ちゃぷたーⅠ 幼女、オオカミ男の名前を考える
ウルフドッグさんを引き取ることになったあの日から、もう3日がたった。
あの後、飼うと決まったぞさあその日の内にお家にお出迎え! となるはずもなく、達也さんがウルフドッグさんの状態をもう一度ちゃんと確認しておきたいということと、お出迎えの準備を整えるということで3日間の準備期間が与えられた。その間に、わたし達はウルフドッグさん専用のお部屋を用意してきちんと清潔に掃除したり、柵とゲージ、食器、ペットシーツ等の必要備品を揃えたり、快適に遊び回ることの出来るようにとお庭を整えるなどの準備に大忙しだった。
そしてお出迎えする日がやってきた。とはいっても学校がある日なので、ウルフドッグさんをお迎えに行くのは午後になるんだけど、そんな大事な日にわたしはまだ、ウルフドッグさんにとって一生ものと言えるほど大事なことについて、かなんちゃんに相談し悩みに悩んでいた。
「名前が…決まらないようううう。はううう…。今日お迎えする日なのにいいい」
「まーやちゃん…仕方ないよ。だって…」
そして深刻そうな顔をして長いまつげを伏せたかなんちゃんは、わたしがたくさんたくさん考えてきたウルフドッグさんのお名前候補のメモ欄をこの上なく残念そうに眺めていた。そして重いため息を吐いて、少しくしゃくしゃになったメモを机に置いて、わたしの心に深く突き刺さる一言を送った。
「センスが、壊滅的に…無いんだもの…」
「は、はうううう……」
もふもふでもこもこしてるから、もふもこくん。すごく真っ黒で強そうだから、クロベイダー。正直犬種のお名前そのものがかっこいいからウルフドッグさん。ちなみに第一候補は黒乃助蔵である。あだ名はくろにするつもりだった。
ぜんぶ自信があったんだけど、かなんちゃんにどれがいいかな!? ってウキウキと見てもらったら、黙って首を振って「これならいわゆるキラキラネームのほうがいい」と却下されてしまった。なので、今回はキラキラネームというものをたくさん調べて参考にして、黒珈琲、我狼犬など、最後のなんかは特に名字なんか考えちゃったりしてかなんちゃんに「これならどうだ!!」と審査してもらったけど、やはり黙って首を振られてしまった。
「あううう」
「別にそんなに考え込まなくても…覚えやすくてシンプルな名前でいいんじゃない?」
「う、うええ…考えすぎて何が難しくて何がシンプルなのかわがらなぐなっぢゃっだ…。も、もういっそ、歴史の偉いひとのお名前をお借りじようがなぁ…」
「例えば?」
わたしはたくさんの偉い人たちをもんもんと思い浮かべた。
この前まで流行だった戦国ぶしょうとかどうだろう!? 伊達政宗…は、博士と被っちゃうなぁ。織田信長とか、豊臣秀吉、徳川家康…真田幸村なんかかっこいいなあ! うーん、でももうちょっとこう、あんまりパッと思いつかないような…。ノーベル賞、シュワルツ・ネッガー、インディ・ジョーンズ、うーん…そうじゃなくてそうじゃなくて、あのべー出した人、ええとアインシュタイン…んー…あっ!! いるじゃないか! たくさんの人に夢と魔法を送り続ける、素晴らしくかっこよくて、イケてる、えらいひと…!!!
「ミッキーマウ」
「歴史の偉『人』はどこにいったの」
却下された。
「はい皆さん。先生の言った後に続けて発音してくださいね。『プリーズ ギブ ミー ユア ペンソウ』はいっ」
ぷりーずぎぶみーゆあぺんそーと皆がリピートするのにわたしはぼんやりと合わせながら、授業に集中しなくちゃと思いつつも、さっきかなんちゃんにアドバイスされた言葉がぐるぐると頭をループしていた。
『たぶん、まーやちゃんはそのワンちゃんの為にかっこいい名前を考えてあげようとか思ってるんだろうけど、センスないんだからそういうことは考えない方がいいよ。大事なのは』
ウルフドッグさんが、その名前をどう思ってくれるか、かあ…。
「はいそのまま続けてー、『ユー マスト ダーイ』はいっ」
「ゆーますとだーい…」
かなんちゃんならどんな名前を考えてあげる? と尋ねてみると『私は、その人が自分にとってどういう存在かをヒントにするよ。まーやちゃんも一度試してみたらどうかな』と親切に答えてくれた。なるほどなぁ…。わたしにとってのウルフドッグさんって、なんだろう。お友だちはお友だちなんだけど、他には…うーん。
「…つきさん、し・ら・つ・き・さん!」
「は、はいい!!」
考えすぎていたせいか、目の前に先生が立っていたことに全く気がつかなかった。あ、あちゃあ…。も、申し訳ないことを…。
「考え事はいいけれど、今は英語の授業に集中してほしいかな?」
「す、すいませぇん…あうう…」
「ふうっ。まあいいわ。次は気をつけましょうね。それじゃあ白附さん」
「は、はいッ」
「りぴーとあふたみー!!?」
「オ、オー!! イエス! イエー!!」
「はいっ! ワンッ、トゥー! ワンッ、トゥー!!」
「……!!!」
こ、これだ……!!! わたしの心に響いたワードが先生の英語の授業に隠されていた。これだ…きっとわたしがずっと求めていた名前は、これだったんだ…!!
「ワン! トゥー!! …どうしたの? 白附さん! 続けるのよ!!」
「は、はい!! せ、先生! せんきゅー! べりーせんきゅー!! わん! つー!!」
授業が終わったあと、わたしの隣の席のかなんちゃんは、さっきまで沈みこんでいたわたしが突然ちぎれんばかりの笑顔を浮かべて先生と掛け合いをしていたことに不気味さを感じずにはいられなかったらしい。な、なぜだ。




