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幼女とオオカミ男のお話  作者: 金剛陸奥
あくとⅣ  ちょっぴり怖くて意地悪なオオカミ男さん、あなたの主人です
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ちゃぷたーⅡ  幼女、リコーダーとものさしを手に戦う



学校が終わって、そのまままっすぐウルフドッグさんの待つペットショップへと向かった。


達也さんからあずかった鍵を取り出してスタッフ専用の裏口から中に入り、達也さんの姿をきょろきょろと探したけど見当たらなくて、おかしいなーと思っていたら、お部屋の机に可愛いチワワの置きものと一緒にメモ書きがあった。達也さんからわたしに宛てられたものだったので読んでみると、どうやら達也さんはまずお父さんとお家に行って、きちんと受け入れ環境が整っているかのチェックをしてから、そのまま車でお父さんとペットショップに戻ってくるそうだ。時計をみるとセシルさんもそろそろ大学の授業が終わって、こっちに向かうと言っていた時間に近付いていた。


それまでに学校の宿題を終わらせておこうとランドセルを置いて、ふたを開け教科書を取り出そうとしたとき、どこかの部屋から大きな声が聞こえてきた。え、ま、またこのパターン? 耳をすませてみると、独特な話し方と妙にまのびした声がして、ああこれは博士の声だとすぐにわかったんだけど…―――。


もう一人、博士と大声でお話しする声が誰なのかわからなかった。セシルさんよりも少し低い声で、ええと、よくよう? がある話し方をしている。それにしても、なんだが言葉づかいが、その、正直怖い。というか、キツい。声だけを聞いているとアニメに出てくる悪役がイメージされる。


ま、まさか…ど、どろぼー!? た、たいへんだ! どどどどどうしようぶぶぶぶきを!! も、ものさしとリコーダーしかない!! 









右手にリコーダー、左手にものさしを武器に、博士のお部屋の前に立って様子をうかがっていると、やっぱり中からは言い争う声が聞こえてきた。ど、どうしよう。ドアが厚いので会話の内容までは聞き取れないけど、何だか不穏な雰囲気が漂っている。な、何かあったんじゃないかって意気込んで来たはいいけど、お客様とかだったらどうしよう。ドアの前を行ったり来たりしていると、突然博士の甲高い悲鳴がドアの向こうから聞こえてきた。ああああ! や、やっぱり!!



「はかせえええええ!!! たっ助けに来たよ!!? どろぼーは!? …あ、あれぇ…?」 



高い天井の隅々まで部屋を覆い尽くすんじゃないかと言うぐらいの本に囲まれた、その中心にある立派なデスクの上に書類を散らかして寝転がっていたのは博士と…―――



「…ウルフドッグさん? ………え? なんで?」

「ま、真綾チャン…」



檻の中にいる筈だったウルフドッグさんは自由の身そのもので、妙な体制で博士に乗りかかったまま、心なしか驚いたような、焦ったような表情をしてわたしを見た。


リコーダーとものさしを構えていたわたしは辺りを見渡して、いざというときに備えたけど、博士以外の人物は居なかった。



「は、はう? どろぼーは? 博士、誰かに襲われてたんじゃ…」

「エ!? アハー、いえいえ、ワタシずっとここでヒットーリ! 誰とも話してマセン!!」

「じゃあさっきの悲鳴は? ウルフドッグさんと遊んでたの?」

「そ、ソウデスソウデス!!! ちょっと調子乗ッて暴れすぎちゃッたんデース! ネ! フグゥッ!!?」



ウルフドッグさんは博士のお腹を一度踏みつけて、滑らかな動きでデスクから飛び降りた。そのままウルフドッグさんはそこから動かず、鋭い目つきでわたしを睨みつけた。こ、これは、どうしたら、いいんだろう…。博士に助けを求めようとしたけど、博士はさっきウルフドッグさんに踏まれたお腹を押さえて「オオフ…、ク、癖になるカモォ…!!!」と身悶えていた。見てはいけないものを見てしまった気分になったのは何故だろう。


と、とにかく、このまま前みたいにお外に行っちゃったら困るし、ケージに入っててもらわなくちゃ! と周りを見渡してここにある筈のケージを探すと、丁度ウルフドッグさんの後ろにあるデスクの向こうにケージがチラリと見えた。あああ何でそんなところにいいい取りに行けないいいいい。


わたしがどうしようどうしようと絶望していると、ウルフドッグさんは獲物を狙う様な、構えた体制を取って、明らかにわたしの後ろにあるドアへと目線を向けていた。ま、まずい。これはまずいぞ…。とにかく何とかして引きとめないと!



「ううううウルフドッグさん! こ、ここは通せません!!」



そう訴えて後ろのドアにピッタリと張り付き出口を塞ぐと、ウルフドッグさんは牙を剥いてグルルルルと低く唸った。うわあああこわいいいこわいよおお。で、でも、わたし負けない!! 


今にも突進してきそうなウルフドッグさんに「ちょっと待ってね!! 準備するから!!」と声をかけ、ずっと手にしていたリコーダーとものさしをぎゅっと握り直して気合を注入し、ものさしを急いで後ろベルトに軽くさしこんで、背筋をきちっとまっすぐに整えた。そして肩の力を抜いて、足を少し開いた。こ、これで体勢はバッチリだ…。動物さん達が居るペットショップまではそれなりに距離があるので、さすがにあそこまでは音は聞こえないはず。だ、だいじょうぶだ。


わたしはリコーダーの吹き口を口元に装備してウルフドッグさんに「どうぞ!!!」と声をかけた。ウルフドッグさんは少し戸惑いの表情を見せたけど、すぐに険しい顔になって勢いよくわたし、というよりもわたしの後ろにあるドアに向かって走り出した。と、同時にわたしはおもいきり息を吸って、一番高い音が出る位置に指を押し当てて、そして…―――


女性の悲鳴の様な金切り声を上げるリコーダーの最高音を、ウルフドッグさんが目の前に来たタイミングで、一気に、吹いた。



「ファーーーー!!? キャーーー!! 真綾チャン鼓膜破れチャウ!!」



耳をつんざくような高音に最初に大きく反応したのは、デスクの上で身悶え続けていた博士だった。長い高音をしばらく吹き続けたわたしは、ゆっくりと音を小さくして止ませた。正直音を奏でた本人であるわたしも、嫌な脂汗が出る程の威力だった。そして引き留めたかったウルフドッグさんはというと、



「あああ、ご、ごめんね!! だいじょうぶ? じゃないよね…!! で、でもこれしか止める方法思いつかなくて、ご、ごめんなさいいいい!」



ウルフドッグさんはその場で大きな耳を押さえて縮みこまってしまっていた。止めることは止められたけど、わたしも想像以上に大きい高音を叩きだしてしまったので申し訳ないとしか言いようがない。力で抑えることは出来ないと判断した頭に瞬時に舞い降りた神様がわたしに授けた案は、ウルフドッグは通常の犬よりも聴覚、嗅覚等が優れているという勉強してきた知識とその手にあるリコーダーを使えということだけだった。


予想よりもかなりのダメージを与えてしまった様で、ずっと耳を押さえてぷるぷると震えているウルフドッグさんにわたしは「ごめんね」やら「ああケージあああ」と慌てていると、突然後ろから見覚えのある腕が伸びてきて、あっという間にウルフドッグさんの上にケージを被せてしまった。ウルフドッグさんもそれに気付いて、勢いよくケージに体当たりするけれど、ケージを押さえつけている人物の腕力が勝ったのか、ウルフドッグさんはそれ以上何も出来なかった。



「せ、セシルさん…」

「真綾ちゃん、ケガはない?」



にっこりと涼しげに笑ってわたしを見るセシルさんだけれど、ケージを押さえつけているその腕は血管が浮き出ていて、今セシルさんはケージの中で暴れるウルフドッグさんとケージを隔てて戦っているのだとわかった。そのギャップがなんというか、その、なんとも言えないのである。



「だいじょうぶ…。あの、あ、ありがとう…。わたしより、むしろ心配なのは、ウルフドッグさんとはかせ…」

「そっか。じゃあコイツは後で先パイに診てもらおう」

「あの、博士は」

「不用意に獣を檻から出すバカがどうしたって?」



デスクで「耳がァァァ」とのたうち回る博士を、セシルさんは道端に落ちているゴミを見る様な目で眺めていた。










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