ちゃぷたーⅠ 幼女、お泊りえんそくに行く
ネタバレ注意報
このお話は現在進行中のお話よりも、もうちょっと先の未来のお話です。
かなりネタバレな要素が含まれていますので、この先の展開を知りたくないという方はバックしてお戻りください。
大丈夫よ! という方はスクロールどうぞ。
「ぜッッてえええイ・ヤ・だ!!!」
「は、はううう。そんなこと言わないでよううう。だ、だいじょうぶだよお・・・。1日たったらすぐ戻ってくるからああ」
「だったらオレも連れて行けよ! 散歩だって言やあバレねーだろーが!!!」
「どこの世界に、えんそくに「散歩だ」って言ってペットを連れてくる小学生が居るのよお!」
ある日の朝、世間体ではオレの飼い主サマであるこのケツの青い餓鬼が、こんなことを言い出した。
「お泊りえんそくに行ってくるから、セシルさんとお留守番よろしくね」と。
“えんそく”とやらに行くのは全く問題ない。“えんそく”から帰ってきたこいつは“ごとうちのとくさんひん”という食い物を土産として持って帰ってくるので、むしろ大歓迎である。
しかしいくら我慢強いオレでも、不満をぶつけないわけには点がひとつあった。
「ふざけンな!! オレがあの優男をイケ好かねえって知ッてて二人きりにする気かよ!」
「だってセシルさん大学お休みなんだもん! そ、それにほら! これをきっかけにちょっと仲良くなれるかも!」
「ンな訳ねーだろ!! この天然ボケ!! オメーは普段一体何を見て生活してンだよ! 節穴!! この天然ボケ!!」
「あ、あうううう」
残念なオツムを持つこの小ッせえ飼い主サマは、普段オレ達がどれだけ牽制し合っているのかまるで理解していない。いや、する気がないのか。
そもそもこの飼い主サマはあのセシルとかいう男の本質を掃き違いすぎている。あの優男は上面だけは良い男だが、中身はドロドロのグチャグチャで、鼻の利くオレからしたら臭くて臭くて仕方がない。特に飼い主サマに向ける視線は一見すると甘く優しげではあるが、アレは明らかにドス黒い欲情を含んだソレだ。オレはあの優男が飼い主サマに向ける目線を初めて目の当たりにしたとき、人生でこれ以上は無いほど「うわあこいつマジかよ」とドン引いたのを覚えている。今までそういった趣向の人物を多く見てきたが、よくもまあこんなちんちくりんな餓鬼にそんな感情を持てるものだと、よくない意味で感動を覚えたのだ。
そして、少々おせっかい気味ではあるこの飼い主サマは、やたらとオレを構い倒すので、その度にヤツはこちらを射殺さんばかりの眼光を向けてくる。ペットにまで嫉妬するのかよこいつと思いつつもオレは非常に寛容なのでいちいちそんなことを気にはしていなかったが、ヤツは飼い主サマが見ていないところで、いや見ても見ていなくても、オレが飼い主サマ以外に触れられるのを嫌がると知っていてブラッシングをやたらと長くしたり、オレの好きな鶏肉をこれ見よがしに食ったりと、毎日ネチネチと嫌がらせを施してくるのである。これは嫌いにならざるを得ない。
そんなヤツと一日、いや一日半を共に過ごせというのか。ダメだ、想像しただけでも体中の毛が抜け落ちてしまう。
「そもそもなンで当日になッてから報告すンだ! それも! 出ていく! 直前に!!」
「き、きのう言おうと思ってたんだけど、毎週楽しみにしてるドラマに夢中になってたら、その・・・わ、忘れちゃった!! え、えへへへへ」
「えへへへへ、じゃねーよ!! バカか! 知ッてたけどオメーやっぱりバカか!! このバカ!!!」
「ご、ごみぇん・・・」
「大体、親父さんはどうしたンだよ! あのジジイは!!」
「お父さんは昨日の夜から出張で、戻ってくるのは3日後だし・・・。博士は、
『真綾チャン、ワッターシ、一週間台湾に行ッてきマース。なのーで、暫ク、ワンくん預かれまッセーン!! チョー美人で、ボンッキュッボンな台湾のお姉チャンたち、ワタシを今か今かと待ッてマース。お土産買ッてくるので、楽しみにしてて下サーイ。あッ、ワンくんにヨロシク』
・・・だって」
「あンの色ボケジジイ!!!」
飼い主サマはいつものように困った顔ではうはう言いながらオレを宥めていたが、ふと自分の腕時計を確認すると、大きい悲鳴を上げた。
「はううう!!? もうこんな時間!? い、急がないと置いていかれちゃうよう!!」
「あっ!! てンめまだ話しは・・・!!」
「そういうことだからワンくん!! ぜったい、ぜええったい! その姿でお家の中うろちょろしちゃダメだよ! ウルフドッグさんのままで居てね! 行ってきまーす!!」
「ちょ、待!」
手を伸ばして細い腕をつかもうとしたが、無情にもバタンと部屋のドアは閉ざされてしまった。獣の耳をひくつかせると、扉の外であのイケ好かない男が飼い主サマに甘い声をかけているのが聞こえてきて更に苛立ちは増した。
そして再び、無駄に元気のいい飼い主サマの声が聞こえ、部屋の窓から外を伺うとひょこひょこと遅っせえ走りで飼い主サマが必死に学校に向かっていた。あんな鈍足で間に合うのかよ・・・。
上に上がってくる音が聞こえてきたので、急いで狼犬の姿になると、足音は部屋の前で止まり、ゆっくりとドアが開かれた。もちろん飼い主サマの部屋のドアを開けたのは、
「あー・・・、そっか、お前ここに居たの」
「・・・」
「まあいいや。朝ご飯、下に用意してあるから」
テメエ、飼い主サマが出てからコンマ1秒でこの部屋に何の用事があったんだ。オレは寒気が止まらなかった。




