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AHEAD~再動したパーティは止まれない~  作者: あこね
第五章

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3話 作戦会議


「合同討伐、俺たちは構わないぞ」


 口火を切ったのはランティスの斜め横に座る壮年の男だった。

 黒髪短髪で軽微な鎧をまとい、腰には凝った装飾の剣を指している。

 いかにも剣士という装いだが、イコルネの右目には全身を絶え間なく巡る、柿色の魔力がはっきりと見えていた。


「ランティス、ここに揃ってるのはほとんどが初対面だろ。まずは紹介を頼めるか?」


 親しげな口調の彼に促され、ランティスは「そうだな」と立ち上がる。


「今回集めたのはBランクの三パーティだ。全員が魔法を得意とする《迅魔巫(スウィフトウィッチ)》、人命救助に定評のある《神奏の剣(エクセンシス)》、そして……まぁ、強さに関しちゃ頭ひとつ飛び抜けてる《ただ前へ(アヘッド)》。お前らに、ギルドの代表として騎士団への協力を頼みたい」

「へぇ、あれが《ただ前へ(アヘッド)》……噂の問題児か」


 興味深げにこちらを見る黒髪の男は、ランティスが座るのを待ってから口を開いた。


「俺はマルコ・ゾリードだ。さっきも言ったが、俺ら《迅魔巫(スウィフトウィッチ)》はこの依頼を受けてもいいと思ってる。騎士団とはぶつかることもままあるが、王都の危機ってんなら協力は惜しまねぇよ」


 マルコの言葉に同意するように、横に座る三人が頷く。

 彼らはそれぞれに盾、弓、杖を持っているが、体内魔力はマルコ同様滞りなく巡っていて、相当な魔法の使い手であることが見て取れた。

 魔法士らしき女性に至っては、魔力量がトーカと並ぶほどあるかもしれない。

 イコルネが魔力を観察していると、向かいに座る金髪蒼眼の男が口を開く。


「我々《神奏の剣(エクセンシス)》も協力しよう。王都のBランク冒険者として、民の命は守らねばならないからな」


 どこか演技がかっていて鼻につく喋り方。

 イコルネはそこでようやく、彼が先日トーカに潰されかけたライナー・アクエスであることを思い出した。

 新調したらしい鎧は前よりも厚く頑丈で、取り巻きの女性たちは恐ろしいものでも見るように、チラチラとこちらの様子を伺っている。


「僕らもいいよ。ランティスさんには散々お世話になってるし、たまには顔を立ててあげる」


 前の二組より明らかに軽い口調でトーカが言う。

 マリアテールとタイラーも乗り気なようで、机の資料へ熱い視線を向けていた。

 イコルネは正直、大人数での討伐はあまり好きではなかったが、倒したことのない魔物と戦えるという点にだけは胸が踊る。

 そんな思考を汲み取ってか、一瞬目の合ったトーカは楽しげに微笑んでいた。


「協力に感謝する。それでは早速、作戦の説明へと移らせていただこう」


 そう言ったダレンは、資料の中から四つ折りにされた大判の紙を広げる。

 そこには王都南側に広がる港と、東西にのびる海岸線を詳細に記した地図が描かれていた。

 地図には港から少し東へずれた場所に、目立つ赤のインクで丸印が書き込まれている。


「今回確認された鏡鎧蜂(ミラビー)の巣は、海に面した断崖絶壁の岩肌へ張り付くように作られている。

 構造上、海側からは巣の大半が剥き出しになっているので、破壊には好条件だ。したがって今回は、陸側から兵隊蜂を引きつける陽動部隊と、海側から巣を破壊する攻撃部隊とに分かれて作戦を展開する。

 足場として、魔道砲を搭載した船を五隻こちらで用意している。これを海上部隊の拠点とし、そこから魔法による一斉射撃を行う段取りだ。

 騎士団としては、陸側に前衛部隊を四十名、中距離から魔法支援を行う魔法士を十名配置する。

 海側には遠距離攻撃に長けた魔法士を二十名、船上の警備に騎士を二十名。

 そして海陸ともに索敵役を五名ずつ。加えて、治癒士および補給を担当する兵を二十名配し、全体の支援体制を整えている。

 以上で、我が騎士団からは百二十名。そこに貴殿ら冒険者が加わることで、総勢百三十名の大規模討伐となる。

 冒険者側の采配については、ギルド長殿に一任しよう」


 一通り説明を終えて腰を下ろしたダレンに代わり、ランティスが立ち上がる。


「それじゃあ、俺から冒険者の配置を伝えるぞ。まずは《迅魔巫(スウィフトウィッチ)》。マルコ、ドルトン、お前らは陸側の前衛だ。兵隊蜂を殲滅しつつ、魔法で騎士団の守護を任せる」

「おう」

「了解だ」


 マルコとともに、盾を持った鳶色の髪の大きな男が応える。

 纏う魔力はそれほど多くないが、揺らぎが少なく安定感のある萌葱色だった。


「ノックとレイシアは海側だ。魔法士団と一緒に巣の破壊にあたれ。それとレイシア、お前は戦況を見て治癒にも回ってくれ」

「分かったわ」

「おっけー」


 杖を手にした金髪の女性が微笑む。

 彼女の魔力は淡い桜色で、体を覆い尽くすほどの量が見事な球体にまとめられている。

 軽い口調で応えた弓を背負う鼠色の髪の男も、白緑の魔力がかなりの速さで体内を巡っていた。


「次に《神奏の剣(エクセンシス)》。ライナーは陸側の前衛だ。マルコの指揮下で動け。ルイット、サラ、ミル、エリナ。お前らは補給兵の警護及び救護拠点のサポートだ。それからマール、確か召喚士だったよな。使役してる魔物で索敵と伝令役に回れ」

「了解した」

「はい!」


 力強く応えたライナーは、髪色と似た派手な黄色の魔力。

 装備ごと包み込むような動きは、おそらく鎧も魔道具なのだろう。

 緊張した面持ちで頷く取り巻きたちは、魔力の揺れが激しくて視づらいが、Cランク相応のそこそこといった感じだ。

 だが、一人だけ索敵へ回され、声を裏返らせたマールの周りには、綿毛のような小さな魔力がいくつも浮かんでいた。


「あとは《ただ前へ(アヘッド)》。お前らは正直どこに入れても同じ気もするが……。トーカは海側、遠距離魔法で巣の破壊をしつつ船を守れ。タイラーとマリアテールは陸側前衛だ。とにかく蜂を減らせ。あとはイコルネ、お前は索敵だ。さっきから品定めしてるその魔眼で、戦場全体の把握と女王蜂の位置を探れ」

「はーい」

「おうっ」

「了解」

「わかった」


 揃って良い返事をしたイコルネたちへ、ランティスはこれでもかと眉を寄せて言う。


「お前らはとにかく勝手な行動するんじゃねぇぞ。今回は騎士団との連携が必要なんだ、上の指示をちゃんと聞いて動けよ」


 それを聞いたマルコが思わず吹き出す。


「ちょ、ランティス、そんなガキの遠足じゃねぇんだから」


 可笑しそうに笑うマルコとは対照的に、ランティスは眉間のシワをさらに深くしてため息をこぼす。


「こうでも言わねぇと聞かねぇんだよ……。あぁ、それからマルコ。お前には冒険者側の総括を任せる。指揮自体は騎士団主導だが、なにかあれば臨機応変に指示を出せ」

「ガキのお守りは俺の役目ってことな。了解」

「くれぐれも頼むぞ……」


 既に狼狽した様子でこちらを見たランティスへ、イコルネがヘラヘラと笑みを返すと、再び深いため息をつかれた。



 * * *



 会議が終わってダレンが退室した後、ランティスと話していたマルコがイコルネたちの元へやってくる。

 近くで見るとそれなりに背の高い彼は、四人の顔をぐるりと見回しながら楽しげに目を細めた。


「なかなかに猛者揃いって感じだな。噂は聞いてるぞ《ただ前へ(アヘッド)》」

「それは光栄だな」


 音もなく立ち上がったトーカが、マルコを正面から見つめ返す。


「十年以上活躍する熟練のBランクパーティに知られているなんて、僕らも有名になったものだね」


 トーカはいつもの笑顔だが、目の奥には値踏みするような色が濃い。


「そんなに警戒すんなよ。仲間として、一緒に戦うのがどんな奴らなのか気になっただけだ。ランティスからはよろしく言われてるしな」

「あなたは確か、ランティスさんと同期なんだっけ?」

「あぁ、それなりに長い付き合いだ。だから、あいつがお前らに手を焼いてたことも知ってる。やんちゃするのも良いが、あいつの顔に泥を塗るようなことはしてくれるなよ?」


 瞬時に場の空気が張りつめる。

 マルコの纏う魔力が、鋭い切っ先のようにイコルネたち四人へ向けられた。

 しかしその魔力は、トーカが広げた魔力によって掻き消される。

 なんの動作もなく行われている攻防に、イコルネが思わず腰の手を刀へ伸ばすと、トーカはちらりとこちらへ視線を向け、明るい声で言い放った。


「僕らの邪魔をしなければ、なにも問題はないよ」

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