↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
AHEAD~再動したパーティは止まれない~  作者: あこね
第七章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
70/79

3話 交渉


「なッ!」

「は……!?」


 ダレンとランティスの声が重なる。

 驚愕に見開かれた瞳は、信じられないものを見るかのように、一人微笑むトーカを映していた。


「被検体、だと……?」

「えぇ。もう二十年近く前の話になりますが、この国の北方にあった合成魔獣(キメラ)研究所の『人(・)と魔物(・・)を掛け合わせる』実験。その被検体です」


 淡々と話すトーカの声は、自分でも驚くほど温度がなかった。


「当時の合成魔獣(キメラ)研究は、現在のように広く知られてはいませんでしたから、実験に歯止めをかけるものがなかったのでしょう」

「だ、だが! そんな非人道的なことがおこなわれていたのなら、研究に対する国の措置が『規制』程度で済むはずがないだろう!」


 机に拳を打ちつけるダレンへ、トーカは小さく眉を下げる。


「その点に関しては、私の落ち度でしょうね。研究資料や実験のデータは、魔力暴走による爆発ですべて消失してしまいましたから。孤児であった私が、実験だの研究だのと騒いだところで、大人たちは誰も相手にしませんし、信じて貰えないならと、それ以上訴えることもしませんでした」

「……ッ」


 ダレンが口を開きかけ、かける言葉を見つけられずに押し黙る。

 そんな彼を見つめ返し、トーカは静かに笑みを消した。


「今……あの研究を引き継ぎ、実用段階まで進めている者がいます。私個人の意見を言うなら、すぐにでもその人物を探し出し、辞めさせたい……。ですが、迅速な戦力の増強を求めている騎士団としては、そうもいかないのでしょう?」

「な!? 貴様、どこでそれを……!」


 ダレンが勢いよく立ち上がり、ガタンと椅子が鳴る。

 彼の目には今までにないほど、焦りと動揺が浮かんでいた。


「私には友人が多いのです。みな噂好きで、少し尋ねれば色々なことを教えてくれます。……例えばそれが、騎士団内で新たに検討されている魔獣部隊の話や、魔法士団の人工的な魔力増強の噂であっても」

「……ッ!」

「一方では魔物へ手を加え、もう一方では人間へ手を加える。この二つが合わさることで、どんなものが生み出されようとしているのか、聡明な貴方なら見えているはずです」


 トーカは自らがそうだとでも言うように腕を広げる。

 魔物と人間、その境目は魔力の違いでしかない。


 ――心身ともに他者を受け入れやすい魔物を生み出す研究。

 ――膨大な魔力に耐えられる状態へと人の身を近づける研究。


 それぞれが別角度のようで、行き着く先は人間の合成魔獣(キメラ)化という、おぞましい帰結だ。

 再び笑みを浮かべたトーカは、声色を少し和らげる。


「私は別に、騎士団が戦力を拡大することに反対しているわけではありません。国の盾たる貴方がたが強固な存在となるのは、私たち国民にとっても喜ばしいことですから。しかし、その手段が良くない」


 苦々しげに顔を歪めるダレンへ、トーカはさらに言葉を重ねる。


「合成魔獣(キメラ)研究は、それにかかるコストも、生み出されるもののリスクも大き過ぎるんですよ。現に、副産物であるその薬剤は、国家転覆を目論むことができるほどの代物です。騎士団がまだ深く関わっていない今のうちに、製作元である研究所と、販路を作っているファウグス伯爵を潰しておくべきです」


 拳を握りしめたダレンが、視線を外して低く唸る。


「……研究所と提携した戦力強化の件は、すでに国王陛下からの許可が下りている。我々だけで、おいそれと対処できる問題ではないのだ」

「そうですか……」


 トーカは落胆の滲むため息をつくと、空気を変えるように軽く手を打ち鳴らした。


「では、ここからは取り引きです。貴方がたが有している、合成魔獣(キメラ)研究に関わるすべての情報を、私に開示してください」

「なに?」

「今回の件、騎士団は大々的に動けないようですので、代わりに私が引き受けます。この研究にどれだけの人物が関わり、何が使われているのか、ある程度は把握していますよね? それらを渡していただきたい」

「自分が何を言っているか、分かっているのか? 貴族を相手取るなどできるわけが……」

「ファウグス伯爵家程度でしたら、半月とかからずに解体させられますよ。研究所についても、情報さえ揃えばそう難しくはないかと」


 言い切った言葉に、ダレンの顔が険しさを増す。


「ですが、厳格なことで名高い貴方が、人の情報を売るような真似を良しとしないことも理解しています。ですので、私からは情報の対価として、こちらを提供致しましょう」


 トーカはおもむろにジャケットの内側へ手を入れ、コインケースのような小さい布袋を取り出す。

 紐で固く閉じられた口を、慎重に開いた途端――溢れ出した濃い魔力が部屋の空気を一変させた。

 息が詰まるほどの圧迫感に、ダレンとランティスの視線がトーカの手へと吸い寄せられる。

 袋から慎重に取り出したのは、手のひらにすっぽりと収まる透き通った塊。

 一見、楕円形の水晶にも見えるが、凹凸のある表面には規則的に鱗が並び、細い四肢が胴に沿って折りたたまれている。

 尾を咥えるように丸まるそれは、小さな蜥蜴を形作り、窓から差し込む夕日を透かして細かな光を散らしていた。

 だが、美しいその身から溢れ出す魔力は、まるで魔窟の中にいると錯覚させるほどに濃い。

 トーカは透明な蜥蜴を手に乗せたまま、ゆっくりとダレンへ歩み寄る。


「そ、それは……なんだ……?!」


 顔を引き攣らせたダレンの目の前、机上にある黒い小瓶の隣へ、トーカはそっと蜥蜴を置いた。


「……透晶蜥蜴(ラケルトス)」


 後ろから呟くようなランティスの声が聞こえる。

 トーカは軽く振り返ると、唇だけで「正解」と微笑んだ。


「噂くらいは聞いたことがおありでしょう。何者にも捉えることのできない透き通った身体を持ち、触れたモノすべてに潤沢な魔力を与えるという幻の生き物『透晶蜥蜴(ラケルトス)』。先日、魔窟内にて遭遇したので、私のパーティで倒したのです」


 ダレンは呆然と視線を落とし、目を瞬かせる。


「これは既に死んでいますので、生きていた時ほどの魔力はありませんが、触れたものへ魔力を分け与える性質は変わっておりません。王城の研究機関で詳しく調べ、装備や魔道具に転用すれば、騎士団の兵力を底上げするのには十分な成果が出ると思いますよ」


 トーカは言いながら、黒い小瓶を指さす。


「多くの犠牲を払ってでも、強大な力を手に入れるか……」


 その指をゆっくりとずらし、透明な蜥蜴へ向ける。


「騎士たちの力を伸ばすことで、磐石な力を手に入れるか……、選ぶのは貴方です、騎士団長。後悔のない選択を」


 ダレンがごくりと唾を飲み、小瓶と蜥蜴、そしてトーカを見比べる。

 自身を落ち着かせるように深く息を吐くと、焦りの消えた真っ直ぐな視線をこちらへ向けた。


「トーカ・ロット、一つだけ聞かせろ。……貴様は、その過去を抱えてなぜ、この国のために動くことができる?」

「国のため? 違いますよ。私は最愛の妹が、安心して暮らせるようにしたいだけです」


 一瞬の迷いもない答え。

 トーカにとってはそれがすべてで、他の事柄はただの惰性に過ぎない。

 マリアテールが毎日楽しそうに過ごし、幸せに暮らす国だから――それを脅かす危険分子は、どんな手を使ってでも排除する。

 たとえその相手が、騎士団や冒険者ギルドに変わろうとも、妹と敵対することがあれば、迷わず潰しにいく。

 今回の件では、たまたま騎士団が使えそう(・・・・)だったので交渉を持ちかけたが、そこに国への忠誠なんてものは微塵もなかった。


「……家族のため、か」


 ダレンは噛み締めるようにこぼし、やがて小さく頷く。


「その取り引き、受け入れよう。ただし、貴様の言葉をすべて鵜呑みにしたつもりはない。こちらでも調査を進め、当然介入もさせてもらう」

「えぇ、構いません。薬剤による混乱への対処は、騎士団の方が適任でしょうから。こちらとしても、目的に専念できて助かります」

「では、証人はランティス殿で構わないか?」

「そうですね。お願いできますか? ギルド長」


 同時に見つめられ、後ろで一人狼狽えていたランティスは「はいっ」と硬い声で返事をした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。