にいるけど、そういう関係ではないと教えてくれた。じゃあ、やっぱり本当に仲の良いお友だちか親友なのかなぁ…とちょっと残念に思いつつも、二人の姿をちらちらと眺めていると、セシルさんと視線がぶつかってしまった。何となく、悪いことをしたような気分になって目線を横にずらしてしまう。



「……真綾ちゃん、そのクマどうしたの?」

「え? この子? 凛さんに貰ったの! 可愛いでしょ?」

「凛が?」



セシルさんは驚いた顔をして隣に居る凛さんを見たけれど、凛さんは少しほっぺを赤くして、セシルさんを横目で睨んだ。えっ! 凛さん照れてる!? え!!



「へぇ~、ふ~ん、そぉ~。凛がねえ」

「何よ。何か文句があるの?」

「いいんじゃない。手作りする店のやつでしょアレ。可愛らしいことするんだね、凛も」

「……」



凛さんはぷいとセシルさんから顔を背けて黙りこんでしまった。わたしは今まで見たことない凛さんの様子に戸惑いつつも、垣間見えた凛さんの可愛らしさに心の中できゅんきゅんしていた。その反動でぎゅーっとくまさんを抱きしめると、セシルさんはひとつわたしに質問してきた。



「で、名前はなんていうの?」

「ルートヴィヒよ」



わたしが答える前に凛さんがキリッとした顔で出生証明書を手にセシルさんの質問に答えた。それを聞いたセシルさんの表情は何とも言えないものだった。


お父さんはわたし達の会話をニコニコ笑って聞きながら、6つ目の角砂糖をコーヒーに投入していた。










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