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幼女とオオカミ男のお話  作者: 金剛陸奥
あくとⅣ  ちょっぴり怖くて意地悪なオオカミ男さん、あなたの主人です
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ちゃぷたーⅣ  オオカミ男、はじめての名前



「お、お邪魔シマース!!!」

「…」

「…は、はう…。ちょ、ちょっとは反応してくれても…は、恥ずかしいよ」



達也さんがペットショップに戻るのを皆で見送ったあと、わたしはお父さんとセシルさんに手伝ってくれたお礼を言ってからすぐにウルフドッグさんのお部屋に行って、博士のあの陽気なノリを真似してドアを開いた。新しい環境に緊張しているであろうウルフドッグさんをリラックスさせる為にと思ったんだけど、これはなかなか恥ずかしい。は、博士をここまで尊敬したのは久しぶりだ…。もちろんウルフドッグさんの反応は、ない。め、めげちゃ駄目だ…。わたしはウルフドッグさんに伝えるべきことがあるんだ…。


初めて会ったときからわかるように、檻やケージみたいに狭いところは嫌いなのか、ケージから出て部屋の隅で大きな体を縮みこませているウルフドッグさんの隣にすとんと座る。


わたしはウルフドッグさんを見たけど、ウルフドッグさんはじっと前を向いていて隣に座るわたしを見ることはなかった。あの雷の日みたい。


そしてわたしはあることが気になってじっと、それなりに長く、じっとそれを観察していると、わたしからの無言の視線と妙な空白時間に耐えきれなくなったのか、とうとうウルフドッグさんの方がわたしに顔を向けて唸り出した。わたしはその唸り声に我に帰り、慌てて謝った。



「ご、ごめんね! そうだよね、じっと見られてたらいい気分じゃないよね」

「…」

「…前にね、ウルフドッグさんに押し倒された時も思ったんだけど、きれいな灰色の目をしてるんだなあって、ちょっと見惚れちゃって! えへへ」



鋭い目つきをしてるけど、その瞳はちょっと青のかかった灰色だった。イギリス人のセシルさんも綺麗な緑色の目をしてるけど、ウルフドッグさんの瞳も日本では普段見られない神秘的な色合いだったので、なんだか吸い込まれそうだなあと思いじっと見つめてしまっていたのだ。


わたしが正直にそう言うと、ウルフドッグさんはわかりやすい程びっくりした顔をした後、何だか慌てた様子で壁側に顔を背けてしまった。これは、ええと、照れてる? のかな?


ウルフドッグさんのもふもふとした大きな身体をつんつんと軽くつついてみると、やめろと言いたげな顔をしてウルフドッグさんがこっちに顔を向けた。さっきはわたし達に関心はありませんという態度を取っていたので、何を言っても反応は返ってこないんじゃないかと不安に思っていたけど、意外と律義な性格でもあるのか反応はしてくれる。


よかった。これならちゃんと確認は出来そう。



「わたしね、ウルフドッグさんのお名前、たくさんたくさん考えたんだー」

「…」

「最初はねー、もふもこくんとか、クロベイダーとか、我狼犬がろう けんとか、かっこいい名前にしようと思ったんだけど」

「!!?」

「お、お友達に全力で止められちゃったー…」

「…」



あ、背中から見てもわかるぐらいすっごく安心してる。そ、そんなに嫌かなあ。わたしは悪くないと思うんだけど、やっぱりセンスないんだ…そっか…。


本人(本犬?)からのリアルな反応を受けて、少々気分が沈みつつも、やっぱりかなんちゃんに相談しておいてよかったと思った。たぶんかなんちゃんに相談する前のわたしだったら、自分のネームングセンスにすごく自信を持っていたから、ウルフドッグさんに「今日からあなたの名前は、黒乃介蔵だよ! よろしくね!!」とのたまっていたに違いない。その時点でもうウルフドッグさんとわたしの絆が一生結ばれることは無かっただろう。かなんちゃん、ありがとう。



「だからね、わたしにとってウルフドッグさんがどういう存在かを考えてみたの」

「…」

「正直に言うとね、よくわからなくて…。…あ、ち、違うよ!? どうでもいいとかそういうのじゃなくて! ……ウルフドッグさんとはお友だちで、でも、わたしはウルフドッグさんの飼い主として、これから頑張っていかなくちゃで…」

「…」

「その、なんだかしっくりこなくて…だから、その」



わたしは一度ごくりと喉を鳴らして、決して時間をかけて考えた名前ではなかったけれど、ほとんど衝動的なものだったけれど、その名前を口にした。



「わたしにとって、一番のパートナーになればいいなって意味も込めて、“ワン”って名前を考えたんだけど、…どうかな」



ワン。いち。ひとつ。シンプルだけど、どんな意味にもとれる数字のワン。



「…」

「わたし、ペットを飼うって初めてで、そういうことでもウルフドッグさんが一番だし…」

「…」

「だ、だめ?」



ウルフドッグさんの反応がよく見えるように、壁側に移動してウルフドッグさんの真正面に屈んだ。達也さんはいい名前だって言ってくれただけに、ウルフドッグさんが気に入ってくれるんじゃないかと期待してしまう。


どきどきしながらウルフドッグさんの顔をじっと見つめているけど、ウルフドッグさんはさっきからピクリともせずにわたしの顔を見返していた。これは、ビックリしてるの、かな? ウルフドッグは感情表現が豊かな犬種だって本に書いてあったけど、本当にそうなんだなあ。それに、思っていることが結構お顔に出るタイプなのかな。すごくわかりやすい。


しばらく固まっていたウルフドッグさんだったけど、すぐにハッとした表情をして、またわたしに背を向けてしまった。き、気に入らなかったのかなあと地味にしょぼくれて、また考え直しかあ、とため息を吐いていると、ウルフドッグさんはもふもふのしっぽでわたしの頬を叩いた。叩いたといっても軽く頬をぽんぽんとされただけで、しっぽのもふもふが逆に気持ち良く感じた。こ、これは…。



「も、もしかして…!」

「…」

「き、気にいってくれた!? ね、そうだよね!? や、やったーー!!!」

「!!?」



わたしは嬉しくて仕方がなくなり、ウルフドッグさんの大きな背中に抱きついてしまった。ウルフドッグさんは突然のわたしの行動に身体が硬直してしまっていたけど、興奮するわたしはそのことに気付かず、もふもふの身体をこっそりと楽しみつつ、ゆっくりウルフドッグさんの顔が見える正面に回って、固まったままのウルフドッグさんの両手を取った。



「あらためて…、わたしの名前はまーやです! これからよろしくね、ワンくん!」



ぽかんとしたままのワンくんと軽く握手しながら、「自己紹介はいっぱいの笑顔と一緒にね。どんなに怖いひとでも、笑顔で接し続ければ、いつか相手も笑ってくれるんだよ」とお母さんに教わったことを思い出した。


お母さん、新しい家族、お友達、パートナーが出来たよ。これから、いろいろたくさん大変なこともあると思うけど、皆がいっしょにがんばろうって言ってくれたから、精一杯やってみるね。


それに、不思議だけど、ワンくんとならどんなことでも乗り越えて行けるって、そんな感じがするんだ。









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