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幼女とオオカミ男のお話  作者: 金剛陸奥
あくとⅢ  ちょっぴり怖くて意地悪なオオカミ男さん、お世話いたします
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ちゃぷたーⅤ  幼女、大人達の思惑を知らず



決心のついたらしい真綾チャンは、あのボーイをひと目見てその意思を確かなものにしたいと言って部屋を出て行き、ワタシ達大人4人は明石屋サンが持ってきてくれたお茶を味わっていた。…それにしても。



「意外デシタ」



ふうと一息ついていたタツヤ、明石屋サン、そしてミスター白附が言葉を発したワタシに目を向けた。タツヤはまたワタシが妙なことを言いだそうとしているんじゃないかと疑いの目をしていたが、今のワタシは超真面目モードデス。おふざけはシマセーン。明石屋サンは用意されたクッキーを口いっぱいに頬張り何も話せないようで、残るミスター白附だけがワタシの言葉に反応した。ワタシはアナタのことについて話そうとしてるんデスヨ。



「何がです?」

「ミスター白附。アナタはそれなりに常識を弁えた人間だと思ってイマシタ。ナノデ、流石に今回はワタシのスペシャルな提案を断ると覚悟していたんデスヨ。大切な真綾チャンにそんな危険なことをさせる訳にはいかないッテネ」

「ああ。最初はお断りするつもりだったんですけどねえ」



ミスター白附は、ハムスターの様に頬をいっぱいに膨らませた明石屋サンの為に新しくお茶を注いでいる間も、相変わらず掴みどころのない表情を浮かべていた。それを見ていたワタシも空になったカップをタツヤに向けて、新しくお茶を注ぐようにウィンクして合図するが、タツヤは何もせず黙ってお茶を味わっていた。この息子、まださっきのことでネチネチと怒ってマスネ。だから女性にモテないんデス。


新しいお茶は諦めて、ワタシは再びミスター白附に何故提案を受け入れる様考え直したのかを尋ねた。ミスター白附の出した答えは極めて単純、しかし複雑でもあった。



「まーやが迷惑をかけたからですよ」

「は?」



ミスター白附の発言に疑問の声を漏らしたのはワタシではなく、タツヤだった。なんだかんだでこの中で一番その理由を気にしていたのはこの息子だったラシイ。まあ確かに大学時代から、研究室で担当の教師となったミスター白附の言動は理解出来ないときがあると言っていたタツヤには、今回のこともそれに当てはまったのだろう。



「教授、別にまーやちゃんは俺達に迷惑なんかかけちゃいないですよ。それに、一体何の関係が?」

「いいや、聞いたよ。あの雷雨の日、まーやはあの男の子を追って、誰にも言わずひとり店を飛び出したそうじゃないか」

「それは、俺達が見てなかったから」

「でもまーやが迷惑をかけたことは事実だよ」



娘が周りに迷惑をかけたから、その罰としてあの犬を引き取って面倒を見させるということなのだろうか。いいや、それではあまりに極端で、なにより横暴すぎる。


それに、ワタシはそのことを話している間、申し訳なさそうな顔をするでもなく笑顔を浮かべたままのミスター白附が気になっていた。彼はお茶に口をつけて、クッキーをひとつ手に取り、口にいれることもなくそれを眺めて、話し出した。



「妻が亡くなって以来、はじめてなんですよ」

「え?」

「まーやが、人に迷惑をかけるのが」



思わず黙りこんだタツヤに代わって、今度は口の中のクッキーをすべて胃に収めた明石屋サンが口を開いた。



「そういえば、ここに来る前にあのお嬢ちゃんと話しとったんやけど、最終的に飼い主が見つからんかったら、ウチであのワンワン面倒見たるって言ったんや。そしたらあの子、随分頭下げて下げて。お店つくまでずっとありがとうありがとう言うとったわ」

「こっちが止めなければ、まーやはずっとそうしているでしょうね」

「いっつもあのお嬢ちゃんあんな感じなんか? いくらなんでも遠慮しすぎというか、人に迷惑かけることを異様に気にしとるというか、身振り素振りは子どもやけど、子どもらしゅうないとこもあるゆうか……あ」



明石屋サンは何かに気付いた様で、なるほどなあと頷いていた。タツヤも思い当たる節があるようで、黙ってカップの中のお茶を意味深に眺めていた。


ミスター白附は手にしたままだったクッキーを頬張り、お茶を飲んでふうと息をついてカップを置いた。そしてミスター白附は笑みを浮かべたままワタシを見て話しだした。



「子どもなら、あの犬を家で飼いたいと真っ先に言い出す筈なんですよ。襲われたといっても、まーやに怯えた様子は無いし、むしろ彼に好感を持っていたみたいですから」

「捨て犬を見つけたときの子供の反応デスネ? しかし何故真綾ちゃんはソレを言いださなかったんデショウ?」

「“お父さんやセシルさんに迷惑をかけてしまう”そう思ったんでしょう。でもあの子は優しいですから、あの男の子をそのまま放っておくことは出来なかったんですよ。だからせめてと言わんばかりに飼い主探しに意気込んでいたんです。傍から見れば、物分かりの良い子で済ませられるかもしれません。しかし、そういったことが6年も続くと、どうも…」



そこでカップの中身をじっと見つめて黙っていたタツヤが顔を上げて、ミスター白附に「奥さんが亡くなってからずっとですか」と尋ねると、ミスター白附はほんの少し悲しそうに笑って頷いた。確かに、小学4年生、9歳といえばまだまだ親に我儘も言う年頃だろう。それが一切無いというのは、余程精神的に自立しているか、または…―――



「妻が亡くなって、まーやはお母さんに会いたいと泣いたことも無ければ、一言寂しいと僕に漏らしたこともないんです。いつも明るく振舞って笑顔なんですよ」

「…」

「でも」



ミスター白附は嬉しそうに笑って言った。



「今回、まーやが迷惑をかけたというじゃありませんか。あの男の子の為に」



その言葉には本当に安堵と喜びの気持ちが込められており、ミスター白附が発した言葉とは裏腹に何とも暖かいものだった。娘の失敗を喜ぶ親というものは何とも不思議なものだったが、納得させられるものがあった。ミスター白附は子供の様に目を輝かせて、あのボーイについて語った。



「あの男の子には、まーやを突き動かす何かがあるとしか僕は思えないんです。情けないながら僕やセシルくんはそれを持っていない。僕は、まーやに彼を任せると同時に、彼にまーやを任せてみたい、そうも思ったんですよ。…動物相手に変な話ですかね?」

「なっ、何言うてはりますのん! そんなことありまへんで! それに、子どもなんて迷惑かけてなんぼや!」

「ええ。僕もそう思います。頭を下げるのは、大人の役目です」



ミスター白附はここまでずっと浮かべていた笑みを消して、椅子から立ちワタシ達に深々と頭を下げた。タツヤと明石屋サンは何が起きたかわからないと慌てた様子で、反射的に彼等も立ち上がり、ミスター白附に頭を上げるように言ったが彼はそのまま動くことは無かった。



「この度は色々とご迷惑をおかけしました。そして、これからもお手を煩わせることが多々あるでしょう。しかしどうか、真綾を見守ってやって下さい。何卒、真綾の力になってやって下さい」

「ああああ教授わかってます大丈夫ですから! 頭を上げてください! いたたまれないです! っつーか頭を下げるべきはウチのオヤジの方なんですから!!」

「ほ、ほんまやで!! 別に迷惑なんか思わんて! 皆で協力してやってこう! な!?」



ワタシは頭を垂れるミスター白附を黙って見つめた。この男はやはり中々鋭い。そして侮れない。ワタシが提示した案に隠された意図の核心を突いている。油断していると色々とバレちゃいます。気を付けなくては。


とりあえず、一先ずはこれで第一ステップの決着がついたということで良いデショウ。後で、結果をエミリーに報告しまセント。


そうデスネ、とりあえず。


もうすぐやってくるであろう赤ずきんの王子サマに、この事態をもう一度、一から説明しなければなりませんネ。また波乱の予感デスヨ。









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