ちゃぷたーⅡ オオカミ男、ちょっと寂しくなる
ネタバレ注意報
このお話は現在進行中のお話よりも、もうちょっと先の未来のお話です。
かなりネタバレな要素が含まれていますので、この先の展開を知りたくないという方はバックしてお戻りください。
大丈夫よ! という方はスクロールどうぞ。
仕方ない。オレは今狼犬なンだ。毎日それなりの運動量が必要とされている狼犬なのだ。耐えろ。耐えるンだオレ。
・・・おい!! リードを強引に引っ張るな!! 軽く唸って主張を試みるが、前を歩くこいつはどこ吹く風だった。オレを気に掛けもしない。テ、テメエ、飼い主サマがオレを散歩に連れて行くときだけ何度も何度も嬉々として付いてくる癖に、散歩の心得に関して何一つ習得してねえええ。おめーがいつも付いてきてるのは最早「オレの散歩」じゃねえ! 「飼い主サマの監視」だ!!
と、内心ぶつぶつと届くことのない怒りの念を送っていると、いつの間にかいつもの散歩コースの丁度半分地点にある明石屋鮮魚店に着いていた。
「お? セシルくんやないかーい! 今日は珍しく一人でワンワンと散歩かいな! ・・・なんや、あんまりおもろ無さそうな顔しとるでコイツ。尻尾振らんし」
「あはははは。コイツがだらしなく尻尾振って媚売るのは真綾ちゃんに対してだけですよ」
「わはははは。・・・セシルくんメッチャ機嫌悪ない?」
「気のせいです」
飼い主様に媚売ってんのはテメーだろが!!! オレはあの餓鬼に媚なんぞ売ったことは無い。断じて、無い!!
この優男はまた人の良さそうなツラで魚屋のオヤジと他愛のない話をし、すっかり気分を良くしたオヤジが新鮮な魚を2、3匹コイツに押しつけていた。こうしてこの男の外面に騙される人間が増えていくのだろう。
「げ、げぇ」
「あれ、千夏だ」
「あんた、超が付くほど面倒くさがりなのに、本当にまーやちゃんの言うことなら聞くのね・・・」
先を進んでいると、あのペットショップのバイト店員である女が長いポニーテールを揺らしながら前方から現れた。前に飼い主サマとこの女が話しているのを、飼い主サマの足元で聞いていたが、どうやらこの優男と同じ“ダイガク”の同級生というやつらしい。
「千夏」と呼ばれた女はオレの前にしゃがみこんで、ジロジロとあちこちを撫でまわしながら観察してくるので体をよじって後ろに下がると軽い謝罪が返ってきた。
「あーごめんごめん。触られるの嫌なんだよね。・・・うん。健康状態は良好良好。体つきもしっかりしてきたし、食欲も出てきたみたいじゃん」
「旺盛すぎる程だよ」
「良いことじゃない。これまでこの子ロクなもん食べてこなかったんでしょ。・・・あーそっかそっかあ、成程ねー」
女はニヤニヤと鬼の首を取ったかのような顔をしてコイツの顔を覗き込んだ。まさに人の弱みを握って喜ぶ子供の表情そのものである。
「・・・なに?」
「あんた、まーやちゃんがこの子の食事中付きっきりだから拗ねてんでしょ。そうよねー、ウルフドッグの食事って豪快だから準備にも片づけにも時間がかかるのよねー。お陰でまーやちゃんと触れ合う時間が減ったってか? このロリコン!!!」
「だからロリコンじゃないって」
「・・・他は否定しないのかよ」
「ねー、このお兄さん気持ち悪いねー」と女はオレに声を掛けてくるが、何とも言えない。しかし、オレの中でこの女の評価は高かった。この「千夏」という女はこの優男の本質に気付いている様な気がしてならない。飼い主様と一緒にいるコイツを見る時の女の目はいつも死んだ魚の様な目をしていた。
「いいから早くバイト行きなよ。先パイが待ってるんだろ」
「あっ、そうだった!! 今日は達也先輩とデートなのよ~。キャーどうしよー!!」
「オレとしては達也先パイが清らかな体のまま無事に帰ってこれるか心配だな」
「どういう意味よ」
額に青筋を浮かべた女は、優男の足に思い切り自分の足を振りかざした。対処しきれなかったコイツは地味にきたのか、屈んで踏みつけられた足を押えて「さすがキックボクシング部主将・・・」と苦しげに呟いた。へらへらふらふらしてるからだザマーミロ。
ふふんと鼻を鳴らした女は、優男の悶える姿に満足げな表情を浮かべていたが、突然ふっと表情を変えた。
「あの、さ。最近、凛とコミュニケーション取ってる?」
「凛? ・・・さあ、取ってるほうなんじゃない」
「さあって・・・。ま、まあアタシが口出すことじゃないんだけどさぁ。やっぱりあの日からちょっと様子が変っていうかさ」
「凛」という女が誰なのかは知らないが、もごもごと言葉を濁らせた女はこの優男の返事を待っていたが、コイツは特に表情を変えることもなく、あっさりと答えた。
「別に、もうオレには関係ないし」
「そりゃあ、そうだけど」
「オレから見たら、お姉さんは大学のマドンナとしてよくやってると思うけど」
「・・・それだけ?」
「それだけ」
期待していた答えとは違ったのか、女は深くため息をついて肩を落とした。そしてもういいと言わんばかりに女は優男に手を振った。
「じゃあね! アタシもう行くわ。まーやちゃんが帰ってくるまでちゃんとワンのお世話しなさいよ!!」
「先パイによろしく」
長いポニーテールを揺らして去って行った女を見送った後、この優男はへらへら笑っていた表情を瞬時に消して、再びオレを繋ぐリードを強引に引っ張った。こ、このヤロウ・・・。
自由すぎるコイツの行動に振り回されながらも、オレはふと青く輝く空を見上げた。
・・・今頃、飼い主サマは何してンだろうな。
「はうううう。すっごくおいしいよおおこのパフェ!! ・・・あっ、あと5分ですか!? だいじょうぶです!! おかわりあと二つお願いします!!」
「おっ!!? まだ行くか!? ええよ行くんや!! ここまで来たら店の記録更新して帰りや!!」
「ふぁい!!!」
現在、わたくし白附真綾は小学校のえんそくで、和の都、京都に来ています! そして今、わたしは京都で一番おいしいと有名な和風パフェのあるお店で、『30分で6杯食べたらタダ!』というチャレンジに挑戦真っ最中です。ただ甘いだけじゃなくて、抹茶のほのかな苦みが上手くフレーバーされててたまらないよううう。はううう!!
「ま、まあやちゃんて、ほんと甘いものになるとすっごく食べるよね・・・。もうこれ何杯目だっけ聖羅ちゃん・・・。店員さんも熱くなっちゃってるし・・・」
「もう8杯目・・・。普段そんなにいっぱい食べるタイプでもないのにね。なんというか、スイーツ専用の胃袋が別に用意されてるんじゃないのかな・・・」
「この前、ヘンゼルとグレーテルって絵本をまーやちゃんといっしょに読んだんだけど、まーやちゃんずっとお菓子の家の挿絵見て、ずっとはうはう言ってたよ」
「それ絶対絵本の内容頭に入ってないよ」
「おおおおおお!! お嬢ちゃん10杯到達新記録やああ!!」
「やったあああ!!」
勝ち取ったよおおお!! これは帰ってからワンくんに報告せねば!
わたしは今ワンくんがどういう気持ちでお空を眺めているのか知る由もなく、ただただ、京都えんそくを堪能していた。しーあーわーせー!!




