ちゃぷたーⅢ 幼女、オオカミ男が何たるかを教わる
「先日、俺達が発見し保護した大型犬は“ウルフドッグ”、または“ハイブリッド・ウルフ”と呼ばれる狼と犬を交配させた犬種です」
達也さんはまず、ウルフドッグさんの名称からお話を始めた。そしてウルフドッグさんと思われる写真がたくさん貼り付けられた資料を取り出して、ページをめくり指さしながらわたし達に説明をしてくれた。
「狼の血が混ざっている為にその性質を受け継いでいて気性は荒々しく、攻撃的な部分があります。上手くコミュニュケーションをとれなければ絶対に懐くことも言うことを聞くことはありませんし、ちゃんと訓練してきた熟練者でさえも飼育は難しいといわれている動物なんです」
お父さんは手渡された資料を読んで、納得したように頷いて達也さんを見た。
「うん。資料にも目を通してみたけど、ウルフドッグの野性味に扱いきれなくなった飼い主さん達もたくさん居て、結局は檻に入れっぱなし、またはそのまま捨ててしまうケースも多くあるようだね」
「その通りです。そうなれば、飼い主にとってもウルフドッグにとっても良くない。それに、狼犬に関する痛々しい事件もあります。ウルフドッグを飼うということは、まず狼の性質に乗っ取って、飼い主自身が群れのリーダーであることをウルフドッグに上手く認識させ主従関係を確立しなければなりません。さらにウルフドッグは誰にでも愛嬌よく尻尾を振る犬種じゃない。一人しか主人として認めないワンオーナードッグです。」
う、ウルフドッグさんって、そんなに複雑なワンちゃんだったんだ。確かに、近所のおばさんが飼ってるワンちゃん達とは違うなーとは思ってたけど、お話しを聞いていると本当にオオカミそのものだ。ますます飼い主さがしの難易度が上がったことで嫌な汗が背中を伝ったのがわかった
達也さんは少し間を空けて、一番難しい顔で話を続けた。
「普通なら子犬のころから飼い主と触れ合い、主従関係を結んでいくところから始めるのを、あのウルフドッグはおそらく2~3歳、もう身体も立派に大きくなった成犬からその絆を築いていかなくてはなりません。加えて、ひどい虐待を受けていた可能性もあり、人間に対する警戒心、怯え、凶暴性は通常のウルフドッグよりも格段に上、いや、オオカミ以上と言っても過言ではないかもしれません」
「俺としてはまず保護施設に預けて、メンタル面の回復を施している間に里親を見つけようと考えていたところだったんです」と続けた達也さんは苦々しい顔をしていた。
そして暫く部屋に重い沈黙が続いて、わたしはちょっとだけむずむずと落ち着かなくなってしまった。は、はう…。でも、その沈黙を打ち破ってくれたのは、ずっと博士の背中を撫でていた明石屋のおじさんだった。
「なんやー…、ウルフドッグっちゅーのがどういうワンワンなんかはよーわかりましたけど、それが何で白附はんがここにおることに関係するんです?」
明石屋のおじさんが達也さんにそう問いかけると、達也さんはこれ以上ないほどおでこに青筋を浮かべて、未だに酔いの冷めない博士をにらみつけた。ひ、ひええええ。
「そこで酔い潰れてる、西洋かぶれの、バカが」
「ハッ!? 誰がバカデスカー!? ワタシ超ジーニアスで世界的にフェーマスな考古学者デス!! …オエエエエ」
「……バケツに嘔吐物を垂れ流して醜態をさらしてるそこのバカが、」
達也さんは一度黙りこんで、わたしを見つめた。何かを言おうとして口ごもる達也さんはわたしも初めてみる。そんなに言いにくいことなのかな…。そして頭をぐしゃぐしゃとかき乱して、その重い口を開こうとした時、代わりに聞こえてきたのは正面に座っていた人物の穏やかな声だった。
「まーや、あの男の子のお世話を、きみに任せたいんだ」
お父さんはテーブルにゆったりと身を乗り出して、少し距離の近くなったわたしにそう言った。
いま、お父さん何て言った? あの男の子ってどの男の子? あ、ああ。あのウルフドッグさんのことかー…そっかー…。わたしがお世話するのかー……え?




