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AHEAD~再動したパーティは止まれない~  作者: あこね
第七章

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2話 騎士団長への報告


「お前、そういう格好がほんと様になるな……」

「お褒めにあずかり光栄です。ギルド長もなかなかお似合いですよ」


 ランティスの恨めしげな視線を、トーカは爽やかな笑みで受け流す。

 今日の装いは、細かな刺繍の施されたミッドグレーのロングジャケットに、銀の装飾ピンで留めた黒い立ち襟という正装だ。

 隣で眉間にシワを寄せているランティスも、いつものくたびれたシャツ姿ではなく、糊のきいた白襟にグレーのベストと、その上からネイビーのロングコートを羽織る格式ばった服装をしていた。


 王城の西側に位置する騎士団棟。

 夕日に染まるその廊下を、案内役の騎士に続いてトーカとランティスは歩いていた。

 窓枠や燭台にあしらわれた装飾は、王城らしい荘厳さをかもし出し、象牙色の壁には紋章入りのタペストリーが整然と並んでいる。

 足音を吸い込む深紅の絨毯をしばらく進み、廊下の突き当たりまで来ると、木目鮮やかな両開きの扉には《騎士団長室》と記された真鍮のプレートがはめ込まれていた。

 騎士が小さく咳払いをして、緊張した面持ちでノックする。


「……入れ」


 くぐもった低い声が届き、静かに扉が開く。

 招き入れられた重厚な室内には、鋭い眼光をこちらへ向けるダレン・ベルフォールが、正面の執務机に座っていた。

 赤金二色の刺繍を施された白い軍服に身を包み、背筋を伸ばして腕を組むその佇まいからは、騎士団長としての威厳が滲んでいる。


「冒険者ギルド長、ランティス・マクレーン殿をお連れしました!」

「御苦労。下がって良いぞ」

「はっ!」


 声を張った騎士は勢いよく一礼し、ちらりとトーカを見てから、足早に部屋を出ていった。

 扉の閉まる音が響くと、ダレンがおもむろに引き出しを開ける。

 取り出したのは、見覚えのある細長い小瓶。

 黒々とした液体が揺れるそれをコトリと机へ置き、ダレンはゆっくりとこちらへ視線を戻した。


「御足労感謝する、ギルド長殿。……そちらは、確か鏡鎧蜂(ミラビー)討伐作戦に参加していた冒険者の方でしたかな?」

「はい。今回の件で問題の薬剤を発見し、回収したのが彼です。詳しい状況を証言させるため、同行させました」


 いつになく硬い声を出すランティスの横から、トーカは一歩前に出る。


「トーカ・ロットと申します。貴重なお時間をいただき感謝いたします、ベルフォール騎士団長。概要はギルドからの報告で把握済みと伺いましたので、私からは現地で確認したことについてお話できればと」


 そう言って、いつもと変わらない笑みを浮かべる。

 ダレンはそれを真正面から受け止め、値踏みするように目を細めた。


「では、こちらから聞こう。報告書に『人為的に調整された薬剤である』と記されていたが、何を根拠にそう判断した?」

「この薬剤に魔力が含まれているためです」

「魔力……? 今回、朱猿(フレイムエイプ)が魔窟化したのは、薬剤の摂取が原因なのだろう? それだけの膨大な魔力があれば、拒否反応も相当なはずだ」

「えぇ、ですから『人為的である』と考えました。本来、体内の魔力は自身以外のものへ強い拒否反応を示しますが、この薬剤に対しては、その兆候が一切見られませんでした。さらには、使用した痕跡を隠蔽するかのように、数時間と経たずに魔力自体が消えてなくなる。こんなもの、意図的(・・・)に設計でもしない限り、持ち得ない性質です」


 顎に手を当てたダレンを見つめ、トーカは淡々と続ける。


「私個人の知見に過ぎませんが、薬剤にここまで手を加えるのは『製品化』まで見据えている場合がほとんどです。魔力の増幅という絶大な利益を生む以上、その価値を利用する何らかの目的があると見るべきでしょう」

「……秘密裏に、広めようとしている者がいると?」

「少なくとも、偶然出回ったものではないかと。そして、この薬剤の流通元には、ファウグス伯爵の息がかかった商会の名が複数上がっております」


 視界の端でランティスが息を飲む。

 報告書には一切記さなかった、貴族の影。

 それをこの場で初めて聞かされ、彼の顔には驚きと困惑が入り交じっていた。

 だが、目の前のダレンは眉一つ動かさず、変わらぬ眼光をこちらへ向ける。


「貴族の名を口にするとは……確かな証拠があるのだろうな?」

「裏付けまではまだ。ですがここ数年、伯爵が支援している研究については、騎士団長もご存じなのではないですか?」


 挑発するように視線を返せば、ダレンは一瞬の沈黙を落として低く呟く。


「……合成魔獣(キメラ)か」

「えぇ。十七年も前に規制されたその研究へ、自ら商会を持つほど収支に厳しい伯爵が、多額の資金提供をしている。そして、薬剤が広く出回り始めたのが一年ほど前です」

「それだけで伯爵を薬剤と結びつけるのは、早計なのではないか?」


 トーカはあえて視線を外し、小さく息を吐く。

 ゆっくり瞬きをすると、塗り固めた笑みをわずかに崩した。


「合成魔獣(キメラ)の研究が、どんなことをするものなのかご存知ですか?」

「いや、詳しくは知らんな。ただ、規制の目的が非道な実験を抑制するためのものであった、というのは聞き及んでいる」

「非道な実験……確かにそうですね。合成魔獣(キメラ)は、本来掛け合わさることのない別種の魔物同士を、人工的に混ぜ合わせて作ります。その際におこなわれるのは、魔力を含む血液の投与と、体の部位や魔核の移植です」

「そんなことをすれば、それこそ拒否反応が起こるだろう」


 訝しげな顔で、ダレンが遮るように問う。


「おっしゃる通り、他者の魔力は異物ですから、多量に取り込めば、たとえ同種であっても身体が強く拒絶します。その結果、移植部位の壊死や臓器不全を引き起こし、命を落とすことがほとんどです」

「しかし、最近は多くの成功例が出ていると報告が上がっているが……?」

「そのようですね。本来なら避けられないはずの拒否反応を、どうやって克服させているのか。……例えば、体内へ入れた魔力を異物として認識させず、特定の作用を起こすことのできる薬。そんなものがあれば、可能だとは思いませんか?」

「認識させない、薬……」


 ダレンの視線が、机の上の小瓶へと落ちる。

 合成魔獣(キメラ)研究において最も大きな障害である、魔力の拒否反応。

 それを克服させる過程で、この薬剤が生み出されたのだとすれば、辻褄は合う。


「合成魔獣(キメラ)を作るには、莫大な費用がかかります。研究そのものを国が規制したということは、研究費などにも厳しい規定が設けられたのではないでしょうか。いくら伯爵の援助があるといえど、規定を超えて研究費を確保することはできない。……そこで『栄養剤』や『魔力の増幅剤』として、この薬剤を売りさばいた金を不足分に充てている。そうは考えられませんか」


 トーカの問いかけに、ダレンが初めて狼狽えた表情を見せる。

 小瓶を見つめたまま黙り込み、眉間へ深い皺を寄せていたが、不意にぴくりと眉を動かすと、顔を上げてこちらを見据えた。


「トーカ・ロットと言ったか。君はなぜ合成魔獣(キメラ)研究について、そこまでの知識を持っている?」


 鋭い光を宿す瞳が、一挙手一投足まで見逃すまいと細められる。

 しかしトーカは、そんな視線を真正面から受け止め――そして、柔らかく微笑んだ。


「僕は合成魔獣(キメラ)研究の被検体でしたから」

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